467話 フィーニアの恩恵
模擬戦を終了して、家に戻った後。
一部始終を見ていたフィーニアが、おどおどしつつ口を開く。
「えと、あの……レインさんの傷が治ったのは、たぶん、ですけど……ワタシと契約した影響、じゃないかな……なんて」
「それ、どういうことなんだ?」
「ぴゃあああ!? すみませんすみませんすみませんっ、ワタシなんかが偉そうな口をきいてしまってすみません!」
「大丈夫、そんなことは思っていないから」
「というか、レインの周りに集まる子って、みんな濃いわよね」
「あら、わたくしは至って普通ですが?」
「ある意味で、イリスが一番濃いじゃないの」
「あら?」
そんなことないですわよね? というような感じで、イリスがこちらを見た。
回答にものすごく困る。
「えっと……それで、どういうことなのか、フィーニアの考えを教えてほしいんだけど」
聞こえなかったことにして、話を先に進める。
「あ、はい。えっと、その、あの……」
みんなの視線がフィーニアに集中する。
それを受けて、フィーニアがあたふたと慌て始めた。
「あわわわ、もしもワタシの意見が間違っていたら、この娘はなにを言っているのだろうと怒られることに……あわわわっ」
「オンッ!」
「ひゃん」
慌てるフィーニアを落ち着かせるように、サクラが鳴いた。
そのまま、サクラはフィーニアの顔をぺろぺろと舐める。
「あは、あはは、くすぐったいよ、サクラちゃん」
「くぅーん」
「あ……うん。もう大丈夫だよ、なんとか、が、がんばるねっ」
サクラに勇気をもらった様子で、フィーニアは落ち着きを取り戻した。
とはいえ……
一つ一つの話で慌てていたら、けっこう大変なことになりそうだ。
どこかで、フィーニアの心を落ち着かせるような、そんな方法を探してみてもいいかもしれない。
「えっと、ですね……カナデさん達から聞いたんですけど、その、ワタシ達最強種と人間が契約をしたら、特殊な能力を得るとか。だから、レインさんの傷が治ったのは、その、えと……と、とても不本意で残念かもしれませんが、わ、ワタシと契約したからなの……かも?」
最後は疑問形だった。
そこは自信を持って断言してほしい。
「うむ、そうなるだろうな。レインは治癒の魔道具などは持っていないのだ。他の可能性はないと思うのだ」
「いえ。ルナ、そう決めつけるのは早計かと。レインのことだから、治癒能力に関しても、とんでもテイマーの力の一つかもしれません」
「む、そう言われると……」
「いやいや。さすがに、治癒能力なんて素で持っているわけがないから」
真剣に悩み始める双子に、俺は苦笑して手を横に振る。
俺、そこまで人を辞めているつもりはないんだけど……
普段、どんな風に思われているのかが、ものすごく気になる。
最近、ますます変な方向に加速しているような気がするのだけど、気の所為だよな?
「でもでも、治癒能力なんてすごいね! にゃー、レインってば無敵?」
「無敵というか、レインの旦那、最近けっこうな勢いで人間やめてきてへん?」
それは薄々自覚してきているので、言わないでほしい。
「でも、治癒能力はどれくらいのものなのかな?」
ふと、リファがそんなことを言う。
それに対して、ニーナがコテン、と小首を傾げる。
「どれ……くらい?」
「ボクも、ある程度の治癒能力はある。血は消費するけど、それなりの怪我なら自力で治せる。レインは、どれくらいまで?」
「……実験?」
「いやいやいや」
待った。
ニーナ、かわいい顔して恐ろしいことを言わないでほしい。
どこまでの治癒能力があるかどうかの実験なんて、実際に傷をつけて確かめるしかないじゃないか。
最初は小さな傷をつけて、治癒するかどうかを観察。
その後、少しずつ傷を大きくして……
やばい。
想像するだけでブルっと体が震えた。
「まあ、こればかりは実際に確かめるわけにはいきませんわね。わたくしとしては、とても興味がありますが……さすがに、レインさまの体を切り刻むわけにはまいりませんから」
「……なんてことを言いながらも、イリスは、なんで残念そうにしているんだ?」
「言ったではありませんか。わたくし個人としては、とても興味がありますの」
「頼むから、そんなことに興味を持たないでくれ……」
「にゃー、私も興味あるかも」
「あたしも」
「我もだ」
「ソラもです」
「わたし……も」
「ウチもやな」
「ボクも」
「わ、ワタシも……」
「オンッ!」
「みんな!?」
ここぞとばかりにみんなが賛成して、身の危険を覚えてしまう。
一歩、後ずさる。
そんな俺を見て、カナデが暗い笑顔を浮かべて、にじりよる。
「ふっふっふ……レイン、ちょっと調べさせてほしいな」
「ダメに決まっているだろう」
「おねがい♪」
「かわいく言ってもダメだ。そんな実験、させてたまるか」
「ちぇ、やっぱりダメかー」
そこまで本気ではなかったらしく、拒否するとおとなしく引き下がる。
「どうして、そこまで気にするんだ? そりゃあ、すごい能力だとは思うけど……でも、無理して調べなくてもいいだろう」
「だってだって、レインってば無理ばっかりするんだもん。だから、治癒能力にどれだけの幅があるのかわかれば、私達も少しは安心できるというか……にゃー、安心材料がほしいの」
「……あ……」
そういうこと……か。
カナデが言う無茶を、俺は否定することができない。
わりと自分の身の安全などは二の次で……
他のことを優先してしまう傾向がある……らしい。
エルフィンさんを説得する際、瀕死になるまで焼かれて……
そのことをみんなに知られた時は、無茶をしすぎだと、一晩中説教をされた。
申しわけないと反省はしたのだけど、でも、似たようなことが起きれば、たぶん、俺は同じことを繰り返すだろう。
理屈ではなくて、体が勝手に動いてしまうのだ。
みんなは、そんな俺のことを心配してくれている。
治癒能力があれば、少しは安心できるから……だから、気になる。
そんなところだろう。
「その……みんな、ごめん。いつも無茶をして、心配をかけて。申しわけないとは思っているんだ。ただ……」
「体が勝手に動いちゃう、でしょ?」
タニアが呆れた様子で言う。
「……すまない」
「いいわよ、もう。レインのそういうところにはもう慣れたというか、そうじゃないとレインらしくないというか……とことん付き合う覚悟はしているから」
「ですが、できるのなら、安心材料が欲しいのです。レインが危ない目に遭うと、ソラ達は、心をぎゅうっと鷲掴みにされるような恐怖と痛みを覚えるのです」
「心配、くらいは……させて、ほしいな……?」
「ああ……ありがとう」
みんなの優しさがとてもうれしい。
ちょっと泣いてしまいそうだった。
「ってなわけで」
ティナがニヤリと笑う。
「きちんとしたところが知りたいから、ちょっとくらいなら実験してもええやろ?」
「それはダメだ!」
前言撤回。
俺の仲間は、ちょっと怖い。
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