414話 消えない憎しみと恨み
「っ!? この感情は……」
エルフィンさんから激しい敵意が放たれる。
いや、敵意なんて生易しいものじゃない。
圧倒的な憎しみ。
途方も無い恨み。
それらは巨大な圧となり、俺を飲み込む。
少しでも気を抜けば、そのまま心を塗りつぶされてしまい、気絶してしまいそうだ。
「あなた達人間は、昔からなにも変わっていない。愚かなことを考えて、それを迷うことなく実行する。その言い訳は、仕方なかった、誤解なんだ……ふざけたことを! そんな戯言で虐げられた側が納得するとでも!?」
「エルフィンさん、あなたは……」
「あなた達人間のせいで、私達はどれほどの苦しみと悲しみを味わってきたことか……そして、どれだけの同胞の血が流れたことか。そして、私の子供を……!!!」
俺は間違えていた。
シグレさんから、不死鳥族が人間を敵視しているとは聞いていた。
しかし、どこかで楽観視していた。
敵視といっても、精霊族の人間嫌いを少し大きくしただけのものだろう……と。
でも、それは甘い考え。
愚かな勘違い。
人間は……恨まれている。
憎しみをぶつけられている。
「まさか、ここまでなんて……」
完全に見誤った。
エルフィンさんの……不死鳥族の抱えている人間に対する感情が、まさか、これほどのものだったなんて。
その感情は、イリスのものと似ている。
たぶん、実際に仲間達が傷つけられたのだろう。
失ったこともあるのかもしれない。
だからこその怒り。
だからこその憎しみ。
「あわわわ……お、お母さん……」
フィーニアはまだ幼いから、俺の味方をしてくれた。
でも、人間に虐げられた時を直接見たであろうエルフィンさんは、今もなお激しい感情を胸に秘めていた。
そして、それを俺が暴いてしまった。
説得するつもりが、激情させてしまうなんて……大失敗だ。
「でも!」
説得を諦めるつもりはない。
俺の行動に、みんなの命がかかっていると言っても過言じゃない。
そしてなによりも、ここで諦めたらイリスを助けることはできない。
絶対に助ける。
そのために俺ができることは……
「灰になりなさいっ!」
エルフィンさんの髪がゆらゆらと揺れて、その足元から豪炎が立ち上がる。
炎は生き物のように一箇所に集まり、やがて龍の形を取る。
「燃やし尽くせっ!」
合図で炎の龍がこちらに飛んできた。
威力を測るとしたら、上級魔法並だろうか?
あの一瞬でこれだけの攻撃を放つことができるなんて、さすが最強種。
まともに直撃したら、かなり痛いだろう。
痛いというレベルで終わらない気もする。
でも……俺は避けることはせず、あえて真正面から受け止めた。
「がっ!?」
まず最初に感じたのは、激しい衝撃。
体中がひっくりかえるような感覚で、一瞬、平衡感覚が失われた。
次いで、熱に襲われる。
肌が焼かれた。
いや。
焼かれるというよりは、蹂躙されてズタボロにされるという感じだ。
口は閉じていたため、喉や肺が焼かれることはないが……
これは……かなり、痛い……というか、やばい。
「どうして避けようとしないのです? いえ、防御をすることもない……私が本気ではないと、たかをくくっていたのですか?」
「そんなことは、ありませんよ……」
体が灼ける痛みに耐えつつ、なんとか声を振り絞る。
あれだけの殺気を見せつけられて、本気じゃないと思うわけがない。
そんなことを考えるとしたら、よほど楽天的なヤツだろう。
「俺は、ただ……エルフィンさんやフィーニア……他の不死鳥族達に危害を与える存在じゃない、って……認めてほしいだけです」
「なんですって?」
「俺は……あなた達に危害を加えた人間とは違います。そんな連中と一緒にされて、たまるものか! 自分が大した人間だって、そう言うつもりはないけど……でも、他者を傷つけるような外道に堕ちたつもりはない。だけど……言葉にしても簡単に信じてもらえないことも……理解しています。だから、今できることは……なにもしないことです。そうすることで、俺が敵じゃないと……わかってもらいます」
「戯言をっ!」
「ぐあっ!?」
再び炎が吹き荒れて、俺は数メートル吹き飛ばされた。
めちゃくちゃ熱い……いや、痛い? 寒い? 鋭い?
やばいな、これ。
たった二回の攻撃で、体の感覚がデタラメになっている。
炎を操る能力……とんでもないな。
普通なら逃げるか、最低限、防御をするか……それが正しい選択なのだろう。
でも、ここでそんなことをしたら絶対に認めてもらえないような気がした。
だから俺は……
「俺は……敵じゃ、ないです」
立ち上がり、無抵抗であることを示すように両手を挙げる。
それを見たエルフィンさんは、ぽかんとして……
次いで、怒りの形相でこちらを睨みつける。
「そのようなことをすれば同情してもらえるとでもっ!?」
「そんなつもりは、ないんですけどね……ただ、敵じゃないって……わかってほしい、だけです」
「人間がっ……!」
三度、炎が巻き上がる。
今度は悲鳴をあげることもできない。
というか、呼吸が難しい。
今度は炎で喉をやられてしまった。
肺まで到達しているのか、呼吸をしようとしてもうまくできない。
痛みが走るばかりで、ヒューヒューとおかしな音がこぼれる。
やばい……ホントにまずいかもしれない。
意識が薄くなっていくというか、ものを考えることができなくなる。
痛みを感じることもなくなり、代わりに体が寒くなってきた。
これ以上は……死ぬかもしれない。
いや、死ぬわけにはいかない。
俺が死んだりしたら、みんなが……
それに、イリスを助けることができなくなってしまう。
だから、そのために……
「俺は……絶対、に……!」
最後の力を振り絞り、立ち上がる。
しかし、どうしても体に力が入らなくて、そのまま倒れてしまうのだった。
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