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416話 癒やしの炎

「あ……」


 ボロボロの俺は、そっとフィーニアに抱きしめられた。

 彼女の体から炎が舞い上がり、俺を包み込む。


 でも、その炎が熱いということはない。

 優しい温かさで、不思議と心が安らいだ。


「レインさん……し、しっかりしてくださいっ!」

「フィー……ニア?」

「ワタシ、あなたみたいに……がんばりますからっ!」


 さらに、フィーニアの炎が舞い上がる。

 幾重にも重なり、繭を形成するかのように俺を覆う。


 すると、不思議なことが起きた。

 あれだけボロボロだった体が、少しずつ癒やされていく。

 傷が消えていく。


 痛みも引いてきた。

 最初から何事もなかったかのように、全ての傷が消えて……

 俺は瀕死の状態から、一気に正常な状態へ回復する。


 フィーニアは優しい炎をまといつつ、俺の顔をじっと見つめてくる。


「だ、大丈夫ですかっ……!?」

「あ、ああ……大丈夫だ。これはいったい……?」

「その、えと……ワタシが癒やしました」

「癒やした? じゃあ、もしかして……」

「はい。これが、その……不死鳥族本来の力、癒やしの炎です」

「……癒やしの炎……」

「炎は破壊だけじゃなくて、えと、再生も司りますから……だから、その……力を使って、レインさんを癒やしました。あのままだと……そ、その……死んでしまっていたと思いますから」


 差し出がましいことをしましたか? なんて言うような顔をして、こちらの様子をうかがう。

 俺を癒やしてくれている時は、とても凛としていたのだけど……

 今は、いつものフィーニアに戻ってしまったみたいだ。


 いや。

 そういうわけでもないか。


 一見するといつも通り、やや自信がなさそうに見える。

 でも、その瞳の奥にある光が違う。

 今までは、正直に言うと頼りない感じだった。

 だけど今は、確かな力強さを感じる。


「なんか……フィーニアが別人みたいだ」

「ふぇ?」

「あ、いや。すまない。悪い意味じゃなくて、人が変わったみたいに強く見えて……」

「それは……だとしたら、レインさんのおかげです」

「俺の?」

「その、レインさんはすごくすごくがんばっていて……それを見た私も、がんばらないと、って思って……だから、ですっ!」


 俺は大したことはしていない。

 他に良い方法が思い浮かばなくて、口で説得することも諦めて……

 ただただ愚直にぶつかっただけだ。

 見習うようなところなんてないんだけど……

 でも、こんな俺でも、誰かの指針になることができたのなら、それはうれしいことだ。


「そうだ」

「ふぇ?」

「言い忘れてた。フィーニア」

「は、はいっ!?」

「助けてくれて、ありがとう」

「あ……」


 一瞬、ぽかんとして……


「はいっ!」


 フィーニアはとてもうれしそうな笑みを見せながら、小さく頷いた。


 その笑顔はとても綺麗だ。

 これが、彼女の本来の笑みなんだろうな。


「オンッ!」

「あっ」


 ついつい和んでしまったけれど、サクラの鳴き声で我に返る。

 フィーニアに助けてもらったものの、根本的な問題……エルフィンさんを止めることに成功したわけじゃない。

 どうにかして理解してもらわないと!


「……」


 振り返ると、エルフィンさんは驚いたような顔をして、動きを止めていた。

 その視線は俺……ではなくて、フィーニアに向けられている。


 それから、エルフィンさんはゆっくりと視線を動かす。

 その行き先は、床に落ちている首輪。

 フィーニアが身につけていたものだ。


「……驚きましたね」


 やがて、そっと口を開く。

 言葉通り驚きの表情を貼り付けたまま、信じられないというように言葉を紡ぐ。


「まさか、フィーニアが自力で力を制御してしまうなんて……」

「あぅ……い、今まで、できなくてごめんなさい……」

「いえ、そのことを責めているつもりはありません。ただ、今まで何度も練習してもダメだったのに、どうして今になって……それが不思議でなりません」

「えっと、それは、その……」


 フィーニアはおどおどしつつも、しっかりと自分の意見を口にしようとしていた。

 そのことがわかるらしく、エルフィンさんは急かすことはしないで、ゆっくりと娘の主張を待つ。


「ワタシ、その……レインさんを見ていて、自分もしっかりしないと、って思って……」

「その人間に感化されたと……そう言うのですか?」

「は、はいっ。だって、レインさん……あんなにボロボロになっても、ずっと前を向いていて……それは、自分のためじゃなくて誰かのためで……お母さんが言う人間とは、ぜんぜん違う気がしたの」

「……続けなさい」

「そんなレインさんを見ていたら、ワタシもがんばらないと……って。ワタシにできることをしたくて……そ、それで、ワタシのしたいこと、できることはなにかな、って考えて……レインさんを助けたい、って……」

「……なるほど、大体のことはわかりました」


 そう言うエルフィンさんからは、さきほどまでの強烈な殺気は消えていた。

 厳しい表情をしているものの、これ以上、戦闘を続ける意思はないらしい。


「正直なところ……あなたは、まだまだ子供だと思っていました」

「あぅ……」

「力が制御できないだけではありません。周囲に流されることが多く、自分の主張をきちんと口にすることができない。いずれ私の後を継がなければなりませんが、障害は多く、長い間、訓練を続けなければいけない……そう考えていました」

「だ、ダメな娘でごめんなさぃ……」

「いいえ」


 ふっと、エルフィンさんが優しい顔になる。

 静かにフィーニアのところに歩み寄り、母の顔で娘を抱きしめる。


「いつの間にか強くなっていたのですね」

「……お母さん……」

「いえ……いつの間にか、というわけではないのですね。認めたくはありませんが……この人間のおかげなのでしょう」


 エルフィンさんがこちらを見た。

 やはり、殺意も敵意も感じられない。


「まさか、人間に教えられる日が来るとは……これは、なかなかに屈辱的ですね」

「お、お母さん……そんなことを言ったら……」

「……わかっています。少なくとも、この人間とはもう争うつもりはありません」

「お母さん……!」


 エルフィンさんの答えを聞いて、フィーニアがぱぁっとうれしそうな顔に。

 そんな娘から目を逸らす。

 照れているように見えたが、気のせいだろうか?


「人間」

「はい」

「ひとまず、これ以上の戦いはやめておきましょう。今、何が起きているのか、どうなっているのか。あなたの口から説明なさい」

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― 新着の感想 ―
[良い点] フィーニアも契約するのかな?サクラもしそう。続きまってます。
[一言] 人間はもちろん、レインもまだまだ信用出来ないけど、娘の成長を感じ、それに関与したレインの話を少しくらいは聞く気になったということでしょうか。 落とし所としてはこれくらいがちょうどいいのかな。…
[一言] ……エルフィン、娘に弱いもんだなァ……。 まあ、フィーニアを変えたのはほかならないレインな訳よ。 フィーニアもレインも、よくやった……。
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