592話 コツ
「やあ、カナデ。久しぶりだね」
「うん、お父さんも久しぶり」
久しぶりの父娘の挨拶は、実に気軽なものだった。
ハグをするとか、声を大きくするとか。
もっとこう、なにかあってもいいと思うのだけど……
生き別れになったというわけでもないし、まあ、こんなものなのかな?
「お父さん、なんでこんなところで釣りをしているの? 釣れた? お魚、食べてもいい?」
「ここの魚は焼いた方がおいしいから、家まで待ってくれるかな?」
「はーい」
頷きつつ、カナデの視線は釣り上げた魚から離れない。
ちょっとよだれも垂れていて、今すぐにでも食べたそうな雰囲気だ。
我慢できるのだろうか……?
「ところで」
フウリさんがこちらに視線を戻す。
「おせっかいをしてもいいかな?」
「え?」
「なにか悩んでいるみたいだけど、よかったら話を聞かせてくれないかな?」
柔らかく微笑みつつ、そんなことを言う。
こちらの警戒を解くというか、心にそっと入り込んでくるというか。
出会ったばかりなのに、不思議と親しみが持てる人だ。
さすがカナデの父親というべきか?
「えっと……それじゃあ」
せっかくなので話をしてみることにした。
猫霊族の里には、稽古のためにやってきたこと。
しかし、なかなかうまくいかず、壁を打ち破ることができないこと。
それらを端的にまとめて話す。
「ふむふむ、なるほどね」
「焦るべきじゃないのかもしれませんが……ただ、成果らしい成果がないと、どうにも」
「にゃー……レインは、すっごく強くなっていると思うけどな」
「ありがとう、カナデ。でも……」
壁を打ち破れていないことは確かだ。
このままだと、また後悔するかもしれない。
仲間に被害が出るかもしれない。
そんな最悪の事態は絶対に避けたい。
だから強くなりたい。
「とはいえ、どうしたものか」
答えが見つからない。
出口のない迷路に迷い込んでしまったみたいだ。
「そうだね……よかったら、僕と手合わせをしてみないかい?」
「え、フウリさんと?」
「うん。どうかな?」
「……わかりました、お願いします」
今はなんでもしたい気分だ。
フウリさんも力を貸してくれるのなら、ぜひとお願いしたい。
フウリさんは竿をカナデに渡して立ち上がる。
俺も竿を置いて、フウリさんと対峙した。
「うん、悪くない感じだね。こうして対峙するだけで、レインくんの力が伝わってくるよ」
「フウリさんも……これは、相当なものですね」
スズさんと対峙しているような、そんな錯覚を抱く。
穏やかそうに見えて、とんでもない力を秘めているに違いない。
そういうところは夫婦でそっくりだ。
「僕は防御と回避に徹するから、好きに攻撃していいよ。あ、魔法もアリで」
「わかりました」
やりすぎてしまうのでは? なんて、おこがましいことは考えない。
こうして対峙するとわかる。
実力は、フウリさんの方が遥かに上。
スズさんに匹敵する。
彼の胸を借りるつもりで、全力で挑まないと。
適当な戦いをしたら失礼だ。
「いきます!」
――――――――――
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
三十分後……俺は肩で息をして、膝に手をついていた。
対するフウリさんは、穏やかな笑顔を携えたまま。
「まさか、一発も当たらないなんて……」
「レイン、落ち込まないで! お父さんも、ちょっとおかしいだけだから!」
「カナデ……その説明は、僕も傷つくなあ」
娘のちょっとアレな指摘に、フウリさんは肩を落としていた。
ただ、それも少しの間だけ。
すぐに元の柔和な笑みを浮かべて、じっとこちらを見る。
「レインくんはとても強い。力だけじゃなくて、瞬時に判断することができて、とても的確だ」
「でも、フウリさんにはまったく届きませんでした」
「まだまだ若い者に負けるわけにはいかないからね」
「お父さん、歳のわりにはしゃぎすぎだよ。いつだったか、狩りの時にお母さんに良いところを見せようとしてはりきって、腰をやっちゃうみたいなことはやめてよね?」
「う……」
娘のジト目に父がたじろぐ。
「ま、まあ、それはともかく」
「ごまかしたにゃ」
「……それはともかく」
カナデ、その辺にしておいてあげて。
「レインくんは、戦術などはすでに完成されていると思う。もちろん、まだまだ伸び代はあるんだけど、それは身体能力とかそういう部分で、戦い方については教えられることはないかな」
「そうですか……」
「ただ、一つアドバイスを送るとしたら、自分だけの必殺技を身につけるべきだろうね」
「必殺技?」
「コレだ、と思う必殺技があれば、飛躍的に強くなれると思うよ。戦術の幅も広がるし、切り札も増える。良いことだらけだね」
とはいえ、必殺技なんてそうそう簡単に開発することはできない。
そのことをフウリさんも理解しているらしく、さらにアドバイスをくれる。
「僕らにとっての必殺技が覚醒のように、なにも攻撃に限定する必要はないよ。防御でもいいし、補助的なものでも構わない。あと、短所を補うよりは長所を伸ばした方がいいね。自分が持つ武器をさらに高める……そんな必殺技がいいと思うよ」
「なるほど」
実にためになる話だ。
今の話を聞いて、すぐに思いつくことはないのだけど……
でも、壁を壊すヒントは得られたような気がした。
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