426話 大魔法使い
「この人間……私がよく知るタイプの、己を見ようとしない傲慢な心を持つ愚か者ですね。皆、遠慮はいりません。焼き尽くしなさい!」
エルフィンさんの合図で、複数の不死鳥族が激しい炎を呼び出した。
それを見たカナデは、尻尾が燃えてしまうと、慌てて部屋の端に退避する。
対するリーンは、余裕の笑みを見せていた。
いくら詠唱なしに魔法を使えるようになったとしても、最強種との力の差は大きい。
普通に考えて、不死鳥族の炎に焼かれてしまうだろう。
それなのに、リーンは怯む気配すら見せない。
力の差なんてないと言うように、自信たっぷりに魔法を披露する。
吹き荒れる炎の嵐を食い止めるかのように、氷の壁が四枚、出現した。
それらはぐるりとリーンの周囲に立ち、主を守る番兵のごとく、炎を受け止める。
「そのような児戯で、我ら不死鳥族の炎が受け止められるとでも?」
「逆に聞くけど、そんな火遊びであたしの魔法を貫けるとでも?」
勝利の女神が微笑んだ相手は、リーンだ。
氷の壁は、豪炎を前にしても砕けることはなく、山のようにずっしりと立ち、主であるリーンを守り抜いた。
それだけに終わらない。
氷の壁にヒビが入り、それぞれ十六等分された。
氷塊は己の意思を持つかのように、軽く宙を浮遊した後、高速で射出される。
見覚えがある。
あれは中級魔法の『アイスクラスター』だ。
拳大の氷塊を矢のごとく、高速で撃ち出す魔法。
しかし、今目の前で披露されたものは、まるで違う。
拳大どころか、顔以上の大きさ。
一つではなくて六十四個。
不死鳥族達は慌てて防ごうとするが、そもそも、反撃を想定していなかったのだろう。
最初の一撃で焼き尽くせると、そう思っていたのだろう。
故に防御も回避も遅れて、氷塊をまともに食らってしまう。
あちらこちらから悲鳴があがり、複数の不死鳥族が倒れる。
すぐに立ち上がる軽傷者もいれば、苦悶の声を響かせて、立ち上がることができない重傷者もいる。
「軽傷者は、重傷者を連れて後退しなさい! ただちに治療すること!」
「は、はいっ」
リーンの攻撃にやられるなんて予想外のはずなのに、エルフィンさんは動揺することなく、すぐに的確な指示を飛ばしていた。
さすが、長を務めているだけのことはある。
「人間が! 仲間を傷つけて、私を怒らせたこと、後悔しなさい!!!」
「そっちが最初に手を出してきたんでしょ? あたし、正当防衛しただけなんですけど?」
「減らず口を……!」
「だーかーらー、今度はあたしの番よね?」
リーンがニヤリと、悪意に満ちた笑みを浮かべた。
その手が淡く輝く。
「エルフィンさんっ!!!」
「なっ!?」
嫌な予感を覚えた俺は、咄嗟に、エルフィンさんの前に移動した。
エルフィンさんがなにか言おうとするが、今は聞いているヒマはない。
「物質創造!」
盾代わりに石の壁を作り上げた。
「重力操作!」
石の壁だけで足りるかわからない。
なので、さらに俺とリーンの間に斥力場を生成した。
直後、破壊の嵐が吹き荒れる。
「どーんっ」
からかうような声と共に、リーンの手から大量の魔力が放出される。
それもまた、見たことのある魔法だ。
異界の幻獣を召喚して、極大の雷撃を撒き散らす。
超級魔法『イクシオンブラスト』。
「しまっ……!?」
エルフィンさんを狙ったように見せかけて、この場にいる全員をターゲットにするなんて。
判断ミスを後悔する間もなく、紫電が部屋の中を駆け抜ける。
「んっ!」
ニーナは大きな亜空間の穴を作り出して、自分と、その隣にいたリファとカナデとフィーニアを雷撃から守る。
ただ、そこが限界らしく、少し離れた場所にいるシフォンにまで手が回らない。
そのシフォンはというと、
「サクラさん!」
自分の身を優先しないで、リーンの近くにいたサクラのことを気にかけて、飛び出していた。
サクラを背にかばい、迫りくる雷撃に手の平を向ける。
「ギガボルトっ!!!」
雷撃には雷撃を。
全力で放たれたであろう魔法は、紫電をなんとか迎撃することに成功した。
しかし、それは一時しのぎにすぎない。
新たな雷撃が生まれ、絡め取るようにシフォンとサクラを狙う。
「くっ……これじゃあ!」
「ありがとう、サクラを守ってくれて」
「え?」
二人の窮地を救ったのは、シグレさんだ。
闘気をその身にまとい、得意の超高機動でシフォンとサクラを救出して、雷撃から逃れる。
「ぐっ!」
俺とエルフィンさんにも雷撃が襲いかかる。
石の壁は10秒ほど保ったものの、そこで限界が訪れて砕けてしまう。
残された盾は、斥力場のみ。
重力の壁が雷撃を防ぐものの、その勢いに押されて、少しずつ侵食され始めていた。
慌てて魔力を注ぎ、補強するものの、猛烈な勢いに抗うことはできない。
少しずつ押されてしまい、斥力場の崩壊が間近に迫る。
「舞い上がりなさいっ!」
エルフィンさんが炎を生み出して、紫電を迎撃する。
「エルフィンさん!?」
「がんばって耐えなさい!」
「はいっ……!」
激励してもらったみたいで、力が湧いてきた。
諦めてたまるものかと、さらに魔力を込めて、重力の盾を完璧なものにする。
そのまま雷撃を全て払い除けてやる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
ほどなくして雷撃が収まる。
俺達は、なんとか防ぐことができたものの……
「うっ、あああ……体が、焼けて……」
「くっ……待って、いろ。今、治療を……」
さらに複数の不死鳥族が怪我を負う事態に。
それを見たリーンが、ひどく楽しそうに笑う。
「あはっ、あははは……あはははははははっ!!! なにこれ、なにこれ!? この力、ホントすごいんですけど! 超級魔法を使えるようになるだけじゃなくて、簡単に、詠唱なしに発動できるし。しかも、その威力は、最強種よりも上。誰も抗うことはできない! あはははははっ、見たか! これこそがあたしの力よ、あたしは……大魔法使いリーンよ!!!」
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