427話 戦場は地上へ
「この……人間がっ!!!」
仲間を傷つけられて、娘を危険に晒されて、エルフィンさんが激怒する。
なにもしていないのに、チリチリと火の粉が舞う。
ちょっとしたきっかけで、豪炎があふれだしてしまいそうだ。
「その怒りはわかりますが、落ち着いてください。まずは、リーンをここから外に移動させないと。こんなところじゃうまく戦えないし、巻き込まれる人が出てきます」
「くっ、わかっています」
少し冷静さを取り戻してくれたらしく、すぐに炎を出すようなことはしない。
代わりに、視線だけで人を殺せるのではないかと思うほどに、リーンを睨みつける。
「……少しいいですか?」
今度は小声で話しかける。
「……なんですか?」
「……これから、リーンを外に追い出します。協力してくれませんか?」
「……人間に協力するなど、ありえません。先の一件を和解と勘違いされたら、困りますね」
「……それは」
「……と、言いたいところですが。今回は別ですね。わかりました。話を聞きましょう」
リーンに聞かれないように、そっと考えている策を伝える。
策といっても、単純なものだ。
リーンに聞かれたとしても、問題はないかもしれない。
単純故に防ぎにくく、どうしようもない、というところがある。
ただ、俺に対する嫌がらせとばかりに、おもいきり暴れられたりしたら困る。
ここまできたら、どちらにしろ衝突は避けられないのだけど……
戦うにしても、せめて周囲に被害の出ない外に追い出してからにしたい。
一歩、前に出る。
「リーン、お前……人間やめてまで、なにがしたいんだ? ここから、無事に逃げられるとでも?」
「はぁ? あんた、勘違いしてない?」
「勘違い?」
「なんで、あたしが逃げる必要があるの? これだけすごい力を手に入れたのに、そんな必要ないじゃん。あたしをコケにしてくれたお礼をしないとね。あんたら全員、皆殺しよ」
「本気か?」
「当たり前でしょ? あたし、なめられるのは大嫌いなの。あたしの価値、あたしの力、思い知らせてあげる! ほらっ、ひれ伏しなさいよぉ!」
「くっ」
ありえないほどの魔力が放射されて、その迫力に心が飲み込まれてしまそうになる。
コイツ、本当にリーンなのか?
彼女がこれほどの魔力を持つなんて、ありえない。
元の力の数倍……いや、数十倍になっているじゃないか。
人間をやめる代償として、相応の力を得たようだ。
これは、少し危ないかもしれない。
今まで戦ってきた相手の中で、最大の強敵と言えばイリスになるのだけど……
そのイリスよりも上かもしれない。
それだけの魔力、圧を感じた。
「心まで魔に染まったっていうのなら、相手をしてやるさ。ただ、外でやろう。ここだと、狭いからやりづらいだろう?」
「へぇ」
いいことを聞いたとばかりに、リーンがニヤリと笑う。
悪意に満ちたもので、とても人のものとは思えない。
「雑魚のくせに、他の連中のことを気にしてるの? 相変わらず甘いわねー。そういうことを聞かされると……嫌がらせをしたくなっちゃうじゃない!!!」
リーンの視線が、周囲で様子を見守っている不死鳥族達に向けられた。
まずは彼らを手にかけようとしているのだろう。
そこに合理的な目的なんてものはない。
ただ単に、俺が苦しむから。
それだけのために、関係のない人を殺めようとしている。
本当にふざけたヤツだ。
でも、思い通りになると思うなよ?
「んっ!」
「ちょっ、なによ!?」
リーンが他所に気をとられている間に、ニーナがこっそりと背後に移動していた。
俺のわざとらしい、不必要な発言から、こちらの望んでいることを読み取り、独自に動いてくれたのだろう。
ニーナなら、と思っていたけれど、見事に期待に応えてくれた。
あとで、いっぱい褒めてあげないと。
「ばい、ばい」
「このっ、ガキぃ!!!」
ニーナは亜空間に穴を開けて、その中にリーンを放り込む。
リーンは怒りの形相でニーナを睨みつけて、抵抗しようとした。
しかし、気づくのが遅かった。
その体は完全に亜空間の中へ。
ほどなくして空間に開けられた穴が閉じて、リーンの姿が消える。
「レイン。わたし……やった、よ?」
「ああ、ありがとう。ニーナのおかげで、すごい助かったよ」
「えへへ」
ニーナは三本の尻尾をひょこひょこと動かして、喜びを表現していた。
「あの女はどこへ?」
なにが起きたかわからない様子で、エルフィンさんはそう問いかけてきた。
「えっと……ニーナ。リーンをどこに?」
「地上、だよ。わたし、まだ力弱いから、遠くに飛ばせない、の」
申しわけなさそうに言うが、気にすることはないと、頭を優しく撫でる。
というか、最適な展開だ。
ここに留まられると困るが、遠くに行かれても困る。
あんなヤツ、放っておくわけにはいかないからな。
「その子は、すごいですね。まだ幼いように見えますが、すでに空間操作を覚えているなんて」
「珍しいことなんですか?」
「あまりないですね。その子の才能がすごいのか、あるいは、急成長するような別の要因があるのか」
「えっへん」
褒められているとわかったニーナは、誇らしげに胸を張るのだった。
「とにかく、追撃しよう。地上に出たのなら、思う存分に戦える」
「そうですね……五人、私についてきなさい。残りの者は、万が一に備えて、里の防衛に徹するように。それとシグレ、手を貸してください」
「やれやれ。老体に鞭打つつもりかい」
「サボろうとしないでください。シグレは私に匹敵するほどの力を持つでしょう」
「最近、腰が痛むのは確かなんだけどね。まあ、仕方ないさね。あのような人間……いや、魔族を放置するわけにはいかないか」
エルフィンさん達不死鳥族とシグレさんも参戦してくれるらしい。
これ以上ないほど、頼もしい味方だ。
「あ、あのっ!」
声を震わせながらも、強い決意を宿した様子で、フィーニアが口を開く。
「ワタシも、つ、連れていってください!」
「フィーニア? なにを言っているの。あなたは、ここで待っていなさい。次期長なのだから、自ら危険に首を突っ込んでどうするの」
「そ、そうかもしれないけど……でもでも、次期長だからこそ、こ、この事態を放っておくわけにはいかないの!」
「それは……」
思わぬ主張をされたらしく、エルフィンさんは返事に困る。
ややあって、優しい目をフィーニアに向ける。
「まったく。この短期間で、あなたはどれだけ成長するのですか? 子供の成長には驚かされますね。ですが……母として、とても誇らしく思います」
「え、えと。それじゃあ、お母さん、ワタシは……?」
「同行を許可します。ただし、決して無理はしないように。あと、私の指示には絶対に従うように。わかりましたね?」
「あ……は、はいっ!」
驚きと喜びを半分ずつ混ぜたような顔をして、フィーニアは大きく頷いた。
「じゃあ……いく、ね?」
話がまとまったところで、ニーナが地上に続く転移門を開いた。
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