452話 好きにゃ
カナデ、タニア、ソラ、ルナがリビングに集合する。
そんな彼女達と輪を囲むようにして、俺もソファーに座る。
他のみんなの姿はない。
これから、とても大事な話をするため、席を外してもらっている。
本当はイリスにも参加してもらいたかったのだけど……
あいにくと、今日は姿が見当たらず、また今度にすることにした。
というか、イリスについては、ハッキリと……そういう言葉を聞かされたわけじゃないんだよな。
あんなこと、誰にでもするわけじゃないと思うが……
ただ、恩返しということを考えているのかもしれないと思うと、なんとも微妙なラインである。
「ねえ、レイン。あたしらを集めて、いったいどうしたの? 大事な話って聞いているんだけど……」
「ふむ。特に心当たりはありませんね。これからのことを話すのならば、みんなを集めるのが普通でしょうし」
「もしや、普段の我らの労をねぎらうために、サプライズプレゼントでも用意しているのか? 我は、甘いスイーツがいいぞ」
三人は心当たりがない様子だけど、
「……うにゃ」
カナデは、俺がしようとしている話を理解しているらしく、頬を染めて視線を逸らしている。
その尻尾は、ふにゃふにゃと落ち着きなく揺れていた。
「えっと、話っていうのは、つまり……ああもう、なんて切り出せばいいのやら」
「むう? なぜ悩む。難しい話なのか?」
「ある意味では、すごく難しい話かな。すごく悩ましい」
「もう、じれったいわね。なんのことかわからないけど、でも、あたしらならちゃんと受け止めてあげるから。だから、きちんと話してちょうだい」
「そうだよな……うん、わかった。ちゃんと話すよ」
みんなの問題ではなくて、俺も関わっている問題なのだ。
しっかりと話さないと意味がわからないだろうし、知ってしまった以上、逃げるわけにはいかない。
男として、きちんとみんなと向き合わないと。
「カグネでのことなんだけど……みんな、アルファさんの夢に取り込まれていただろう?」
「あの時はすみませんでした……一生の不覚です。使い魔であるソラが、レインの幻に取り込まれて、いいようにされてしまうなんて」
「あ、いや。別に、あの時のことを責めているわけじゃないんだ。怒っているわけでもない」
「それなら、どういう意味なのですか?」
「えっと……つまり、だ。俺はイリスのおかげで、一足先に夢から覚めることができた。それで、色々と自由に行動することができたんだけど……その際に、つまり……みんなの夢の内容を知ることになったんだ」
「「「……え?」」」
俺の言葉の意味が理解できない……というよりは、理解したくないという様子で、タニアとソラとルナがキョトンとなる。
一方のカナデは、ますます顔を赤くしていた。
「え? え? ちょっとまって。あたしらの夢の内容を知っているっていうことは、それじゃあ、もしかして……」
「ソラ達の気持ちは……」
「筒抜けなのか?」
「そういうことになる、かな」
「「「……」」」
沈黙する三人。
カナデは尻尾がギザギザに曲がるという、すさまじい反応を示していた。
「「「っ!!!?」」」
ほぼほぼ同時に、三人の顔がぼんっ、と赤くなる。
それにつられるように、カナデも耳まで真っ赤に。
「勝手に心を覗くようなことをして、ごめん! でも、誓ってもいいけど、わざとじゃないんだ。みんなの様子が気になっただけで、まさか、あんなことになっているなんて思ってもいなくて」
「「「……」」」
カナデを含めて、みんな、顔を赤くして俯いていた。
突然の告白、突然の展開に、頭が追いついていないのかもしれない。
「くっくっく」
ややあって、ルナが悪人ような笑い声をこぼす。
「ふはぁーっはっはっは! さすがだな、レインよ! よくぞ我の気持ちを見破った。それでこそ、我の主と言えるだろう」
「ルナ。照れ隠しにテンションを極限まで高くするのはやめた方がいいですよ。どう反応していいか、レインが困っていますし、なによりも自分もどうしていいかわからなくなりますよ」
「うむ……ぶっちゃけ、勢いで叫んでみたが、その後どうすればいいかさっぱりわからないでいたぞ」
「気持ちはわからないでもありませんが、やめてくださいね? 妹の奇行を見せつけられる姉の気分を理解してください」
ソラとルナは、なんだかんだで多少の余裕があるように見えた。
恥ずかしそうにしているものの、しかし、逃げたりごまかしたりすることはしない。
開き直っている、という表現が一番正しいだろうか。
一方で、一番大きな反応を示しているのはタニアだ。
「あ、あああああぁ……まさか、あんなところを見られていたなんて、レインに知られていたなんて……ダメよ、もうダメ。恥ずかしすぎて、あたし、もう生きていけないわ。そうだ、このままどこか遠くへ、ひっそりと生きていくことにしよう」
「待て待て待て」
羞恥のあまり、タニアはネガティブ思考に囚われていた。
そのまま放っておいたら、本当に秘境に隠居してしまいそうなので、慌てて声をかける。
「どこか遠くに行ってしまうなんて、そんなのやめてくれ!」
「止めないで! こんな辱めを受けて、あたし、レインと一緒にいられない!」
「言い方! っていうか、そんなことになったら俺が困る」
「なんでレインが困るのよ!?」
「タニアと一緒にいたいからに決まっているだろう!」
「っ!?」
さきほどの光景を再現するかのように、再び、タニアの顔がカァアアアと赤くなる。
「……レインってば、そういうところがダメなのよ」
「え? どういうところだ?」
「まったく……」
未だ恥ずかしそうにしているものの、落ち着きを取り戻したらしく、ソファーに座る。
「それで、レインよ。我らの気持ちを知った、という話をしたかったのか?」
「あ、いや。そうじゃないんだ。それと似たような話はすでにカナデとしていて……」
「「「……」」」
「にゃん!?」
三人にジト目を向けられて、カナデがたらりと冷や汗を流した。
三人の心の声を表現するのならば、この猫抜け駆けしたな? という感じだろうか。
「その時はイリスを助ける前のことだから、後で考える、っていう結論になったんだ。それで、今は色々と落ち着いて……みんなのこと、きちんと考えないといけないと思った」
「「「ごくり」」」
みんなが息を飲む。
俺がどんな結論を出すのか?
気になって気になって仕方ないのだろう。
期待……しているだろうな。
同時に、不安も覚えていると思う。
そんな彼女達のことを、俺は失望させてしまうかもしれない。
でも、考えて考えて考えて……
考え抜いた末の結論は、コレなのだ。
「ごめん! まだ答えは出せない」
ずっと考えた。
それこそ寝る間も惜しむくらいに考えた。
でも、結論が出ない。
みんなのことは大事な仲間だと思っている。
なにかあれば、命を賭けることも構わないと思っている。
ただ、恋愛対象として見たことはなくて、どう思っているのか、俺自身でも自分の気持がわからないのだ。
「今、無理矢理に答えを出すことはできるかもしれないけど、それはたぶん、お互いに求めている答えじゃないと思う。みんなのことが大事だから……本当に大事だから、そんなことはしないで、しっかりと考えたいんだ。納得するまで考えたいんだ。だから、すごく卑怯な答えになるんだけど、時間をくれないか? 待たせてしまうことは申しわけないと思うし、もしもその間に愛想が尽きたのなら、それも甘んじて受け止める。ただ、できるのなら……時間が欲しい」
「「「……」」」
みんなは無言だ。
こんな都合の良い答え……やはり、呆れさせてしまっただろうか?
不安に思っていると、ほどなくしてカナデがくすりと笑う。
みんなも笑う。
「にゃー、レインらしいね」
「それは、どういう……?」
「私達のことをきちんと考えてくれているところ、すごくレインらしいよ。普通なら、もっと適当な答えになっちゃうと思うし、あるいはこの場で誰かを選んじゃうと思うし」
「それをしないっていうのは、それだけあたしらの告白を真剣に考えてくれている、っていうことでしょ? 時間が欲しいっていうのは、必ずしも言い訳にはならないの」
「うむ。それは、誠実さの現れでもある。そんなレインだからこそ、我らは好意を抱き、一生を添い遂げたいと思うようになったのだ」
「ですから、あまり悩まないでください。ソラ達も、答えを急かすつもりはありませんし、むしろ、たくさん考えてほしいです。その方がうれしいです」
「みんな……うん、ありがとう」
みんなと笑顔を交わして、ひとまずではあるが、この問題は収束する。
……したと思っていた。
「さて」
タニアがにっこりと笑う。
ソラとルナもにっこりと笑う。
カナデが不思議そうな顔に。
「それじゃあ……抜け駆けをした泥棒猫におしおきしないとね」
「にゃ!?」
「ふっふっふ。我は、魔法の練習をしたいぞ」
「ソラは、新技術の開発をしましょうか」
……その後、大騒ぎを起こした四人は、揃ってティナに説教されることになったのだった。
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