412話 説得したいけど母は怖い
「フィーニアっ!」
歩くことしばらく、長であるエルフィンさんの部屋につれて来られた。
エルフィンさんはフィーニアを見ると、ぱあっと笑顔になり、駆け出す。
そのままの勢いで娘を胸に抱いた。
「わっ……!?」
「よかった……心配していたのですよ」
「……お母さん……」
「怪我はしていませんか? 人間にひどいことをされませんでしたか?」
「えっと……その、うん。大丈夫だよ」
「そう……よかった」
エルフィンさんは、初めて見る優しい顔をした。
厳しい人だという印象があったのだけど……
なんだかんだで母親なのだろう。
娘の……フィーニアのことをとても心配していたらしい。
「あなたが消えた時は、私の心臓はどうにかなってしまうかと……」
「し、心配かけてごめんなさい……で、でも、大丈夫だから!」
「ええ、そのようですね。さすが、私の娘……愚かな人間を捕まえて戻ってくるなんて」
ギロリと睨まれる。
針が刺さるみたいで、視線が痛い。
かなりの迫力だ。
「さて……フィーニア、よくやりましたね。でも、とても疲れたでしょう? 後は私に任せて、休んでいなさい」
「え、えと……」
「大丈夫。この人間達は、あなたをさらったこと……そして、生まれてきたことを後悔させてあげます。あなたに二度と手を出させません」
「そ、そうじゃなくて、その……」
フィーニアはうまいこと言葉を紡げない様子で、あたふたと慌てている。
事前の打ち合わせでは、まずはフィーニアがエルフィンさんを説得してみる、ということになっていたのだけど……
難しいか?
余計に事態を混乱させるかもしれないということで、俺は、最初はおとなしくしている予定だ。
ただ、このままエルフィンさんに処罰されるわけにはいかないし……
いざという時は、予定を変更して前に出なければいけないかもしれない。
「っ……!」
ふと、フィーニアと目が合う。
どこか助けを求めるような目。
俺は……
「……大丈夫」
フィーニアだけに聞こえる声で、そうつぶやいた。
一見すると、おどおどしているのだけど……
でも、彼女は芯のある強い女の子だ。
少しだけど、一緒に過ごすことでそのことを理解した。
だから、この状況もなんとかできるはず。
そう信じて、この思いを届けるように、フィーニアをまっすぐに見つめた。
「……は、はいっ」
思いは届いたのか。
フィーニアはコクリと頷いて、それからエルフィンさんと改めて向き合う。
「あ、あの……その……お、お母さんっ」
「なんですか? あなたは、早く自分の部屋に……」
「お、お話があるのっ!」
「話?」
「その……レイ……じゃなくて。そ、そこの人間のことで……」
「ふむ……なんですか? 話してみなさい」
ひとまず、エルフィンさんは話を聞く体勢をとってくれた。
うまく説得できるだろうか?
ハラハラしつつ、おとなしく展開を見守る。
「あ、あの……その人間は、えっと……わ、ワタシを誘拐したわけじゃなくて……」
「どうしたのですか、フィーニア? 突然、そんなことを言い出すなんて。この人間の罪は明白。後は断罪するだけでしょう?」
「そ、そうじゃないの……あの、その。レインさん……男の人間はなにもしていないの!」
「え?」
「悪いのは、その……サクラちゃんが捕まえている、女の人間達なのっ!」
やや言葉に詰まりながらも、フィーニアは、最後は力強く言い切った。
そんな娘の反応に、エルフィンさんは目を丸くして驚いていた。
これほど強い口調で意思を示すことは、今までになかったのかもしれない。
そう感じさせるほどに、フィーニアはおとなしい子だからな。
「むーっ!」
リーンがなにやら騒いでいるが、口を塞がれているために言葉を発することはできない。
余計なことを言われたら困るため、こうしていたが……
正解だったらしい。
もしも口を自由にしていたら、私は仲間だ、とか言い出していたかもしれないな。
危ない危ない。
「女の人間達が……ぜ、全部悪くて……レインさんは、な、なにもしていないよ? 本当なのっ」
「……そう言い切れる根拠はあるのですか?」
「な、ないんだけど……で、でも、本当のことなの! し、信じてっ、お母さん!」
「……」
考えるような間が挟まれる。
どんな答えが出るのか?
それによって、この後の行動が……俺の運命が決まる。
「……わかりました」
「え?」
「フィーニア、あなたの言うことを信じましょう。そこの人間の男は、なにも関与していないのですね。ならば、解放しましょう」
「お母さんっ!」
「……なんて」
途端にエルフィンさんの気配が変わる。
穏やかな母の顔から、子を守るためならばどんなこともする修羅の顔になる。
「そんなことを言うと思いましたか? 人間などを信じると思いましたか?」
「お、お母さん……?」
「フィーニア、かわいそうに……あなたはまだ幼い。それ故に、人間に騙されてしまったのですね。いえ、もしくは洗脳された? どちらにしても許せることではありません」
「お母さん、ち、違うよ? ワタシ、そんなことは……」
「下がっていなさい、フィーニア」
「っ!?」
静かで、それでいて驚異的な圧を感じる言葉。
ビクッとフィーニアが震えて、逆らうことができない様子で口を閉じてしまう。
ここまで、だな。
フィーニアはよくやってくれたというか、予想以上にがんばってくれた。
でも、ここが限界だろう。
後は自分でなんとかするしかない。
いつでも解けるようにしておいた縄を自力で解いて、エルフィンさんと対峙する。
「やはり、愚かなことを企んでいたようですね。フィーニアを抱き込み、なにを企んでいるのですか?」
「特に企むってことはしていないんですけど……それでも、強いて言うなら、エルフィンさんと話をして誤解を解くことですね」
「誤解?」
「今回の件、俺はなにもしていません。不死鳥族を害そうなんて考えていない。全部、誤解なんです」
「……そうですか、誤解ですか。ふふっ」
エルフィンさんは小さく笑い……
そして、ゴゥッ! と音がするほどの強烈な負のオーラを放つ。
「そのような戯言をまた繰り返しますかっ、人間!!!」
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