465話 やりたいことをやるだけ
「人の争いで滅んだ?」
「儂も詳しいことは知らぬ。その頃には、人間とは袂を分かっていたからな。ただ、風の噂で、そのようなことが起きたと聞いている」
「そうですか……」
いったい、モニカの家になにが起きたのか?
なにを思い、なにを考えて……
どうして、魔族の味方になるという道を選んだのか?
それはわからないが、もしかしたら、彼女にも同情すべき点があるのかもしれない。
イリスと同じように、そうするだけの理由があるのかもしれない。
ただ、イリスとは違い、俺と彼女の道が交わることはないだろう。
イリスと同じように、モニカの行動に正当な理由があるとしても……
あるいは、なにかしらの大義があったとしても……
彼女は、仲間を傷つけようとした。
それだけは見逃すことはできない。
モニカの行動に、なにかしら意味があるのだとしても。
彼女が刃を向けてくる以上は、俺も刃を抜く。
一番大事な仲間を守るために、どのような理由、大義があろうと、モニカを……斬る。
「お主は、どうするつもりだ?」
「できることなら事情を調べて、それなりの理由があるのなら、説得できればと思います」
「成功すると思うか?」
「たぶん、無理でしょうね。彼女からは、揺るがない信念のようなものを感じました」
「ならばどうする?」
「やれるだけのことはやって、それでもダメな場合は、斬ります」
「ふむ」
長はまっすぐに俺を見つめてきた。
こちらの心を覗き込んでいるような感じで、少し緊張する。
「ふむ……あれから、少しではあるが成長しているようだな」
褒められている、のだろうか?
長の感情はわかりづらいので、なんともいえない。
「話というのは、それで終わりか?」
「あ、はい。ひとまずは」
「なら、そろそろ終わりでいいか? 儂は長故に、他にもやらねばならぬことがあるのでな」
「わかりました。貴重な時間をいただき、ありがとうございます」
礼をして、長の家を後に……
「……なにかあれば、また来るといい」
「ありがとうございます!」
もう一度、ペコリと頭を下げて、俺は長の家を後にした。
――――――――――
「おっ、レインが戻ってきたのだ!」
「大丈夫ですか、レイン? 長にひどいことを言われませんでしたか?」
外に出ると、ルナとソラ、それとイリスの姿が。
俺のことを心配していたらしく、双子がまっさきに駆け寄ってくる。
「大丈夫。ひどいことなんて言われてないさ」
「むう、嘘は吐いていないだろうな?」
「顔を合わせているとはいえ、やはり、長は人間には厳しいので、ソラは心配になってしまいます」
心配してくれる二人とは対照的に、
「ふふっ、おつかれさまでした、レインさま。なにか収穫はありましたか?」
イリスは平然としたものだ。
たぶん、俺なら問題ないだろうと、信頼してくれているのだろう。
心配してくれることも、信頼してくれることも、どちらもうれしい。
こんなに素晴らしい仲間を持つことができて、俺は幸せ者だ。
そして……モニカは、仲間を傷つけようとした。
その真意は、今のところ不明なのだけど……
これからも刃を向けてくるのならば、こちらも、それ相応の対応で迎え撃つだけだ。
「む?」
「レイン、怖い顔をしていますよ……?」
「あ、いや。ごめん、ちょっと考え事をしていた」
「やっぱり、長との話が原因なのか? 我が姉よ。長に、ちょっと姉の手作り料理を食べさせてくるといいのだ」
「わかりました……って、どうして、ソラの料理が武器のように扱われているのか、説明を求めたいのですが?」
「ひゅーひゅー」
ソラに睨みつけられて、ルナは口笛を吹いてごまかした。
かなりわざとらしい。
「それで、レインさま?」
「ああ……真紅の涙の使用許可なら、きちんともらったよ。ほら」
ポケットから真紅の涙を取り出した。
「ふふっ、綺麗ですわね……しかし」
「どうしたんだ?」
真紅の涙を見るイリスの顔が難しいものに。
「コレにわたくしを封じ込めようとしたのですね?」
「ああ、そうだけど……」
「それにしては、やけに魔力量が多いというか、オリハルコンが持つ力を軽く超えているというか……なぜなのでしょうね?」
「そんなこと、あるのか?」
「普通はございません。だからこそ、わたくしも困惑しているのですわ」
なにか知らないかと、ソラとルナを見る。
しかし、二人は首を横に振る。
「我はなにも知らぬぞ?」
「ソラも知りません」
「強化の魔法をかけたとか、錬金術師が鍛えたとか、そういう話はありませんか?」
「いや、そんなことはしていないよ。持ち歩いているだけで、なにもしていない」
「ああ、なるほど……それですわね」
「どれなのだ?」
「レインさまの近くには、最強種ばかりです。その魔力にあてられているうちに、この宝石は自然と成長したのでしょう。オリハルコンではなくて……名付けるのなら、レア・オリハルコン、というところでしょうか」
「そんなものになっていたなんて……」
返し忘れていて、結果的にはよかった、ということになるのだろうか?
「レア・オリハルコンを使えば、レインさまの武器は数段もパワーアップするでしょう。ふふっ、ますます規格外の人間になってしまいますね」
「びっくり人間みたいに言われるのは不本意だけど……今以上の力を手に入れられるというのなら、うれしいことでもあるさ」
「あら、意外ですわね。レインさまのことだから、もっと謙虚な発言をするかと思っていたのですが」
「そうも言ってられない状況になってきたからな」
世界の裏に潜んでいる闇を知り……
それらは、よからぬことを考えていて、日々、暗躍している。
いつ牙を剥いて襲いかかってくるかわからない。
「リーンの一件もあるし、もっともっと強くならないと。それで、みんなを守らないと」
「レインよ、それは違うぞ」
「え?」
「レインだけがソラ達を守るのではなくて、みんなが協力してみんなを守るのです」
「レイン一人がなにもかも背負う必要はないのだ」
「そっか……そうだな」
また一人で暴走してしまうところだった。
俺もまだまだだ。
でも……足りないところは、今みたいに仲間が補ってくれる。
間違っていたら、それは違うと教えてくれる。
彼女達の優しさがとてもうれしい。
「こんなことを今更言うのもなんだけど、これからもよろしくな」
「うむ!」
「はい!」
「イリスも、よろしく」
「ふふっ、わたくしの全て、レインさまに捧げますわ。あ……すみません、少し席を外しますわ」
イリスがそんなことを言い、少し離れたところへ向かう。
そこには、アルさんの姿が。
――――――――――
「ごきげんよう」
「うむ、久しいのう」
わたくしが挨拶をすると、アルさんは気持ちのいい笑顔を見せてくれました。
かつては敵同士で殺し合いをしたというのに、まったく気にしている様子がありません。
いえ……殺し合いをしていたのは、わたくしだけなのでしょう。
アルさんは、最初からわたくしを殺すつもりはなくて……
レインさまと同じように、封印をして生かすという選択肢を決めていたのでしょう。
「お主のことは娘達から聞いていたが……うーむ、それにしても驚きじゃな。まさか、お主がレインのパーティーに加わっているとは」
「あら、別に不思議なことではありませんわ。わたくし、レインさまのことは好きですから」
「ふむ。娘達に強力なライバル出現、というところかのう」
「ふふっ」
「で……今日はどうしたのじゃ? お主なら、なんだかんだ理由をつけて精霊族の里には来ないと思うのじゃが」
「まあ、そうしようと思ってはいたのですが……やはり、きちんと話をしておきたくて」
「妾にか?」
「ええ」
わたくしは微笑み……
そっと、頭を下げました。
「あの時、わたくしを殺さないでくれて、ありがとうございます」
「ふむ……」
「あえて封印という方法を取ったこと、とても感謝していますわ」
「妾もお主の事情は知っていたからのう……全て悪いと断じるなんてこと、できなんだ。同情しただけじゃ」
「その同情は、とても大切なことなのだと、わたくしは教わりました」
プライドが高い方は、安い同情なんてまっぴらだ、と言いそうではありますが……
レインさまは、そんなことは言いません。
相手の気持ちになり、同じ想いを抱く。
それのなにが悪い?
そんな方で……
そして、わたくしも同じ想いを抱くようになりました。
「ですので、ありがとうございます」
「そうか……うむ。お主にそう言ってもらえると、妾もとてもうれしく思う」
「よろしければ握手を」
「うむ、和解じゃな」
わたくし達は笑いつつ、そっと握手を交わした。
この手に伝わる温もりがアルさんの優しさなのだと、わたくしは、今になってようやく知ることができた。
とても遅いのだけど……
でも、まだ手遅れではないはず。
そう、これからだ。
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