↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

447/1236

447話 間者

 カグネの中心地から遠く離れた郊外に、ショコラの姿があった。

 いつものんびりとしている彼女ではあるが、今は、いつも以上に感情が感じられない。

 まるで人形のようだ。


 ショコラは指を噛むようにして、口笛を鳴らす。

 その音に反応して、一羽の鳩のようなものが現れた。


 一見すると鳩に見えるが、羽の先端が黒く染まっていたり、角が生えているなど、普通のものでないことがわかる。

 西大陸に生息する鳩の亜種。

 休みなく超高速で飛び続けることが可能なため、魔族の間で伝令によく使われている鳩だ。


 ショコラは伝令の文を取り出して、鳩の足に結んだ。

 伝書鳩だ。

 単純ではあるが、それ故に効果は大きい。

 魔法を使用していないため、結界などに引っかかることもないし、探知されることもない。


「行って」


 ショコラの合図で伝書鳩が羽ばたいた。

 すぐに空の彼方に消える。


 それを見て、ショコラはニヤリと笑い……

 次いで、驚きに目を大きくする。


 突然、伝書鳩が戻ってきたのだ。

 なにかトラブルが?

 驚きながら様子を見ていると、伝書鳩はショコラの元ではなくて……レインのところに降り立った。




――――――――――




「なんで……?」


 この展開は予想外らしく、ショコラは驚きの色を瞳に浮かべていた。

 それから、警戒するように、一歩後ろへ下がる。


「なんでもなにも、ないと思うけどな」

「なに?」

「彗星の剣の修理は極秘事項のはずなのに、カグネについたら、リーンが現れるし。北大陸に向かえば、同じくリーンとモニカが追いかけてくるし。どこかで情報を集めたにしても、あまりにも早すぎる」

「それは……」

「魔族にとって、東大陸は敵地なんだよ。そんなところで情報を集めるとなると、どうしても速度が制限される。敵地で迅速な行動なんて、ほぼほぼ不可能だからな。それなのに、簡単に情報を収集してみせた。普通の方法では無理だ。でも……間者が紛れ込んでいるとしたら?」

「……」

「そう考えるのは自然なこと。だから、この答えに辿り着いたことも自然なことなんだよ」


 腕に乗る伝書鳩の喉を指先で撫でてやる。

 クルルと鳩に酷似した鳴き声をこぼす。

 見たことあるようで、見たことのない種だ。

 ビーストテイマーとしての血がうずく。

 時間があれば、じっくりと生態を調査したいな。


 まあ……

 今は、コイツの対処をしなければ。


「どうして、私が裏切っていると?」

「ぶっちゃけると、特定はしていなかったんだよ」

「え?」


 あまりにも行動が先読みされすぎているから、間者の存在を疑うようになった。

 しかし、その正体は不明だ。

 自分達の周囲をじっくりと調べれば、正体を突き止めることができるかもしれない。


 ただ、そんなことをすれば、間者も疑われていることに気づくだろう。

 俺達に影を踏ませることなく、どこかへ消えてしまうに違いない。


 だから、間者を特定するような行動は避けた。

 その代わりに、次に取るであろう行動を予測して、分析して、罠を張ることにした。


 その結果が……これだ。

 ショコラという間者を突き止めることに成功した。


 いや。


 ショコラの姿をした誰か、というべきか。


「お前は誰だ?」

「私はショコラだけど?」

「いいや、違う。ショコラが間者なんてことは、絶対にありえない」

「どうして、そう言い切れるの?」

「シフォンの大事な仲間だからだ」

「……」

「彼女達の絆は本物だ。どんな事情があったとしても、裏切るなんてことはありえない」


 くすり、とショコラが笑う。


「砂糖みたいに甘い理想論だね。人間は、裏切る時は簡単に裏切るよ? 大事な人であろうと、なんであろうと」

「それでも、俺は信じるよ。彼女達の絆がなににも勝っていると、そう信じている」

「やれやれ……そんな幼稚な想いのせいで、私のウソが見破られちゃうなんて。うーん、ちょっとショック」


 ここまできたら、隠していても仕方ないと判断したのか。

 あるいは、意外と潔い性格なのか。

 ショコラの姿をした何者かは、口調を似せることを止めた。


「もう一度、問うぞ。お前は誰だ?」

「……」


 考えるような間を挟んだ後、ショコラの姿をした何者かはニヤリと笑う。


「うん、いいよ。私の正体、教えてあげる」

「……」

「そんなに警戒しなくてもいいよ? これは、私のことを見つけられたごほうびだから。それに……大体は、予想できているんじゃない?」

「……魔族なのか?」

「せいかーい♪」


 にっこりと笑い、その場でくるりと回転した。

 どういう仕組みなのか、その一瞬で彼女の姿が変わる。


 見た目は十歳くらいの子供の女の子だ。

 背は低く、体も触れただけで折れてしまいそうなほどに細い。


 銀色の髪は、軽くウェーブがかかっている。

 身につけている服はフリルがたくさんついていて、まるで人形のようだ。


「私の名前は、モナ。これからよろしくね」

「魔族とよろしくするつもりはないけどな」

「うーん、それでいいの?」

「なに?」

「あなた達人間は、私達魔族のことをなにも知らないでしょう? ただ単に、全ての生き物の天敵と考えている。なぜ、人間を襲うのか? 他の生き物を滅ぼそうとするのか? その理由について、なにも知らない」

「……」

「まあ、理由なんてどうでもいい、って考える人間は大半だけどね。うん。それはそれで正しいかな? 実際に、攻撃をしてくる敵がいて、相手の事情まで考える者なんて普通はいないからね。なにも考えず迎撃することは、それはそれで正しい判断。でも……」


 モナが笑う。

 見た目は小さな女の子なのだけど、その笑みは、とても邪悪だ。


「あなたは、それでいいのかな? 真実を知ることなく、ただ単に敵と定めて殲滅して……それで納得できるのかな?」

「魔族にも大義があると?」

「どうだろうね。人間側からしたら、大義になるかどうか、それはわからないかな。でも、私達には私達なりの理由があるの。まあ、全部の魔族が同じとは限らないけどね。ただ、少なくとも魔王さまには大義があると思うな」


 モナの言葉が真実だとしたら、とても気になる。

 見逃していいものではないだろう。


 ただ、


「今は、お前を捕まえることだけを考えることにするよ」


 いつでも動けるように構えた。

 さらに、モナの前後左右を囲むように、カナデ、タニア、シフォンが現れる。


 当たり前だが、俺一人で動いているわけじゃない。

 あらかじめみんなに話をして、いざという時のためについてきてもらっていた、というわけだ。


「うーん、これはちょっと不利かな? そもそも私って、変身できるだけで、戦闘はあまり得意じゃないんだよね」

「変身?」

「そうそう。見ていたと思うけど、私は誰にでも変身することができるの。それで、定期的にあなた達の仲間のフリをして潜り込んで、情報収集をしていた、っていうわけ」

「……色々と話をしているが、観念したということでいいのか?」

「まっさかー」


 モナは笑いながら、モニカが所持していたものと同じ、転移の魔道具を取り出した。


「逃げ道をすでに確保しているから、余裕を見せているんだよ。色々と教えてあげたのは、私を見つけることができたことに対するごほうび」

「カナデ!」

「にゃん!」

「それじゃあ、またね」


 カナデが風のように動くものの、それでも間に合わない。

 モナの姿は空気に溶けるようにして消えた。

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマークや☆評価をしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇

中身は最強黒騎士、外見は天使な幼女王女。
母が愛した国を守りたいだけなのに、侍女も騎士団もなぜか女神扱い!?
『最強黒騎士、幼女王女に転生する』を読む



悪役令嬢に転生したけど、妹が可愛すぎる!
妹をいじめる? とんでもない。むしろ溺愛します!
『 悪役令嬢に転生したので、メインヒロインの妹を全力で甘やかします 』を読む






Kラノベブックス様から書籍1~12巻、コミカライズはマンガUP!にて連載中で、コミック1~11巻、発売中です!

紹介ページへ 紹介ページへ
― 新着の感想 ―
[気になる点] 第605話で、モナの主人(マスター)で、 レインと同じ同郷で、ビーストテイマーである。ラインハルトが出てきましたよね。 モナがレイン達に潜り込む前、リースから色々とレインの事を聞かさ…
[良い点] 間者はおそれいった。 モニカの不思議能力でなんとかしていると思っていた [一言] これに限らず、後ろだと告げる不意打ち並みの不思議。 いろいろ話す前にまずは捕まえよ?
[一言] なるほど本人が買い物とかして不在の間に数分話して帰ってくる前に退散するって感じですかね? 初めの方でシフォン!?マジかよ…ってなりましたw そして万能な変身と転移のコンボはキツいぞ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。