677話 将来的に……
「マスター……ラインハルトですの?」
「はい」
オフィーリアはあっさりと頷いた。
特に隠すつもりはないらしい。
「……ふむ」
見た感じ、ラインハルトは二十代か三十代前半。
ただ、数代前の勇者パーティーにいたという情報もあるため、見た目通りの年齢とは限らない。
オフィーリアが語るように、100年以上前に存在していたとしても、おかしくはないだろう。
……もっとも、なぜそのようなことを可能にしているのか、そこは不明のままだが。
「ラインハルトについて、教えてくださらない?」
「それはダメです。マスターの許可がなければ、情報を渡すことはできません」
「わたくしのお願いだとしても?」
「ダメです」
「ケチですわね」
イリスは頬を膨らませて拗ねた。
オフィーリアの前だと、ついつい昔のように子供らしくなってしまう。
「では、オフィーリア姉さま個人に尋ねますわ」
「なんですか?」
「わたくしの主……レインさまとラインハルトは、将来的に敵対する可能性はありますか? これは、オフィーリア姉さまの見解で構いません」
「それは……」
オフィーリアは少し考えた後、口を開いた。
「十分にありえることです」
――――――――――
「……と、いうようなことがありましたわ」
ユウキとサーリャさまとの話が終わり……
ちょうどいいタイミングで散歩をしていたイリスが戻ってきて、そんな話をしてくれた。
「ラインハルトが敵に……」
「オフィーリア姉さまは確たることは言いませんでしたが、その可能性は十分に高いかと」
俺と同じく、ラインハルトは複数の最強種と契約をしている。
本人の戦闘力も高く、底が知れない。
できるなら対立はしたくないけど……
「……たぶん、それは無理なんだろうな」
詳細はわからないが、ラインハルトには確固たる信念がある。
なにかを捨ててでもやり遂げなければならない目的がある。
その信念と目的は、たぶん、俺が望む世界と異なるもので……
いずれ、どこかで本格的に刃を交えることになるだろう。
そんな予感がした。
「色々と教えてくれてありがとう、イリス」
「ふふ、レインさまのためですから、これくらいなんともありませんわ」
にっこりと笑うイリス。
その後ろで、カナデ達がジト目になっていた。
「あと……よかったな」
「え?」
ぽんぽんとイリスの頭を撫でる。
「おめでとう、って言うのもおかしいけど……オフィーリアと話をすることができてよかった」
「……あ……」
「オフィーリアと引き合わせたいと思っていたんだけど、戦闘後、すぐに姿を消しちゃって……ぬか喜びさせてしまうかな、って、俺は積極的に動くことができなくて……ごめん」
「そんな! レインさまが謝るようなことではありませんわ。オフィーリア姉さまは、その……ちょっと変わった方なので、なかなか思うようにいかないかと。だから、気にすることはありません」
「そっか」
イリスを慰めるつもりが、俺が気を使われてしまった。
まだまだだな。
「イリスとオフィーリアは……姉妹?」
「ニーナ、それはちゃうでー。血は繋がってないみたいやからなー」
「ボク、詳しく聞きたいな」
「え? え?」
イリスとしては……
たぶん、ラインハルトやオフィーリアの対策を話し合うつもりだったのだろう。
でも、実際はそんなことはなくて、ただの雑談へ移行する。
イリスとオフィーリアの詳しい関係とか、昔の思い出とか。
みんな、そんなものを求めてあれこれと口を開く。
「えっと……」
イリスは困ったように俺を見た。
でも、問題ないと頷く。
ラインハルトやオフィーリア。
その他、彼が使役する最強種についての対策を話し合うことは必須だ。
でも、今じゃなくていい。
今はただ、イリスが姉と慕う同胞と再会できたことを、みんなで喜ぼう。
彼女を笑顔でいっぱいにしよう。
それが、今、一番やるべきことのような気がした。
「イリス」
「……はい」
「よかったら、オフィーリアとの思い出とか、教えてくれないか?」
「はい!」
イリスはにっこりと笑うのだった。
その笑顔は太陽のようで……
昔と違い、とても明るく輝いていた。




