422話 分家
最初に、三人のモニカが突撃してきた。
それぞれ剣を手にして、タニアに斬りかかる。
そんなもので!
……と、まとめて尻尾で薙ぎ払いたくなるものの、我慢。
慎重に体を安全圏に退避させた。
モニカは幻影を生み出すという異様な能力を所持している。
能力だけではなく、力や技術も優れていてもおかしくはない。
あるいは、手にしている剣が伝説級の装備かもしれない。
ムカつくヤツだけど侮ることはできない。
タニアは己を落ち着かせて、冷静に対処することを決める。
まずはしっかりと距離を取る。
そして、牽制代わりの火球をお見舞いしてやる。
様子見の一撃だ。
これで倒せるなんて思っていないが、動き方、戦闘時の思考パターンにわずかながら触れることができるだろう。
「なっ!?」
ただ、敵は予想外の行動に出た。
複数のモニカは、火球を避けることも防ぐこともせず、まともにぶつかってみせた。
一人目が火球に焼かれ、その場に倒れる。
二人目がその余波を浴びて、吹き飛ばされる。
しかし、三人目は、先ゆく二人のおかげで完全に障害が排除された形になり、無傷で駆けてきた。
「くっ!?」
上体を逸らして、一撃目を避けた。
刃が生き物のように跳ね返り、再びタニアの首を狙うが、それを素手で掴む。
伝説級の装備であれば、指が何本か飛んでいたかもしれない。
しかしそんなことはなくて、幸いにも普通の武器らしい。
タニアの手が傷つけられることはなくて、逆に、ベキィッ! とへし折る。
そのままカウンターとして殴り飛ばす。
凌いだ。
タニアはニヤリと笑い……
次いで、顔をひきつらせる。
三人目の影に隠れて、さらに四人目が潜んでいた。
下手にカウンターをしたせいで、回避、防御行動をとることができない。
姑息な手を。
めっちゃ腹立つ。
タニアはそんなことを思いつつ、一撃食らうことを覚悟するが、
「ウチを忘れんといてな!」
横から矢のごとく飛んできたティナが、四人目の頭を豪快に蹴り飛ばす。
ティナは人形の体に入っているため、かなり小さい。
それでも己の体を魔力で包み込み、さらに魔力で加速することで、痛烈な一撃を叩き出すことに成功した。
四人目のモニカが吹き飛び、十メートルほどを飛んだ。
「ありがと、ティナ! 助かったわ」
「ウチがしっかりサポートするから、安心してええでー!」
二人の連携はバッチリだ。
打ち崩すとなれば、相当な労力を必要とするだろう。
しかし……敵は、労力なんてものを気にする必要がない幻体。
ついでに言うのならば、ダメージも疲労も考えなくていい。
「本体含めて、残り六人……ああもうっ、めんどくさいわね!」
「タニア、それはちと早計やで」
「え?」
「ふふっ、ティナさんは、私のことをきちんと理解しているのですね」
モニカは不敵な笑みを浮かべる。
それを合図にしたかのように、彼女の姿が再び揺らぐ。
さらに五人のモニカが現れて、それぞれに笑みを顔に貼り付けた。
「げっ……また増えた」
「ゴキちゃんよりもしぶといなー」
「あら。あんなものと一緒にされると、さすがに傷ついてしまうのですが……」
「勝手に傷ついてなさい。あんたがやってきたことの罰よ、罰」
「で……まだ続けるん?」
「そうですね……」
短い交戦ではあるが、タニアとティナの壁を突破することはかなり難しいと、モニカは理解しただろう。
身体能力と魔力のバランスに優れている竜族であるタニア。
そして、幽霊という特殊な立場で、最強種並の力を身に着けつつあるティナ。
この二人が防御に徹すれば、鉄壁の砦となる。
絶対無敵というわけではないが……
陥落させるとなると、さすがにモニカ一人では戦力が足りない。
最低でも、モニカと同じ実力者があと三人、必要になるだろう。
「……わかりました、退きましょう」
「やけにあっさりしとるな?」
「罠かしら?」
「いえ、安心してください。そのようなことはありませんよ。実は私、ちょっとしたミスをしてしまい、アジトに帰るところでして。レインさん達の邪魔をするつもりが、返り討ちに遭ってしまいまして」
「ふふんっ、さすがレインね」
「正直、少し焦りましたね。幻体を囮にして、脱出するのが少しでも遅れていたら……さすがに危なかったかと。と……話が逸れましたね。それで、帰還の途中でイリスさんのことを知り、ちょっかいをかけてみたわけなのです。私の独断行動故に、応援は望めません」
「むう……」
ティナが迷うような声をこぼす。
嘘をついている様子はない。
しかし、そのまま信じることは危険だ。
「ただ……このまま素直に引き下がるのも癪なので、少し嫌がらせをしておきましょうか」
モニカは微笑みながら小さな笛を取り出して、ピィーッ! と甲高い音を響かせた。
「今のは……」
「魔物を誘い出す音です」
「なっ!? まさか、スタンピードを……」
「いえ。これは実験段階のものなので、そこまでの能力はありません。せいぜい、一度に数百匹がいいところですね。ただ、込められた魔力が続く限り、効果が持続する……それなりの量の魔力をこめておいたので、しばらくは忙しくなりますよ? ひょっとしたら、私でなくてもうまくいくかも……ふふっ。」
モニカに比べれば、ただの魔物の群れなんて大したことはない。
この街にいるのはタニア達だけではないし、問題なく防衛できるだろう。
ただ、間違いなく混乱が起きる。
そのせいでイリスの治療に問題が起きたりしたら……?
そう考えると、ゾッとしてしまう。
「私は、タニアさん達の状況を直接見ることができただけで、よしとしておきましょう」
「あんたねえ……!」
「では、さようなら」
モニカは軽くスカートを摘み、貴族のように礼をしてみせた。
そのまま転移の魔道具を使用しようとして……
「ちょい待ち!」
ティナが鋭い声を響かせて、待ったをかける。
「なんでしょうか?」
「あんた……さっき、こう言うてたな? 私の能力は、魔王を倒すために生み出されたもの。それ、どういう意味や?」
「……」
モニカの笑みが、より一層深くなる。
顔は笑っているのだけど、その奥に隠されている感情は……怒りと憎しみだ。
「さて、どういう意味でしょうか……素直に教えてあげる義理も義務もないのですが……せっかくなので一つだけ」
「……」
「私も分家なのですよ」
そんな言葉を残して、モニカは今度こそ転移して、この場から消えた。
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