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521話 黒いアイツ

 時間的な猶予はあまりないと考えた方がいい。

 そう判断した俺達は、すぐに動くことにした。


 時間をかけるわけにはいかないため、準備は必要最低限。

 敵に見つからないように気をつけつつ、最大速で、タニア達が見つけた遺跡へ移動する。


 遺跡は、いつしかAランク昇格試験が行われた場所と似たようなものだった。

 おそらく、砦として建造されたものだろう。


 強固な外壁。

 高い見張り台。

 いくらかの魔法装置。


「これはまた、なかなかに厄介そうですわね」

「砦のような遺跡……それに加えて、たくさんの魔族。この警備をかいくぐって潜入するのは、けっこう厳しいんじゃない?」

「うむ。イリスとタニアの意見に同意なのだ」

「二手に分かれて、片方が陽動をする。その間に、もう片方が潜入をする、というのはどうでしょうか?」


 ソラがそんな作戦を提示してくれるのだけど……

 俺は少し考えた末に、首を横に振る。


「今回の敵……アルテラの本拠地は、間違いなくここだろう。敵の本拠地で戦力を分散するのはやめておいた方がいいと思う」

「では、どうするのだ?」

「そうだな……以前と同じ方法でいくか」

「以前?」


 以前を知らないユウキとグレイが首を傾げていた。

 そんな彼らに説明するように、近くにいたうさぎなどの小動物と仮契約を交わす。


「砦のような遺跡となると、隠し通路があちらこちらに伸びていてもおかしくはないからな。それを見つけてもらう、っていうわけだ。よし、頼んだ」


 小動物達を四方に散らす。


 何匹か、見張りの魔族に見つかるものの……

 俺がテイムしていることまでは気づかなかったらしく、なんだ動物か、と見逃してしまう。


 これなら、またうまくいくだろう。

 そう考えていたのだけど、結果は失敗に終わる。


 しばらくして小動物達が戻ってくるものの、秘密の入り口を発見したという報告はない。


「うーん……ダメみたいだな」

「入り口はないのですか?」

「いや、それはないと思う。けっこうな規模の遺跡だから、それなりの数の隠し通路があるはず。ただ……」

「魔族も遺跡のことを熟知していて、その大半を潰している、っていうこと?」

「ユウキ、正解」


 こちらが思っていた以上に、魔族達は用心深い。

 たぶん、ジルオールのことを警戒しているのだろう。

 相手が同じ四天王だから、これだけの警備網ができた、という感じか。


「どうする、兄ちゃん? 真正面突破、っていうわけにはいかねえから、やっぱり、そこのちっこい嬢ちゃんの言う通り、陽動をした方がいいんじゃねえか?」

「ちっこい嬢ちゃん!?」

「我が姉よ、その男は、きっとモテないのだろうな。日頃の台詞から、そのことがうかがえるぞ」

「そうですね。無遠慮でデリカシーというものがまったくありません。おそらく、何度も振られているのでしょう」

「俺が悪かったから、言葉の刃でガシガシと斬りつけるのやめてくれねえか……?」


 グレイは、ちょっと泣きそうになっていた。


 ソラは、ああ見えて怒ると怖く、容赦がない。

 あらかじめ、そのことを教えておいた方がよかったのかもしれない。


「ユウキはどう思う?」

「うーん……僕は反対かな。相手は、四天王を含む魔族の精鋭。戦力の分散は危険だと思う」

「わたくしも、ユウキさんの意見に賛成ですわ。さきほど、陽動を提案しておいてなんなのですが……全員で挑むべきだと考え直しましたわ」

「そうね、イリスの言う通りかも。あたしらは、まとまって行動した方がいいと思う」

「意見が割れたな……」

「レインが決めていいよ。僕達は、レインの判断に従うよ」


 ユウキが信頼の瞳をこちらに向けてきた。


 いや、ユウキだけじゃない。

 他のみんなも、俺に任せるという感じで、じっとこちらを見る。


 この信頼を裏切るわけにはいかない。

 絶対に応えてみせる。


「……戦力は分散しない」

「それじゃあ?」

「ただ、真正面突破もしない。やっぱり、秘密の通路を探そう」

「でも、それは失敗したんじゃあ……?」

「いや、なんていうか……とっておきの方法がある」

「またレインのとんでも能力? なによ、そんなのがあるなら、出し惜しみしないでよ」

「そうなのだ。今は急ぐ時ではないのか?」

「そうなんだけどさ。この方法は、とんでもなくまずいものだから、なるべくなら使いたくなくて……」

「……それほどまでに危険な方法ですの?」


 イリスが神妙な顔で問いかけてきた。


「いや、危険はない」

「はい?」

「危険はないんだけど、恐怖があるというか……まあいいや。今からやってみるけど、悲鳴だけはあげないでくれよ?」

「「「???」」」


 不思議そうなみんなの視線を受けつつ、俺は周囲の様子を探る。

 魔力を飛ばして、とある虫を呼び寄せる。


 カサカサカサ。


「「「ひっ……!?」」」


 現れた黒い物体に、女性陣、全員が顔をひきつらせた。

 ユウキも驚いていた。


 さすがというか、グレイは平然としている。


「い、いいい、イクシオンブラッ……!!!」

「き、ききき、来たれ異界の……!!!」

「ドラゴンブレ……!!!」

「待て待て待て」


 手加減ゼロ。

 全力の攻撃を叩き込もうとする女性陣を慌てて止めた。


「コイツは、俺が呼んだんだ」

「そ、そんなものを使役するの……?」

「まあ、嫌がる気持ちはわかる。俺も得意じゃないからさ。でも、コイツらって、気がついたら家の中に入り込んでたりするだろ? だから、小動物以上に、隠し通路とかを見つけるのに向いているんだ」

「そ、それはわかりますが……」

「だからといって、そんなものを使役しないでほしいのだ……」

「わたくし、反射的に見える範囲ごと焼き払おうとしてしまいましたわ……」


 ホントに嫌らしく、女性陣はできる限りの距離を取り、明後日の方向を見た。

 気持ちはわかる。

 俺だって得意じゃない、というか、苦手な方だ。


 でも、コイツらの力を借りないとダメだ。

 できることはなんでもする。

 その覚悟を示すかのように、俺は黒い小悪魔を使役して、隠し通路を探らせた。




――――――――――




「……よし、見つけた」


 三十分ほど探索したところで、無事、隠し通路を見つけることができた。


「れ、レイン、もう振り返っても平気……?」

「あの黒い悪魔はいませんか……?」

「あはは……ああ、大丈夫だ。仮契約は終わらせて、もう遠くへ行ってもらったよ」

「ふう……」


 女性陣は心底安堵した様子で戻ってきた。


 ちなみに……

 こんな方法をとったことで、後日、しこたま文句を言われしまうのだけど、それはまた別の話だ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「い、いいい、イクシオンブラッ……!!!」 「き、ききき、来たれ異界の……!!!」 「ドラゴンブレ……!!!」 「待て待て待て」 手加減ゼロ。全力の攻撃を叩き込もうとする女性陣を慌て…
[一言] エッフェル氏へ ええ、昔、「トリビアの泉」で紹介されてましたね。因みに補足としましては「御飯を齧る」というよりかは、神様に神饌を捧げる為の食器である「御器(ごき)」をも齧る程の虫という事で…
[良い点] 作者さん、この話しに因んでのトリビア(無駄知識)を 実は「ゴキブリ」は最初は「ゴキカブリ」と言われてたんです。 これはご飯をかじるから、それをもじってゴキカブリと言われてたんですよね。 で…
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