707話 母
ソフィーティア・シュラウド。
太陽の光を浴びて、銀色の髪がキラキラと輝いていた。
容姿は綺麗の一言で、一児の母とは思えないほど若く見える。
……なんて思うのは、身内贔屓だろうか?
にっこりと優しい笑顔。
一緒にいるだけで心が落ち着くような、穏やかな雰囲気。
間違いない。
彼女は……母さんだ。
「おかえりなさい、レイン」
「え……あ……」
予想外の出来事に思考が停止してしまう。
なにか言わないと。
そして、本物なのか偽物なのか、見極めないと。
そうしないといけないとわかっているのだけど、でも、どうすることもできない。
「こらっ」
「いて!?」
いきなりげんこつを落とされてしまう。
「帰ってきたら、ただいま、でしょう?」
「え?」
「久しぶりなんだから、挨拶はきちんとしないとダメよ?」
「あ……うん。ただいま」
「よし」
母さんは満足そうに笑う。
その笑顔は、俺の記憶にあるものとなにも変わらない。
間違いない。
誰かが化けているというわけじゃなくて、彼女は、間違いなく本物の母さんだ。
でも……
「そちらの皆さんは、レインのお友達かしら?」
「妻なのだ! ……ふぎゃん!?」
「なにしれっと嘘を吐いて抜け駆けしようとしているんですか」
ルナがソラにおしおきされていた。
「えっと……彼女達は友達というか、仲間なんだ。俺、今は冒険者をやっているから」
「あら、そうなのね。てっきり、全員、レインのお嫁さんかと思ったわ」
「そ、そんなわけないだろう!?」
「だって、ねえ……?」
母さんは意味深な視線をみんなに向ける。
そして、ニヤリと悪い笑み。
なにか、よからぬことを妄想しているみたいだ。
「とりあえず、ウチにいらっしゃい」
「いいの?」
「ウチは宿をやっているでしょう? これくらい、問題ないわ」
「……うん、ありがとう」
ひとまず、今は母さんの好意に甘えることにした。
ただ……
その好意の裏に悪意が潜んでいるかもしれないから、決して気を抜くことは許されない。
――――――――――
母さんに宿に案内してもらって……
それぞれの部屋に荷物を置いて……
その後、一番広いカナデ、タニア、ソラ、ルナの四人部屋に集まった。
「ねえねえ、レイン。あの人がレインのお母さんって、本当?」
誰もが気になる質問をカナデが口にした。
それに対して、静かに頷いてみせる。
「ああ、間違いない。間違いないけど……」
「けど?」
「ありえないんだ」
あの日、母さんは死んだ。
直接、俺が死体を確認したわけじゃないけど……
後々で冒険者が調べたところ、死体の数と村人の数は一致していた。
他所から別の死体を運んで偽装した、っていう線もあるけど……
そんなことをする理由がわからない。
そしてなによりも、ありえないと断言できる根拠がある。
「あの人は……ソフィーティア・シュラウドは、確かに俺の母さんだ。喋り方とか雰囲気とか、色々と判断するポイントはあるんだけど……間違いない」
「息子のレインが言うんだから、そこは疑っていないけど……」
「ありえない、と言うのはなぜですか?」
タニアとイリスが不思議そうな顔に。
死んだと思っていた母親と再会することができた。
まずは、そのことを喜んでもいいのではないか?
そう言いたいようだ。
でも……やっぱり、ありえないんだ。
「……母さんは、俺の記憶の中にある姿とまったく変わっていないんだよ」
「え? それでは……」
「十年以上経っているはずなのに、なにも成長していないんだ。そんなこと、ありえないだろう?」
「「「……」」」
みんなが複雑そうな顔に。
俺の心境を考えてくれているのだろう。
「俺は……大丈夫だから」
「レインの旦那……」
「それよりも、今は話を先に進めよう」
これこそが、ユウキやサーリャさまが言っていた異常事態だろう。
滅んだはずのラウドネアが復興していた。
しかも、死んだはずの人も戻ってきている。
「むう……これはもしかして、カグネと同じ現象なのか?」
「その可能性はあるかもしれませんね」
カグネでは、幸せな幻の世界に取り込まれるという事件が起きた。
その時と状況は似ているけど……
「断言はできないけど、たぶん、違うと思う」




