773話 血判状
サクラが見つけた書類には、とある計画が記されていた。
武力をもって王城を制圧。
そのまま王族を排除。
そして、新しい体制を築き上げる。
謀反の計画書だ。
「まさか、こんなものが……」
「これ、本物かな……? 冗談で作られたもの……ううん、そんなわけないか」
隣で計画書を見るシフォンは顔を青くしていた。
たぶん、俺も似たような状態になっていると思う。
冒険者狩りに関わっているであろうアリオスを追っていたら、まさか、謀反を企む貴族のところに辿り着くなんて。
そんな流れ、さすがに予想していない。
「人間は、わざわざこのような計画書を用意するのですか? これが誰かの手に渡れば、一網打尽にされてしまうと思うのですが」
「これは計画書というよりは、血判状だな」
「血判状?」
「ほら、ここに指印があるだろう? 若干、茶になっているところを見ると、朱肉の代わりに血を使っているんだろうな」
「血で印をすることで、私は絶対に裏切りません、と宣誓するの。いわば、これはここに記されている者達の結束の証だね」
「なるほど、そのようなものを……時々、人間は不思議なことをしますのね」
イリスは興味深そうに血判状を見て、ふと、小首を傾げる。
「サクラさん。こちらから前勇者の匂いがしたのですね?」
「うん! した!」
「ということは、こちらの計画に前勇者が関わっているのでしょうか?」
「それは……」
ありえない話じゃない。
アリオスは勇者の称号を剥奪されて、一時、投獄されていたらしい。
そのことを恨み、謀反を起こす。
あるいは貴族達をそそのかす……それくらいはやりそうだ。
ただ、この計画と冒険者狩り……二つはどんな繋がりがあるのだろう?
まさか、八つ当たりで冒険者狩りをしているわけじゃないだろう。
なにかしら目的があるはずなのだけど……
でも、今はその関連性を見つけることはできない。
「レイン君、一度、城に行かない?」
そうシフォンが提案してきた。
「まだわからないことは多いけど、でも、この計画だけは急いで伝えないといけないと思う」
「……そうだな。そうしよう」
証拠は、この計画書があれば十分だ。
これだけ細かな計画を立てておいて、冗談でした、では済まない。
謀反の意思アリ、と判断されて当然だろう。
「では、このような場所からはさっさとおさらばいたしましょう。普段人が入らない場所なので、ちょっと匂いますわ」
「だな。急いで外に出よう」
「わふっ!?」
ふと、サクラの尻尾と耳がピーンと立った。
「レイン、レイン。ここに誰が来る!」
「えっ」
「一人……ううん、二人? 足音、する!」
まずい、
ここで見つかると、かなり面倒なことになる。
「シフォン、その計画書は元の場所に」
「でも、これがないと……」
「敵に不審に思われる方が困る。それに内容は覚えたから大丈夫。話を信じてもらうことに関しては、勇者であるシフォンの口添えがあれば問題ないはずだ」
王は賢い人だ。
証拠がないとしても、シフォンの証言があれば動いてくれるに違いない。
今は、この場を切り抜けることだけを考えないと。
金庫を出て、しっかりと閉めて、それから周囲を見る。
「えっと……みんな、こっちだ!」
小さな物置を見つけて、そこに駆け込む。
「うっ、これは……」
「せ、狭いですわ……」
「むぎゅう……」
物置は人一人入るかどうかといった絶妙な狭さ。
そこに四人も入ったのだから、ギュウギュウになってしまう。
「え、えっと……」
気がつけばシフォンの顔が目の前に。
それに体もあちらこちらが密着していて……」
「ご、ごめん」
「う、ううん……私の方こそ」
「……」
「……」
なんとも言えない雰囲気になってしまい、
「お二人で、なにを見つめ合っていらっしゃるのですか?」
「わふっ」
イリスとサクラの声。
二人はよく見えないのだけど、刺さるような視線を感じた。
「レインさま。後で、わたくしとも密着してくださいね?」
「ぼくも」
「妙な要求をしないでくれ。というか、静かに」
ほどなくして足音が近づいてきた。
サクラが言っていたように二人分だ。
足音の大きさからして、どちらも男だろうか?
大男か、あるいは巨漢か……そんな印象を受ける。
「物資の調達はどのようになっている?」
「ええ、ええ。なにも問題はありません。むしろ、当初の予定よりも早く進んでいるくらいです」
男二人の声。
どちらも聞き覚えがない。
「人については?」
「そちらも問題ありません。予定数はすでに確保しているため、このペースで進むのならば、1・5倍くらいになりそうです」
「順調だな」
「ええ、それはもちろん。連中、冒険者狩りをうまくやっているようで、決行の際は敵も減ることでしょう」
「……その前勇者についてだが、うまく扱えているのだろうな? 土壇場で裏切るなどあれば、目も当てられない結果になるぞ」
「それは大丈夫かと。得体の知れない連中を連れているなど、警戒しなければいけないところはありますが、敵になることはないでしょう」
「その根拠は?」
「あれだけのことをしていますからな。我々の懐に潜り込むスパイだとしても、あそこまではしないでしょう」
「……確かに」
「今は計画を詰めることを考えましょう。そのために、あなた様に見てもらいたいものがあるのですから」
「そうだな。確認させてもらおう」
やがて足音と声が遠ざかっていく。
たぶん、金庫の中に入ったのだろう。
「……みんな、今のうちに外に出よう」
そう促して、小さな倉庫から出た。
周囲に警戒しつつ一階に上がり、来たところから屋敷の外に無事に脱出することができた。
色々な情報を手に入れることができたけど、さらに多くの謎と疑問が増えた。
この王都で、いったいなにが起きようとしているんだ……?




