93話 冒険者の愚行
「レインっ!」
「よかった、無事なのね」
みんなも起きたらしく、テントから飛び出してきた。
カナデ、タニア、ソラ、ルナ、ニーナ、みんな揃っている。
「……ふにゃ……」
……ニーナは、半分、寝ていたが。
まあ、それはいい。
ひとまず、みんな無事なようで何よりだ。
「グァッ」
テイムしていた熊がこちらに近づいてきた。
与えられた命令を忠実に達成したからなのか、どことなく誇らしげだ。
「よしよし、よくやったな」
「グォンッ」
「侵入者はどっちに?」
「グァッ!」
熊が南の方向を指さした。
南は? 南は特に何もないんだけどな……?
しばらく歩けば街に到着するくらいで、他に何もない。
とはいえ、熊がウソをついているわけがない。
熊に人を騙すような知能はないし、騙す理由もない。
どういうことだ?
「レインっ、こっちに来て!」
「タニア?」
何やら焦った様子で、タニアに呼ばれた。
言われるまま移動すると、そこは、捕虜を放り込んでおいたテントだった。
「見て」
言われるまま中を覗き込んでみると……捕まえたはずの捕虜がいない。
代わりに、切られた縄が落ちていた。
「どうやったか知らないけど、あいつら、逃げたのよっ。早く追いかけないと!」
「……」
「レイン?」
「逃げたにしては、おかしくないか? まず、落ちている縄が少ない。両手足を縛っていたから、全部ほどいたら、もっとたくさんの縄が残されているはずだ。それに、どうやってあんな状態から逃げた? 外部からの手助けがないと無理だ」
「それは……でも、実際に逃げてるわけじゃない?」
「そう、だな……」
よくわからないことは多いが……
捕虜が逃げ出したということは、確定だ。
早く追いかけないと、依頼失敗になってしまう。
テントの外に出て、みんなと合流する。
「レイン、何があったの?」
「捕虜が逃げた」
「にゃんですと!?」
「ソラ、ルナ。逃げた捕虜の行方を、魔法で追うことはできないか?」
「近くにいれば見つけることはできますが、すでに遠くに逃げられている場合は難しいです。有効射程距離が定められていますから」
「とりあえず、やってみるのだ。マテリアルサーチ!」
ルナが魔法を唱えて……
少しして、首を横に振る。
「お? 反応があったぞ?」
「本当か?」
「うむ。ギリギリ範囲内というところなのだ。ここから南に……500メートル、といったところだな。複数の魔力反応があるぞ」
「意外と近いわね」
「今なら簡単に追いつけるよ!」
「よし。カナデとタニアは俺についてきてくれ。ソラとルナとニーナは、オーグとクロイツに連絡を」
「あの二人にも連絡するの?」
「放っておいていいんじゃない?」
「そういうわけにもいかないさ。ここで無視したら、また難癖をつけられるかもしれないし……手を貸りるかもしれない」
「にゃー……レインがそう言うのなら」
「レインよ。そのことなのだが……あの二人は、北に50メートルの川辺で野営をしているのだったな?」
「そうだけど?」
「反応がないぞ」
「え?」
「あの二人組らしき反応はないぞ。今、北方向には誰もいない。人の反応は、南の方からだけだ」
どういうことだ……?
依頼を放棄した?
いや……あれだけ言いながら、放棄したということは考えにくい。
そうなると……
「……もしかして」
ふと、閃いた。
「ルナ。もう一度、魔力反応を調べてくれないか? ただし、今度はより正確な人数を知りたい。できるか?」
「ふふーんっ、我を誰だと思っている? 最強種なのだぞ。それくらいは朝飯前なのだ! 我の偉大な力を、主に見せつけて……」
「マテリアルサーチ」
「あぁ!? 我の出番なのに!?」
「ルナは前口上が長いんです。待っていられません……んっ、結果が出ました。魔力反応は七つありますね」
「やっぱりか!」
悪い予感が的中してしまい、思わず舌打ちをしてしまう。
「レイン、レイン。どういうこと?」
「オーグとクロイツだよ」
「にゃん? あの二人がどうかしたの?」
「二人が捕虜を逃がしたんだ」
「えっ?」
「いや、正確に言うと、連れ出したんだろうな。このまま街に連れて行って、手柄を横取りするつもりだ」
ソラは、魔力反応は七つと言った。
しかし、俺達が捕まえた密猟者は五人。
二人多い。
で……オーグとクロイツの姿が見当たらない。
そのタイミングで、都合よく、逃げられるはずのない捕虜が逃げ出した。
二人が関わっていると見て、まず間違いないだろう。
「人の獲物を横取りするなんて、やってくれるわね……!」
「卑怯なのだ! 我は、おしおきをしてやらなければ気が済まないぞっ」
「二人の言う通り、このまま逃がしてやる道理はない。捕まえるぞっ」
駆け出そうとして……
「ちょっと待った」
目を閉じて、周囲の気配を探る。
さらに思念波を飛ばして、目的のものを探し当てた。
とある昆虫と仮契約を交わす。
俺達を追随するように、ふわふわとした光球が現れた。
「……きれい」
「にゃー……これ、なあに?」
「夜になると発光する虫だよ。暗いから、明かり代わりにする」
「確かに明かりは必要だけど、でも、こんなのを連れていたら、あたし達の居場所がバレちゃうんじゃない?」
「向こうは捕虜を連れている。俺達の居場所がバレたからといって、逃げる速度を上げられるわけじゃないさ。問題ないよ。むしろ、追いかけているぞ、とアピールして、プレッシャーを与えることができるかもな」
「なるほど、それもそうね」
「じゃあ、行くぞっ」
合図で森の中に突入した。
夜の森は暗く、木の葉が月明かりを遮っているため、通常の状態ならば視界はかなり悪いだろう。
ただ、発光する虫のおかげで、俺達の周囲はほどよい加減に照らされていた。
足元が見えて、周囲3メートルくらいに光が届いている。
全力……というわけにはいかないが、それでも、ある程度の速度で疾走することができた。
おかげで、ほどなくしてオーグとクロイツに追いつくことができた。
「レインっ、見つけたよ! 8時の方角!」
カナデの言葉に視線をすばやく動かした。
夜の闇に紛れるようにして、複数の人影が動いているのが見える。
先頭に立つのはオーグ。
後方に立つのはクロイツ。
二人は俺達が捕まえた捕虜を連れていた。
捕虜達は足の枷は解かれているものの、その他は拘束されていて、二人に先導される形で闇夜の中を歩いていた。
やはり、この二人が関与していたか!
「カナデっ、タニアっ。連中の前に回り込んで、足を止めてくれ! 俺は後ろから挟み込むっ」
「了解!」
「一気に片付けるわよっ」
カナデとタニアが速度をあげて、それぞれ、左右からぐるりと回り込んだ。
さすがだ。
二人が本気になると、俺では追いつくことはできない。
「ここから先は……」
「通行止めよ!」
「なっ!?」
カナデとタニアはあっという間に、オーグとクロイツの前に回り込んだ。
その存在を誇示するように立ち止まると、先頭を歩くオーグが動揺するような声を漏らした。
「くっ、もう見つかるなんて……こうなれば、やりますよ、オーグ!」
「おうよっ、こんなガキ共に負けてたまるか!」
オーグは剣を、クロイツは杖をそれぞれ構えた。
おとなしく投降する、という考えは微塵もないらしい。
まあ、そうなるよな。
ここで抵抗しないような連中なら、そもそも、手柄を横取りしようなんて考えない。
さて、正念場だ。
絶対に、こんな連中には負けられない!
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、
評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
よろしくおねがいします!