771話 時に強引に
「なんだ、お前達は?」
門番がこちらに気づいて、訝しげに声をかけてきた。
愛想笑いを浮かべつつ、なるべく明るく返事をする。
「すみません。王都を観光しているうちに迷子になってしまって……気づいたらここに」
「そうか、それは大変だな。道案内をしてやりたいが、あいにく、ここを離れるわけにはいかなくてな」
「いえ、そこまでは申しわけないので。ただ、道を教えてもらえると嬉しいんですけど……」
「ああ、それくらいなら大丈夫だ」
門番から中央通りへ向かう道を教えてもらう。
「この辺りは入り組んでいるからな。気をつけるといい」
「ええ、ありがとうございます。では」
門番に頭を下げて、その場を後に……
「ねえねえ、レイン。この屋敷から匂いが……」
「はい、サクラさん。行きますわよ」
「ふがっ!?」
イリスがサクラの口を塞いで、強引に連れて行く。
その後ろで、俺と同じように愛想笑いを浮かべたシフォンがぺこりとお辞儀をして……
そして、俺達はその場を後にした。
――――――――――
もちろん、本当に中央通りに行くつもりはない。
門番の目が届かないところへ移動したら、来た道を引き返す。
そして屋敷の近くの物陰に潜む。
「レイン、あそこの家から匂いがする。突撃!」
「それはダメ」
「くぅん……」
サクラの耳がぺたんと垂れた。
「ごめん、言い方が悪かったな。サクラの言うことを疑っているわけじゃないんだ」
「本当……?」
「本当だよ。アリオスの匂いがあの屋敷からしたってサクラが言うのなら、それは絶対だ。俺は信じるよ」
「えへへ♪」
サクラの頭を撫でると、尻尾がぶんぶんと左右に揺れた。
「なるほど、レイン君はこうやってたらしているんだね」
「わたくしも撫でてほしいですわ」
「……二人は真面目にやってくれ」
やれやれ、とため息をこぼしてしまう。
「それで……どうされるのですか? わたくしも、サクラさんを信じているので、あの屋敷になにかあることは確定だと思いますが」
「でも、どう見ても貴族の屋敷なんだよね。真正面からいっても捜査に協力なんてしてくれないだろうし、事件の関係者なら証拠隠滅とかされちゃうかもだし」
「そこが厄介なんだよな」
相手が貴族となると、あまり無茶はできない。
イリスやシフォンがいれば、力押しでなんとかなるだろうけど……
でも、権力という力を使われた場合、不利になるのはこちらだ。
ホライズンの時もそうだったけど、最低限、こいつが黒幕だ、という確証が欲しい。
現段階ではそれがない。
この屋敷の貴族はアリオスのことを知らず、協力しているのかもしれない。
あるいは、アリオスにいいように利用されているか。
どちらにしても、さらなる調査が必要だ。
「どうする、レイン君?」
「……こっそり潜入しようか。それで、もう少し情報を集めよう」
「らわん!」
サクラがびしっと敬礼した。
「……らわん?」
「ラジャーとわんを足した言葉。ぼく、オリジナル!」
「えっと……カナデの真似はしないでいいからな?」
「そうですわ。カナデさんは元気で明るいですが、あまり真似をしすぎると、頭が空っぽになってしまいますわよ?」
「……怖い……」
「大丈夫ですわ。そういう時は、淑女たるわたくしの真似をすればよろしいのです。そうすれば、サクラさんも一人前の立派なレディになれますわ」
「がんばる!」
さりげなくカナデ派から引き離して、自分のところに取り込む。
やっぱり、イリスは小悪魔だ。
「とにかく、潜入してみよう」
近くにいた鳥と仮契約をして、屋敷の周辺を探ってもらう。
結果、屋敷の裏手に勝手口が設置されていて、見張りもいないことが判明した。
「表に見張りはいて裏にはいないなんて、なんか怪しいね。罠かな?」
「罠にしては、ちょっとおざなりなような……とにかく行ってみよう」
今度はネズミと仮契約をして、念のため、表の門番の注意を引いてもらった。
その間に、俺達は裏口へ移動する。
屋敷の裏手にある勝手口は小さく、当たり前だけど鍵がかかっていた。
近くに物置とゴミ置き場がある。
さて、どうやって潜入しよう?
そう考えていると……
バキッ。
突然、鈍い音が響いた。
慌てて振り返ると、サクラが勝手口のドアノブを強引に回して壊していた。
「レイン、扉、開けた!」
「……」
「中、入る!」
俺は少し迷って、
「勝手はダメだ」
「キャイン!?」
こつんと、お仕置きで軽いデコピンをするのだった。




