682話 諦めなければなんとかなる
「教典に残ったアルトリウスの記憶の中に、サクラの両親らしい情報がありました。今言ったように、二人の男女の姿が見えたんです」
内容だけ聞くと、とても喜ばしいことだ。
ずっと行方不明だったサクラの両親を見つけることができた。
ただ……
素直に喜ぶことができない状況みたいで、ソラの顔色は暗い。
「二人は……捕まっているようでした」
素直に言っていいものか?
ソラは迷った様子ではあるが、変にごまかしても仕方ないと判断したらしく、そう告げた。
「なにかの研究施設のような場所に、囚われている二人の姿が」
「研究施設か……」
ラインハルトの話によると、アルトリウスは最強種や魔族を喰らうキメラとなっていた。
そのために、最強種を捕まえて研究していた……うん、話の筋は通るな。
「場所は?」
「すみません、場所までは……ただ、急がないといけないと思います。いつの記憶かわかりませんが、二人はかなり弱っている様子だったので」
ソラが見た記憶が十年前だったりしたら、もうアウトだろう。
でも、数日前の記憶という可能性もある。
うん。
暗い方向に思考を寄せても仕方ない。
希望を持って、プラス思考でいきたい。
世の中、諦めなければ大抵のことはなんとかなるものだ。
だから……
絶対に諦めてたまるものか。
「……ふむ」
ふと、イリスが思案顔に。
「どうしたんだ?」
「いえ。研究施設というのが引っかかりまして……ソラさん。それは、どのような研究施設だったかわかりますか?」
「大雑把なところしかわかりませんが……」
ソラが研究施設についての説明をした。
完全に把握することができなかったらしく、ところどころの情報は欠けている。
ただ、それでもイリスには十分だったらしい。
説明を聞くにつれて、その顔が険しいものになっていく。
……イリスが抱えている感情に、なんとなく予想がついた。
俺が考えていることが正しいなら、これは、イリスの傷に触れてしまうことになる。
ただ、サクラの両親の手がかりでもあるわけで……
どうするべきか悩ましい。
「大丈夫ですわ」
こちらの葛藤を見抜いた様子で、イリスが小さく笑う。
「アレはもう過去のこと。わたくしは、今、とても幸せなので」
「……イリス……」
無理をしていないか?
そう尋ねようとして、やめた。
強がりだとしても、イリスが言ったことだ。
きっと、イリスもサクラのことを考えての発言なのだろう。
なら、その気持ちを無駄にしてはいけない。
「イリスは心当たりがあるんですか?」
ソラはまだ気づいていない様子だ。
他のみんなも、まだソレに気づいていない。
そんなみんなに、イリスはサラッと言う。
「ソラさんが見たという施設ですが、おそらく、過去にわたくしが捕まっていた施設ですわ」
「「「……えっ!?」」」
あまりにもあっさりと言うものだから、みんな、ワンテンポ遅れて驚いていた。
「いくつかの特徴を聞いたところ、他に考えられないので。まず間違いないかと」
「え、えっと、その……ソラは、なんていうか……」
「あうあう……イリスよ、大丈夫なのか……?」
姉妹が慌てて……
他のみんなも気遣うような表情に。
でも、イリスはいつもと変わらない様子でにっこりと微笑んでみせる。
「さきほども言いましたが、あれはもう過去のこと。わたくしは、なんの問題もありませんわ」
嘘だ。
なにも気にしていないなら、険しい表情をするわけがない。
でも、イリスはみんなを気遣い、なにも感じていないフリをしている。
……強いな。
彼女の強さを俺も見習わないといけない。
「もしかしたら、サクラさんの両親は、わたくしと同じように人間に捕まっているのかもしれません」
「にゃー……そうだとしたら、絶対許せない!」
「焼き払うの決定ね!」
カナデとタニアが自分のことのように怒っていた。
「ただ……」
イリスが怪訝そうな顔に。
「あの研究施設が残っているのは不自然ですわね」
「どういうことなんだ?」
「過去、わたくしが完膚なきまでに破壊いたしましたので」
イリスはとてもさわやかな顔で言った。
なにもかもすべて粉々にしたと、とてもうれしそうに言った。
……うん。
気持ちはわかるんだけど、ちょっと怖いぞ?
ほら。
ニーナとフィーニアが怯えている。
「でも……そうなると、確かに謎だな」
過去に破壊されたはずの研究施設が復活したのだろうか?




