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445話 これまでとこれから

 ずっと寝ていたせいで体力が限界だったらしく、イリスはすぐに寝てしまった。

 ただ、エルフィンさん曰く、一度目が覚めたのならば、もう危険はないとのこと。


 イリスのことはエルフィンさんとフィーニアに任せて、俺は外で戦うみんなの応援に。

 といっても、ほぼほぼ終わっていたらしく、大してすることはなかった。


 イリスを助けることができて、魔物も退けることができた。

 ほぼほぼ完璧な成果だ。

 もしもこの場にモニカがいたら、悔しがっていただろう。

 ざまあみろ。


「はい、お茶やでー」


 ティナがふわふわと浮かんで移動しつつ、みんなにお茶を配る。


 宿の一階に集合しているのは……俺、カナデ、タニア、ティナ、シフォン、エルフィンさん、フィーニア、アルファさんの八人だ。

 ソラとルナはずっと治療を続けてきた疲労で、今も寝ている。

 ショコラとミルフィーユも同じだ。


 ニーナとリファは、街の魔物を一掃するのに大きく貢献してくれたのだけど、その分疲れてうつらうつらとしていたため、無理矢理に寝かせることにした。

 サクラは、念の為に、俺が仮契約した動物達と一緒に周囲を警戒してくれている。


 俺達八人は、ひとまず情報の共有を行うことにした。

 色々なことが起きて、その対策を練るために話し合うことにしたのだけど……

 それ以前に、情報を完全に共有していないと、思わぬところで思考が抜け落ちてしまうかもしれないからな。


「しかし……色々なことが起きて、事態がどんどん複雑になっていくな」


 三十分ほど話をして、情報の共有を終えて……

 その後、俺は思わず頭を抱えそうになってしまう。

 それくらいに現状は大きく入り組んでいた。


 モニカのこと。

 魔族のこと。

 そして……アリオスのこと。


 色々な問題が急速に浮上してきている。

 俺の知らないところで、なにかが起きている。

 あるいは、始まろうとしている。

 そんな予感がした。


「モニカのこと、シフォンはあまり詳しくないんだよな?」

「うん、ごめん。前勇者……アリオスが追放されると入れ替わりに、私は勇者になったから。同時に姿を消したモニカのことは、ほとんど知らないの。評判とか人柄を人づてに聞くことはできるけど、直接顔を合わせたことはこの前の事件の時が初めてだから、なんとも」

「そっか……それで、ティナ。モニカは、確かに分家と言ったんだよな?」

「せやで。ウチは幽霊やけど、耳は良いんや」

「それ、幽霊関係あるの……? まあ、それは間違いないわ。あたしも聞いたもの」


 分家という単語を聞いて真っ先に思い浮かんだのは、自分のこと。

 王と謁見した時に知ったのだけど、俺は、勇者の一族の分家らしい。

 つまり……モニカも?


「シフォンは、勇者の分家についてどれくらいのことを?」

「えっと……ごめんね。私も詳しくは、というか、ほとんど知らないの。なにしろ、勇者になる前まで、自分が分家なんてことを知らなかったくらいだから」

「俺と同じような感じか」


 モニカはどのような事情を抱えていて、どのような背後関係があり、なにを目的としているのか?

 今のところ、人間に敵対的な行為をとっているということ以外、なにもわからない。


「ひとまず、モニカについてはここまでだ。今は情報が足りない。これからも情報を集めて、それで色々と分析していくしかないな」

「うん、そうだね。私の方から王に報告をしておくね。国が動けば、色々な情報も入ってくると思う」

「頼むよ、シフォン。それで次は魔族に関することなんだけど……」

「最近、彼らの動きは、これ以上ないほどに活発化していますね」


 アルファさんの言う通り、あちらこちらで活動を繰り返して、姿を見かけるようになった。


 エルフィンさんが深刻な顔になる。


「これはもしかして……魔王が活動を開始するのでしょうか?」

「心当たりが?」

「ええ。私は、数代前の魔王と戦ったことがありますが……」


 さらりとすごいことを言われた。


「休眠期が終わり、活動期に入る際、やはり魔族が活発に動いていましたね」

「ただ、魔族が活動を大きくしている=魔王が活動を開始する、と決めつけるのはいかがなものかと」


 アルファさんから異論が飛び出した。


「無意味に活動を広げているということはないと思いますが、魔王の活動開始に直結するのも、少々危険な発想かと。魔王が活動を開始するのではなくて、休眠を解除するために、なにかしら画策している、とも考えられませんか?」

「確かにその通りですね。なにか企んでいるのは間違いないでしょうが……魔王のためなのか、それとも個人の暴走なのか。それは、一概にどちらとも言えないでしょう」


 こちらの議題も、情報が足りないという結論に。

 頭が痛い。


「最後の議題だけど……ティナ。アリオスは、やっぱりモニカと一緒に?」

「せやな。それは間違いないと思うで。向こうも絶対に隠す、って気はないらしく、わりとわかりやすい態度をとってたで」

「……厄介だな」


 アリオスはモニカと行動を共にしている。

 そして、モニカは魔族と繋がっている。


「元とはいえ、勇者が魔族と一緒にいるなんて……前代未聞だぞ、これは」

「捕まえるなんて生ぬるい真似をしないで、あたしの炎で燃やしておくべきだったわね」

「おぉ……タニア、過激」

「ほ、炎……」


 タニアの発言にカナデがちょっと引いていて、なぜかフィーニアが反応していた。

 炎を扱える者同士、なにかしらのシンパシーがあるのかもしれない。


「アリオスのヤツ、いったい何を考えているんだ? 魔族と行動を共にして、それで何を得られるっていうのか……」

「案外、何も考えてないんじゃない?」

「カナデの言う通りかもね。アイツ、権力と名声しか興味ない、っていう感じじゃない。小物を代表するような存在よ」

「ひ、ひどい言われようだね……」


 容赦ないカナデ達の口撃に、シフォンが顔をひきつらせていた。


「私も同意見ですね」


 エルフィンさんが賛成を示す。


「勇者とはいえ、所詮は人間。放置しても、大した脅威にはならないでしょう」

「お、お母さん。でもでも、人間もレインさんみたいに、強い人は……」

「まあ……それもそうですね。ふぅ……どうもいけませんね。人間のことになると、思考が狭くなってしまうようです」

「えと、その……人間の魔法使いがああなったように、勇者も魔族化したら、と、とんでもないことになると思いますっ」


 フィーニアの言う通りだ。

 リーンが魔族化したら、エルフィンさんやシグレさんがいても、倒すのに相当の苦労を強いられるほどの力を手に入れた。

 もしも、勇者であるアリオスが魔族化したら?

 考えるだけで憂鬱だ。


「結局のところ、詳しいことはわからないけど、脅威が迫っていることで間違いない……っていう結論になるのか」


 情報を整理して、色々なことを話し合うものの、抜本的な対策などは思いつかない。

 ただ単に、敵の脅威を思い知ることだけに。


 モニカとその背後にいる者の目的がわからない。

 もちろん、居場所もわからない。

 どうにかしたいと思うものの、手の打ちようがないというのが現実だ。


「今できることといえば、いつなにが起きてもいいように、日頃からしっかりと鍛えておくくらいかな」

「あとは、警戒してもらうことだね。私、すぐに王都へ赴いて、王に進言してくるよ。なにをすればいいかわからないとしても、でも、心構えがあるとないとではかなり違うだろうから」

「そうだな、頼むよ。王なら、色々な対策を練るだろうし、もしかしたらその中で有効な手が見つかるかもしれない」

「うん、任せて。失敗続きだったけど、今度こそ、勇者らしいことをしないとね」


 今はまだ大丈夫かもしれないけど……

 この先、のんびりと冒険ばかりをしているわけにはいかなくなりそうだ。

 やがて訪れるであろう激動の時代に対して、俺は心構えをした。


「ねえねえ」


 ふと思い出したような感じで、カナデがシフォンに問いかける。


「王さまに報告とかはいいんだけどさ……その前に、彗星の剣の修理はしなくていいの?」

「「あっ」」


 カグネにやってきた目的を完全に忘れていた俺とシフォンは、間の抜けた声をこぼすのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >アルファさんから異論が飛び出した。 >「無意味に活動を広げているということはないと思いますが、魔王の活動開始に直結するのも、少々危険な発想かと。魔王が活動を開始するのではなくて、休眠を解…
[一言] あっ完全に忘れてた そして勇者(屑)の評価がw メンバーの強さの再確認と全員の練度、能力の増加をさらに実感させる為に弱くはない魔物をボコボコにする回を挟んでみては? 耐久特化の陸上首長竜…
[一言] なんでアルファが?と思ったら現在地はカグネか
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