大手術、再手術、聞き込み、・・・
「・・・いや、その。偶然に知り合いまして」
「偶然?」
遠藤女医が割って入る。
「お友達ですよ。それ以上の詮索は・・・個人情報ですし?」
「詮索ってあなた、そんな言い方ないでしょう・・・で個人情報?何いってるんだ。患者のプライバシーが優先だよ。お知り合いだという人には誰でも患者の病体を見せるんですか遠藤先生」
「すみません。でも、お知り合いに間違いないようです。全く身寄りの不明な患者さんとうかがっていますから、このさい、お知り合いでも、助けになるんじゃないでしょうか」
「面倒なことにならなければいいですがね」
「あの。この方のことは、私、請け合います。実は、私の大学の同窓の方です」
「ほう?」
男性医師は何と反応したらいいかわからず困った顔をした。たまらず課長は頭を下げて、
「申し訳ない。別にやましい仲とは思ってません。あることで知り合って、しかし、身の上話などもきいた仲です。彼女はずいぶんと気の毒な身の上で・・・」
「わかった。わかりました。とにかくここから出てください。こっちはそれどころじゃない。じきに再手術ですから。外でお待ちください。警察の方も来てるようですから、よかったら協力なさったらどうです」
顔の前で手を振って、男性医師は踵をかえし、集中治療室へと帰った。
遠藤女医が、課長に再度、確認する。
「間違いないのね、田村くん。あなたの好きなマリさんに・・・」
「好きな・・・?うん、間違い、ない」
「そう・・・」
「遠藤くん、どうだ。あの子、助かるか・・・」
「あの主治医、緒方さんっていうんだけど、優秀です。無愛想だけどね」
「そうか。それじゃあ・・・」
「ただ、私にくわしいことはわからない。外科のことだし主治医でもないし、わからないけど。ナースから聞いた話じゃあ、かなりリスク高いわね」
「そうか・・・」
「・・・あなた、親族に代って彼女の手術の保証人を引き受けられる?医師としては保証人がほしいところよ。緒方さんも了承するかもね。そうすれば、彼女のことは詳しく聞くことができる。引受けられる?」
「いいよ、もちろん、いいよ」
「じゃあ、かけあってみるわね。じゃあ、田村くん、待ち合い室で休んでたら?でも警察が来るわね。嫌なら、九階に食堂もあるし。適当にやってね。何かあったら私の医局、知ってるわね・・・」
「ああ。わかった・・・」
課長は遠藤女医と別れた。さきほど通りかかったロビーへと降りた。さっきの刑事が寄ってくる。
「おはなし、うかがえますか」
わりとにこやかに話しかけてきた。さしだされた名刺を見ると「秋本某」とある。テレビでみかける有名な作詞家を思い出した。病院で利用を許可した別室に行き、細長い会議テーブルをはさんで向かい合い座った。
「被害者とは、どういうお知り合いですか・・・」
メモを取り出し、課長の顔をのぞきこむ。課長はマリとのいきさつを正直に語る。
「ほう。ホテルの部屋を間違い訪問。珍しい出来事ですね」
「ええ。しかし、はじめから盗みが目的だったのかもしれない・・・」
刑事は課長の語ることを素直にそのまま信じ込んでいる顔。課長は逆に刑事にきく。
「財布は盗まれましたが、気になる。どうもそんなに悪い少女とは思えない。彼女、いったいどうしてあんなことに?」
「そこは捜査中です。もうしわけないがまだわからない」
「彼女、悪い奴に泥棒をやらされてたんでしょう?」
刑事の目が光る。
「なぜ、そう思います?」
「あのホテル。そういうやつらが経営しているとか・・・」
「ほう。そういうことがあるんですか?」
「・・・」
何をやって金持ちになったかわからないやつらがオーナーのホテル。
この話は、はげちゃんから聞いたわけだが、この刑事に話してよいものか課長は躊躇した。しかし少し間をおいて、刑事の方が話し出した。
「あのホテルは人材派遣会社の系列です。その派遣会社は、実に色々な派遣をやっている。派遣に関連して色々の仕事をする・・・」
「介護に行って、窃盗をするとか」
「ほう!そんな話、どこで聞かれましたか」
・・・つづく




