686話 勝負の朝
翌日。
再びティナに潜入してもらったのだけど、思うように情報が集まらない。
研究施設が思っていた以上に広いこと。
それと、警備が厳重なこと。
この二点の問題をクリアーすることができず、足止めを食らっていた。
そして、昼過ぎ。
ティナが戻ってきて、休憩を挟んだ後、話し合いを行う。
「レインの旦那、すまんな……サクラもごめんやんで。ウチがもっとがんばれば、良い情報を手に入れられたかもしれんのに」
「ティナが謝ることじゃないさ」
「オンッ!」
ティナのせいじゃないとサクラも元気に吠えた。
「サクラさんのご両親は見つけられていませんが、しかし、ティナさんのおかげで研究施設の大まかな概要は把握できましたわ」
イリスは独自に作成した地図をテーブルの上に置いた。
全て手書きだ。
それなのに、専門の道具を使ったかのように精密で綺麗な地図だった。
「施設の半分は未だ不透明ですが……しかし、半分は把握することができました。これは全て、ティナさんのおかげですわ」
「そんな風に言われると照れるわー」
「オンッ!」
「サクラちゃんが、ティナさんは世界一のメイドだ、って」
「ありがとな、サクラ」
人形の体のティナはサクラの頭の上に乗り、全身を使ってなでなでをする。
昼間は幽体を使えないから不便そうだ。
「で……どうするんや?」
「そうだな……」
少し考える。
ある程度の情報を把握することはできた。
ただ、肝心のサクラの両親の居場所がわからない。
それと、不透明の残り半分のところに、恐ろしく危険な存在がいるかもしれない。
ただ……
かもしれない、ということを考えていたらキリがない。
時間が限られているため、勝負に出た方がいいかもしれないな。
「……よし」
「決まったん?」
「まだ全容は把握していないけど、これ以上、時間をかけるわけにはいかない」
一週間という期限があることもそうだけど……
サクラの両親が捕まっていたら、時間をかければかけるほど危険になるかもしれない。
「突入しよう」
その言葉を待っていたとばかりに、みんな、力強く頷いた。
「よっしゃ! たくさん暴れるでー」
「が、がんばりまひゅ!」
「オンッ!」
「ふふ……二度と再建できないように、今度は塵残さず消し飛ばしてさしあげますわ」
一人、とても物騒なことを言う子がいるのだけど……
まあ、やる気はたっぷりだった。
「いつ突入するん?」
「それは……」
――――――――――
翌朝。
陽が登るか登らないか、そんな微妙な時間。
俺達は突入の準備を終えて、洞窟の前まで足を進めていた。
こんなところで怪しい研究をしている連中だ。
当然、昼も夜も警戒しているだろう。
でも、朝は?
一番襲撃の可能性が高い夜を乗り切り……
太陽の陽を浴びて、否が応でも気が緩む。
その隙を突くことにした。
「イリス、頼む」
「ふふ、お任せください」
イリスは妖艶に笑い、力を行使する。
「来たれ、白の霧城」
深い霧があふれた。
それは生き物のように広がり、洞窟を侵食していく。
イリスが持つ撹乱の魔法……というか、召喚魔法か。
白い霧は視界を塞ぐだけじゃなくて、こちらの気配も隠してしまう。
潜入にはうってつけの魔法だ。
ただ、こちらも視界を塞がれてしまうから、ペアで行動することにした。
サクラは鋭い嗅覚を持っているため、視界が塞がれていても、ある程度は問題なく行動できる。
なので、フィーニアと一緒に。
イリスは術者なので、魔法の影響は最小限で済む。
なので、ティナと一緒に。
俺は単独行動だ。
動物を探ったりすることが多いから、人一倍気配には敏感だ。
あと、案内役の動物を使役すればいい。
だから、それほど問題なく行動できるはず、と踏んでいた。
「よし、いくぞ」
合図で洞窟に突入した。
中は霧に包まれていて、視界がゼロに近い。
でも、感覚である程度の道を判断することができた。
みんなも問題ないらしく、まっすぐ進んでいく。
今のところ敵はいない。
ただ、深部に近づけば近づくほど危険が増していくだろう。
できればまとまって行動したいのだけど……
「分かれ道か」




