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俺ちょっとガンだから  作者: 新庄知慧
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暴行者たちはラインで集う

「おやじくん!」


 ところどころ銀色に染めたオールバックの髪。顔のピアスが闇の中で光る。イヤリングも光る。黒いレザージャンパーの若い男で、幼い顔で、高校生かもしれない。課長に笑いかける。


「もう一軒どうよ。キャバクラ」


課長は首を振る。


「だめだ。もう金がない」


「うそ。あるでしょ、いっぱい」


課長は手を振って否定する。しかし相手はあきらめない。


「うそはだめよ」


すると別の声。


「おっさん、ちょっと行こう」


その声の背後には黒い人影がさらにニ~三人いる。みんな、にやにや笑っていた。連中を見まわして。課長は目を細めた。


「みなさん、誰?」


どっと笑い声がおきる。課長はたずねる。


「お金ですか?」


人影の一人から、なに?という声がした。


「お金がほしいのですか」


 大きい声でいって、課長は相手の人数をかぞえる。


一人増えて五人になっている。人垣の向こうから、また数人やってくる気配。


誰かのケータイの着メロが鳴る。暗闇の中に、ケータイの明かりで不良の顔がグリーン色に浮かびあがる。


「うん、そうだよ。まだはじまらないよ。いそいで来な」ケータイに向かって面白そうに呼びかけてはしゃいでいる。また声がする。


「おじさん、財布盗まれたって?」


 課長はゆっくりと頷いた。


「だめだなあ。そういうこといっちゃあ。口が軽いよ。で、誰が盗んだの」


「知らないです」


「知ってるくせに」


「知らない。何の話。金がほしいんじゃないのですか」


「金はあとでもらうよ。四十万円くらいはあるんだろ?」


「なんだ、みなさん、あの店のまわしもの?」


「まわしもの?なんだ、その言い方。気にくわねえ」


「気にくわない?そりゃあ失礼。君らが、何をいってるのかわからないんですよ」


 また笑い声。カラスの群れが大喜びしてるような、いやな笑い声。もう、うんざりしてくる。カラスの一人がわめく。


「おっさん、退屈なんだろ?こっちも退屈なんだよ。そろそろはじめようぜ」


「はじめる?」


「ホラ!」


空気を切り裂く音がして、課長の肩に激痛がはしった。木刀か何かで撃ちつけられたのだと思った。


 課長は悲鳴をあげ、気を失いそうになる。また、あたりにカラスの笑い声がおこる。


 目の前に、オレンジ色の夕焼けが見えた。幻想。みたこともない街が見えた。


 マリの出身国?


 課長は叫んだ「○△×●▲」そこは中南米?まぼろし?


「ありゃあ、いい女だからな、○△×●▲のあれは。いちゃついたんだから、財布くらい安いもんだろ」


 もうすぐ死ぬんだから、なあ。おまえ、余計なこと聞いたんだよ。人買いの話さ。素人探偵しにきたんだろうって気づいたのさ。だから、ケータイで、人よびよせてさ。見世物にしてあの世へいってもらってもいいって聞いたんだよ。


 どのカラスがどの言葉をいったのかわからない。どのカラスの手が課長を殴り、どの足が蹴ってきたのかもわからない。無数の打撃や衝撃が続けざまに課長を襲った。


・・・それで、おやじくん、意外に口が軽いからね、困ったね。やっぱり死ぬのかなあ、僕たちにいじめられて。おやじくん、ひょっとして、いじめられっこだったでしょ?元祖おやじイジメラレっ子ね。やだねえ。


課長は痛かった。殴られ蹴られ痛かった。哀しくなった。激痛と哀しさとがひとつの頂点を迎えると、攻撃は小休止になった。連中もさすがに疲れたか。厭きたか。はあはあいう息が聞こえた。


「いったい、君たちは、自分が、なにをしている、か、わかって、いるの、か…」


そんな言葉が、息も絶え絶えながら意外に平然と、課長の口からこぼれでた。


「ぼくは、哀しいよ。同じ宇宙船地球の、乗組員なのに、こんな哀れな人を、たたいて、蹴って、笑って。君たち、それは、よくない、ことだよ」


けらけら笑う者がいた。気持わるい!と嫌悪する不良がいた。


 課長の言葉が、えらく気にさわったカラスがいた。


「気取るな!きどるな馬鹿野郎。きいた風なこというな馬鹿野郎。なんだてめえ馬鹿野郎。なめるんじゃねえ馬鹿野郎!」


狂気のごとく怒った。いよいよ容赦のない一撃がくりださえれるのだと思った。


「バカヤロウ!」


何度もいうなよ。わかったよ。バカはわかった、もういうな・・・


課長は心の中でつぶやいた。そして「神さま、もしあんたがどこかにいるなら、お許しあれ、この連中を、自分たちが何をしているのか、よくわかっていないのです・・・」と、まるで他人のセリフでなく自分自身のセリフであるかのように思うことができてしまった!


「バカヤロウ!うせろ!」


しかし、まただ。また馬鹿とおっしゃる・・・


爆発音がした。


パン!という、少し間のぬけた音。自分の頭がパンクしたかと思った。


何だ一体、ばか・・・そんなことするな急に・・・とか、声がした。とたんに、たくさんの足音がざわめき、波のようにひいていった。あたりが静かになった。


・・・誰かが課長の肩にさわった。


びくりとして、顔をあげた課長の目に赤い液体が流れ込み、まばたきするのも辛い。


 かすれがちな視力で見るむこうに、顔がある。


 その顔は、目をまるくして、驚いていた。



・・・つづく


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