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580話 これも稽古

 スズさんの尻尾が、途中から二つに分岐した。

 全身がバチバチと放電して……

 そして、頬に紋章が浮かぶ。


 スズさんは、金色に輝く瞳をこちらに向ける。


「さあ、いきますよ」

「そ、それは……」


 どこからどう見ても覚醒だ。

 スズさんもできたのか……というか、当たり前か。

 カナデが偶発的に辿り着いた境地も、スズさんならすでに踏破しているだろう。


 それにしても、覚醒状態のスズさんを相手にするなんて。

 正直、通常時でも相当に苦戦しそうなのに、覚醒をされると手に負えない気がする。

 少しは手加減をしてもらわないと……


「レイン、がんばれー!」


 ふと、カナデの声援で我に返る。

 突然のことで驚いていたけど、よくよく考えてみれば、これは良い機会になるのでは?


 俺は強くなりたい。

 二度と取りこぼすことがないように、力を手に入れたい。


 覚醒状態のスズさんに稽古をつけてもらえれば、それが叶うかもしれない。

 そうだ、怯んでいる場合じゃない。

 当初の信念を思い出せ。

 やるべきことをやらないと。


「お願いします」

「ふふ、男の顔になりましたね。そうこなくては」


 スズさんは満足そうに微笑む。

 それから、スイッチを切り替えるかのように笑顔から闘気あふれる鋭い表情へ。


 ピリピリとした感覚。

 スズさんの発する圧に飲み込まれかけているのだろう。


 軽い深呼吸。

 心を整えて、圧をはねのけた。


「いきますよ?」

「はい!」


 スズさんは、軽く体を前に倒して地面を蹴る。

 次の瞬間、スズさんが目の前に。


「速い!?」

「隙ありですね」


 視認できないほどの速度で迫ってきたスズさんは、その勢いのままに拳を繰り出してきた。

 気がつけば目の前に拳で迫っているような感じだ。


 慌てて体を捻り、ギリギリのところで回避。

 牽制のためにも反撃を……


 ……しようとして、すでにスズさんの姿が消えていることに気がついた。


「どこへ!?」

「こういう時は、だいたい、相手の死角にいます。今回は後ろですよ」

「なっ……」


 今度は間に合わない。


 ドガッ!


 強烈な蹴りを受けて、おもいきり吹き飛ばされた。

 一瞬、上下の感覚が曖昧になり……

 そのまま地面に落ちて、数十メートルくらいを一気に転がる。


 やばい、かなり痛い……

 フィーニアと契約した能力のおかげで、傷はゆっくりと回復しているのだけど痛みは消せない。


「というか……まだ一分も経っていないはずなのに」


 ここまで圧倒されてしまうなんて。

 体はまだ動くのだけど、戦意が衰えてしまう。


「がんばってー、レイン! お母さんなんてやっつけちゃえー!」

「相手の力はすごいけど、付け入る隙はあると思うわ!」

「ががが、がんばってくらひゃい!」

「……うん」


 みんなの声援が力をくれる。

 大丈夫だ。

 まだがんばることができる。


 立ち上がり、拳を構えた。


「お願いします」

「うんうん、がんばる男の子は好きですよ?」

「にゃ!? お母さん、お父さんというものがありながら、レインに……」

「カナデちゃんは、ちょっと妄想がたくましいですね」

「お母さんにまで言われた!?」

「今のはあんたが悪いと思うわ」


 いつもと変わらないみんなのやりとりが心地よく感じる。

 傍にいてくれる、ということを強く感じることができるから……うん。

 俺はまだ、がんばることができる。


「今度は、こちらからいきます!」

「はい、がんばるところを見せてくださいね」


 スズさんは余裕の表情だ。

 実際、手加減もしてくれているのだろう。

 カナデがしたように、電撃を収束されて殴る蹴るということをしていない。


 まさか、ここまで力の差があったなんて。

 多少は強くなったと思っていたのだけど……

 この前の事件でもそうだけど、まだまだ未熟だということを痛感させられる。


 でも、そこで諦めるのではなくて、食らいついていきたい。

 無様な姿を見せてでも立ち上がり、前に進んでいきたい。


「……ふっ!」


 息を吐き出すと同時に駆けた。


「ブースト!」


 まずは、魔法で身体能力を強化。

 それから、ニーナと契約した能力『物質創造』で、スズさんの周りに土の壁を作り、視界を遮断する。


 ゴガァッ!


 拳一つで壁が粉砕されるけど、構うことはない。

 元々、一瞬を稼ぐためのものだ。


「ファイヤーボール・マルチショット!」


 斜め後ろに回り込んで、複数の火球を放つ。

 連続で爆発が起きるのだけど、スズさんは、その全てを必要最小限の動きで回避していた。


 俺からしたら、ほとんど動いていないように見えるのだけど……なるほど。

 そういう回避の方法もあるのか。


 対象をじっと観察すること。

 ここにきて、ビーストテイマーとしての基本を思い出す。


「……そういうの、最近は忘れていたかもな」


 そんなつもりはなかったのだけど、みんなと契約をして、増長していたのかもしれないな。

 だから、スズさんは一度、俺をコテンパンにしようと思ったのかもしれない。

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◇◆◇ お知らせ ◇◆◇
既存の作品を大幅にリファインして、新作を書いてみました。

娘に『パパうざい!』と追放された父親ですが、辺境でも全力で親ばかをします!

こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

― 新着の感想 ―
[気になる点] 「お願いします」 「うんうん、がんばる男の子は好きですよ?」 >>「にゃ!? お母さん、お父さんというものがありながら、レインに……」・・カナデ達がもっと必死だったら・・ カ『レイ…
[一言] スズさん強すぎ! カナデがゴリラならばスズさんはスーパーマンだね! あ、別に怪力的な例えで言ってないって~!
[良い点] スズさんに圧倒的な戦力の差を見せつけられるも、敢えて徹底的に叩きのめされる覚悟で闘う主人公(レイン)……。ありですね。鉄は熱い内に打ってこそ、より鋭い刃にも何にでもなるものです。 今回、…
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