刑事は公安系か?
「いえ、私自身が窃盗にあいましたから、そんなことかと、あてずっぽうで・・・」
「・・・そうですね。そうそう、その窃盗の件は署にはやく届けてください。てがかりになりますから」
「ええ・・・」
「もう一度ききますが、彼女、さっきあなたがいったようなことを、いってませんでしたか」
「はい?」
「たとえば、こういう話ですよ。金持ちの老人相手に、介護と称して売春行為をする。それに関連して、窃盗をはたらく。場合によっては殺しも。そういうことを組織的に行わされている・・・」
「・・・いいえ。しかし、刑事さん、そういうことなんですか、彼女がやっていたことは!」
「いや。あくまでたとえばの話です。そうですか。そんな話はしていませんでしたか。いや失礼。いや、すべては捜査中です・・・」
刑事は課長にむかって一瞬大きく目を見開いたかと思うと、またにこやかな表情に戻り、目をふせて手帳を見た。
そこへマリの再手術がはじまったと遠藤女医が知らせにきた。三時間はかかるという。刑事に目礼し、課長に向い、
「田村くん、患者の保証人ってことでいいのね。ドクターが了承したわよ」
そして手術同意の書類をさしだした。
「ああ」
課長は同意した。秋本刑事は課長を見て、「保証人ですか」と解せない顔をした。
「ええ。何だか他人と思えない」
課長は同意書にペンを走らせる。
「そうですか」
刑事は少し首をかしげたが、じゃあこれでいったん失礼、と部屋から退出した。が、引き続き病院内にはとどまるという。
同意書に署名し、遠藤女医に手渡すと、彼女も不可解だという顔をした。
「ほんとうに好きになったってわけ?」
課長は笑った。
「そうなんだよ」
遠藤女医は何かいおうとした。課長はそれをさえぎるように、
「いいんだよ保証人で。年がいもないけど、ぞっこんだから。短い人生を、彼女の保証人でいくんだ」
口からでまかせだったが、そういってみると、それが自分の生きる道にも思えた。ホテルでみたマリの奇麗な顔、さっき見た瀕死のマリ、交互に脳裏に現われた。
・・・だから遠藤くん、いまさら慰めの偽りの愛の告白はやめようぜ・・・
課長は照れ笑いみたいな表情でうつむいた、
「遠藤くん、君も仕事があるだろ、手術の経過は看護師にきくからさ、いいよ、僕のことはほっといてもらって。そこらで時間つぶしてくるから・・・」
まだ何かいいたそうにしている彼女を残して部屋を出ようとした。課長の背後で彼女の声がした、
「・・・体の調子はどう?大丈夫?」
「大丈夫だとも、君のくれた薬がきいているよ・・・」
課長は朗らかに答えた。
病院を出て近くの喫茶店に行き、課長は携帯をかけた。
「すまん。今夜は特訓は休みにしてくれ」
携帯の向うで激しい声。
「はあ?もうへたばったか、まあちゃん」
「ちがうんだ。きいてくれ、はげちゃん」
課長は事情をはげちゃんに話した。
「なんだって。そうか、あの事件のガイ者は、まあちゃんの例の財布泥棒だったか」
「ああ。それで俺は彼女の保証人になった」
「なんだよそりゃあ」
「自分でもよくわからない」
「恋か」
「そうかもしれない」
「おいさき短いからなあ」
「まあ、そういうなって」
「で、刑事が聞き込みしたろう。誰だ」
「秋本とかいったな」
「そりゃあ公安系の奴だ。気をつけろ。俺のいったことはしゃべらなかったろうな」
「まあ。しかし少ししゃべったか。はげちゃんから聞いたとはいってないが・・・」
「何をしゃべったんだ?」
「あのホテルのオーナーの件のさわり」
「まずいな。なにか勘づいたかも知れん。とにかく気をつけてくれ」
「わかった・・・」
・・・つづく




