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423話 あと一歩のところで……

 ニーナのおかげで、魔物があふれ出してくる空間の歪みを封鎖することができた。

 そうとなれば、後は簡単だ。

 不死鳥族達と協力して、非戦闘員を守りつつ、侵入した魔物達を蹴散らす。


 途切れることなく、延々と現れるから厄介なのであって……

 増援を断つことができれば、ただの魔物の群れなんて敵じゃない。


 三十分ほどで魔物の掃討が終わる。

 その後、エルフィンさんの指揮の元、怪我人の手当や、念の為に四層に続く扉を強固に封鎖して……

 二時間ほどをかけて対処をする。


 そして……最後の問題に取りかかることに。


「……さて」


 主要なメンバーが長であるエルフィンさんの部屋に集まる。

 そんな中、エルフィンさんは凍てつくような視線で、拘束されているリーンとモニカを見た。


 その迫力に気圧されるように、リーンがビクッと震える。

 ついでに、隣で二人を見張るサクラとフィーニアも、ビクッと震えていた。

 自分に向けられたものではないと知りつつも、エルフィンさんの恐ろしさについつい……という感じらしい。


 それにしても……


「……」


 完全に詰んでいるというのに、モニカに大きな変化はない。

 焦りの色を浮かべることはないし、かといって、余裕ぶっているわけでもない。


 こうなることも計算のうちなのか。

 それとも、追いつめられているのだけど、それを表に出していないだけなのか。

 いまいち判断がつかず、どのように対処していいか迷う。


「一連の騒動は、この二人の人間によるもの……そうですね?」

「はい、そうですね。ちょっとした因縁があって……それで俺の邪魔をしにきたか、あるいは、最強種である呀狼族や不死鳥族を狙った犯行なのか。それはなんとも言えませんが、悪意を持ってやったことは間違いないかと」

「ちょっと! 勝手にふざけたことを……そ、そんなひどいこと言わないでよ? ほら、あたしら仲間じゃん? ちょっと、なんていうかこう、手違いがあっただけじゃん?」

「俺の仲間はカナデ達だけだ。リーンは違う」

「このっ……!」


 口でなんとかごまかそうとするリーンだけど、そんなものに惑わされるほどバカじゃない。

 一蹴してやると、悔しそうにギリギリと奥歯を噛んだ。


 エルフィンさんが問いかけてくる。


「あなたはどうするべきと考えますか?」

「色々と聞きたいことがあるんですよね。今回の件だけじゃなくて、今までどうしていたのか、カグネの件、そして……アリオスのこと。明らかにしておいた方がいいことが、たっぷりあります。この際だ。全部聞き出したいですね」

「そうですね……そこは、同じ意見になりますか。まずは尋問。全てを聞き出した後に、焼き払うとしますか」

「……」


 なかなかに過激なコースだけど、異を唱えるつもりはない。


 今まで好き勝手にしてきた。

 俺が知らないだけで、相当にひどいこともしてきただろう。


 そして……おそらくではあるが、イリスを傷つけたのはリーンだ。

 許せるわけがない。


 リーンの命を助けたいなんて欠片も思わないし、完全に自業自得だ。

 どうなろうが構わない、というのが本音になる。


「えっ、ちょ……そんな、本気で……!?」


 俺の静かな怒りと、エルフィンさんの冷たい殺気を感じ取り、リーンは途端に慌てる。


「あたしは、別にその……! わ、悪くないからっ」

「うん?」

「あたし、ホントはレインを追放なんてしたくなかったし!? あれはただ、アリオスとかアッガスとかミナが強く言うから、逆らえなくて、そんなつもりじゃなかったの!?」

「……」

「その後のことだって、本意じゃなかったのよ! 運が悪かった、っていうか、なんでか知らないけどあんな感じになっちゃって……あたしはなにも知らない! 知らないからっ!?」


 まさか、そんな言い訳が飛び出してくるなんて、完全に予想外だった。

 もちろん、そんな話を鵜呑みにするわけがない。

 欠片も信じていない。


 ただ、怒りは湧いてこない。

 疲労感が入り交じる、失望のような感情を覚える。


 今は称号を剥奪されているとはいえ、一時は、勇者パーティーという、これ以上ないほどの名誉を得ていたのだ。

 それにふさわしい誇りや佇まいというものがあるはずなのに……

 しかしリーンは、恥じることなく嘘を並べ立てて、見苦しい言い訳を続ける。

 覚悟を決めてほしいのだけど、それは無理な注文か。

 ホント、以前とまるで変わっていない。


「醜い人間ですね……いっそのこと、今すぐに焼いてしまいましょうか?」


 エルフィンさんも大きな不快感を抱いたらしく、そんなことを言う。


 小さな悲鳴をあげて、リーンが震えた。

 両手足の枷をなんとか解こうとしているが、もがいたくらいでどうにかなるような代物じゃない。

 不死鳥族が作り上げたものなのだから、人間であるリーンにどうこうすることはできない。

 ましてや、今は装備を全て取り上げられているのだ。


「い、いやよ……あたし、こんなところで……あたしは、もっともっと、これからも楽しいことをして……モニカ、助けて! あんたならどうにかできるでしょ、ねえ!?」

「……」

「ちょっと、黙ってないでなにか言ってよ! ねえったら、ねえっ!!!」


 リーンは拘束されて不自由な体を無理矢理動かして、返事をしろというようにモニカの肩を押した。


 すると、そのままモニカが倒れる。

 倒れて……その体が霧のようになり、そのまま消えた。


「……へ?」


 突然のことに、リーンが目を丸くした。

 なにが起きたのか理解できず、俺達も、ついついポカンとしてしまう。


「もしかして」


 少しして我に返り、とある可能性に思い至る。


「モニカは……自分の幻影を作り出していて、それを身代わりにしていた?」

「どういうことなのですか?」

「どういう仕組みなのかは知らないんですけど、モニカは幻影を生み出すことができるんです。しかも、それを自由自在に操ることができる。モニカを捕まえたと思っていたけど、実は幻影だったのかも」

「なるほど、厄介な能力ですね。この女も幻影という可能性は?」

「ふふっ。安心してください、そこにいるリーンさんは本物ですよ」

「っ!?」


 どこからともなく声が響いた。


「その声、モニカか!?」

「はい。こちらはどうなっているか、様子を見に来たのですが、ちょうどいいタイミングだったみたいですね」


 いつからそこにいたのか、部屋の隅にモニカの姿が。

 カナデ達が構えて、不死鳥族達も構える。


 ただ、エルフィンさんは攻撃命令を出さない。

 突然、出現したモニカを警戒しているのだろう。


「モニカ! あんた、いつから抜け出していたのよ!? あたし一人にして、囮にするなんて!」

「囮にしたつもりなんてありませんよ。こちらでできることはあまりなさそうなので、私は私の仕事を、リーンさんはリーンさんの仕事を。そうやって、役割を分担しただけですからね」

「うーっ、くううう、うぅ! と、とにかくっ、今すぐにあたしを助けて! 助けなさいよ!」

「すみません。ここまできたら、完全に詰みですね。私は転移の魔道具があるので問題はありませんが、リーンさんの分はないので」

「な、なによ、それ。あたしを見捨てるっていうの!? あたし達、仲間でしょ!?」

「ええ、仲間ですよ。だから、最後に手助けをしに来ました」

「手助け……?」

「正直、ここまで追いつめられることは予想外でして。最善で、二つの最強種をぶつけて共倒れさせる。悪くても、レインさんと不死鳥族の和解を阻止する。そうしたいところだったのですが……どれもうまくいかず、なかなかに頭が痛い展開です。なので、最後の切り札を切ることにしました。それが……リーンさん、あなたですよ」

「ふざっ、ふざけないでよ!? こんな状態で、動けなくて魔法も使えないのに、どうしろっていうのよ!?」

「安心してください。このように、リーンさんの装備は回収しておきました」


 モニカは背中に隠していた、ガラスのような杖を手にした。


「だからっ、こんな状態でどうしろっていうのよ!? 身動きできないのに、虹水晶があってもなんの意味もないじゃない!?」

「ですから、安心してください。私がサポートしますから……こんな風に」


 モニカは優しく笑いつつ、その姿を消す。

 転移の魔道具か?

 慌ててその姿を探して、リーンの傍に移動していることに気がついた。

 急いで取り押さえようとして……

 しかし、それよりも先にモニカが動く。


「さあ、リーンさん。あなたの力を見せてください」


 そう言うと、モニカはリーンの胸にガラスの杖を突き刺した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「色々と聞きたいことがあるんですよね。今回の件だけじゃなくて、今までどうしていたのか、カグネの件、そして……アリオスのこと。明らかにしておいた方がいいことが、たっぷりあります。この際だ…
[気になる点] このままモニカに無傷で逃げ帰られてはスッキリしないので、せめて手傷の1つくらいは負わせてほしいですね レインやカナデ達ではまだそれができる段階に達していないのだとしても、 この洞窟内に…
2020/10/01 01:25 退会済み
管理
[気になる点] リーンの最後の出番になるのかなぁ。 [一言] モニカ対策しようよ〜
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