411話 混乱する中で
「うにゃにゃにゃっ……!?」
カナデの猫耳の先端から尻尾の先までが、ビリビリと逆立つ。
牢を殴りつけた手は赤くなっていた。
それも当然だ。
ここは、罪を犯した同胞……不死鳥族を閉じ込めておくための牢屋。
生半可な作りにはなっておらず、最強種だとしても脱獄することは難しい。
それくらいに頑丈に作られていた。
「し、痺れるぅ……」
「だ、大丈夫? カナデさん、手が腫れてない?」
「うぅ……痛いにゃ」
「カナデ、考えなし」
「うぐっ」
リファの容赦ない一言に、カナデは傷ついたような顔をした。
シフォンはなにかフォローしようかと考えるが、しかし、リファの言葉はもっともなため、なにも言えない。
「カナデ、もうちょっと考えて」
「うぅ……」
「ボク達よりも、もっと適任がいるでしょ?」
「適任? ……あっ!」
「ん。わたし、に……任せて」
ニーナがくるりと手を回して、亜空間を開いた。
ゴソゴソとなにかを探るような仕草。
ややあって手を引き抜くと、牢の鍵が握られていた。
最強種の脱獄を阻止するほどに頑丈な牢ではあるが、その能力を封印するほど複雑な機構はしていない。
罪人を閉じ込めるための牢屋とはいえ、せいぜいがケンカをして同胞を傷つけた、という程度の罪であり……
絶対に逃さない、というような作りにはなっていない。
故に、ニーナは問題なく能力を使える。
もちろん、すぐに脱獄することは可能だった。
しかし、状況がわからないため、下手なことをすれば余計に立場が悪化する恐れがある。
そのため、ひとまずはおとなしくしていた……ということになる。
「鍵……開いた、よ?」
亜空間を通じて盗み出した鍵を使い、ニーナは牢の鍵を開けた。
それとほぼ同時に、複数の足音が近づいてきた。
「なにか音がしたぞ」「様子を見に行くぞ」なんていう声が聞こえてくる。
「カナデが余計なことをするから」
「にゃう……ごめんにゃい」
「どん、まい」
ニーナに慰められて、本気で落ち込む様子のカナデであった。
「とにかく……早くここから離れましょう。それで、早くレイン君のところに行かないと!」
「らにゃー! ニーナ、乗って」
「んっ」
カナデがニーナを肩車した。
その状態で走り出す。
さすが猫霊族というべきか。
その脚力はナンバーワン。
シフォンをリファを置き去りにするような勢いで走る。
「ふわわわ……!?」
ただ、肩車のされ心地は微妙らしく、ニーナがガクンガクンと上下に揺れていた。
少し酔っている様子で、顔を青くしている。
「んー……こっち! みんな、ついてきて!」
分岐道に差し掛かると、カナデは少し考えた後、道を決めて足を再び動かしていく。
不死鳥族と遭遇することはない。
持ち前の勘の良さで危機を回避しているようだ。
「カナデさん、すごいね……」
「うん、野生の勘」
「あ、あはは……野生って言っちゃうんだ」
「猫だから」
シフォンとリファが呑気なやり取りをする中、先頭を行くカナデはレインを探して走り続ける。
犬ほどではないが、猫は人よりも鼻が優れている。
探す相手は、いつも一緒にいる人。
そしてなによりも、大好きな人。
見つけられないわけがない!
カナデは妙な使命感を燃やしつつ、必死にレインの匂いや気配を探り、足を進めていく。
「にゃっ!?」
「っと……どうしたの、カナデさん? 急に止まって」
「レイン、見つけた?」
「はわわわ……」
「これ……」
ぐるぐると目を回すニーナを肩車しつつ、カナデは険しい表情に。
薄暗い通路の先を睨みつけるように見る。
「この先にレイン君が?」
「ううん……レインの気配は、この先にはないよ」
「なら、なにが?」
「嫌な気配……魔物だと思う」
リファの問いかけに、カナデがピリピリとした様子で答えた。
その答えに、シフォンが怪訝な表情を作る。
「魔物? ここはまだ三層よね? 魔物がいるのは四層以下のはずじゃあ?」
「そう聞いているけど……どうなんだろ? 確かに気配がするんだよね……ねえ、リファはどう思う?」
「うん、ボクも魔物の気配を感じる。騒ぎに乗じて、下層の魔物が来たのかも」
「にゃー……」
大丈夫かな? とカナデは心配になる。
不死鳥族ならば、そこらの魔物が脅威になることはないだろう。
よくは知らないが、最強種の一角なのだ。
普通に考えて、その生命が脅かされることはない。
しかし、精霊族のように天敵がいるとしたら?
まだ戦う力を持たない子供が魔物と遭遇したら?
絶対に安全という保証はない。
なにかしら抜け道は存在しているものだ。
レインとの長い冒険者生活で、カナデはそのことをしっかりと学んでいた。
「うーにゃー……」
自分達の目的はレインだ。
主の安全第一。
そのために、他のことに構っているヒマも余裕もない。
ないのだけど……
不死鳥族に危害が及ぶかもしれないと知りつつ、それを見過ごしたら、レインはどう思うだろうか?
彼は優しい。
怒ることはないだろう。
でも、優しいから心を痛めるだろう。
「カナデ」
「ニーナ?」
「行こう?」
「……うんっ!」
その一言がカナデの背中を押してくれた。
シフォンとリファも、それでいいというように力強く頷いた。
カナデ達は方向転換をして、魔物の気配がするところへ向かう。
「えっ!? これって……」
そこで見たものは……
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