410話 脱獄しちゃう? しよう!
「うにゃーん……」
牢の中にいるカナデは、落ち着かない様子で尻尾をゆらゆらさせていた。
ため息をこぼして、牢の外を見て、再びため息をこぼして……
そんなサイクルをずっと繰り返していた。
「カナデさん、大丈夫?」
「あ、シフォン。うん、私は大丈夫だよ。ただ、レインのことが心配で……」
「うん、そうだね……レイン君なら、よっぽどのことがない限りは大丈夫だと思うけど……それでも、もしかしたら、って考えちゃうよね」
カナデと同じく、シフォンが憂いを帯びた表情になる。
この状況で心配するべきはレインだけではない。
最強種であるカナデ達は、邪魔をされないために捕まえられているだけで、この後、危害が加えられることはないだろう。
しかし、シフォンは別だ。
人間であり、不死鳥族の敵。
そんなシフォンは、この後、どうなるかわからない。
そのまま処刑……なんて可能性もある。
そのことに気づいていないシフォンではないが……
それでも、レインの方を気にしてしまう。
自分よりも他の人を。
シフォンの人柄がよく現れていた。
「魔物が現れたとかフィーニアっていう子が誘拐されたとか、レインはそんなこと絶対にしないのに……もう、どうしてみんなわかってくれないのかなあ」
「なかなか難しいよ。ボクも、最初は疑っていたし」
フォローしているのかしていないのか、リファが微妙な発言をした。
「わたし、は……最初から、信じていたよ? 助けて……くれたから」
「私もニーナと同じかなあ。レインに助けられたし」
「二人はお人好し」
「うにゃ……リファ、ツッコミが鋭いよ」
「でも……そんな二人は嫌いじゃない」
「えへへ」
ニーナがうれしそうにリファに抱きついた。
リファはいつもの無表情……ではなくて、やや頬が赤く染まっている。
表情こそ変わらないものの、なんだかんだで照れているのだろう。
「あ、ちょっとまって。なにか表が騒がしいよ」
シフォンの言葉を合図に、四人は牢の外に目を向ける。
複数の足音とざわめき。
時に歓声のようなものも聞こえてきた。
「どうしたのかな? なにか起きたのは間違いないみたいだけど……」
「ここから、だと……よくわからない、ね」
ニーナは困った顔をして……
次いで、なにか閃いた様子でぽんと手の平を打つ。
「ちょっと……試して、みる」
「にゃん? 試すって、なにを?」
「盗み……聞き」
ニーナはくるりと右手を回転させて、空間に穴を開けた。
すると、その穴から声が聞こえてくる。
リファが不思議そうに小首を傾げる。
「これ、なにをしたの?」
「ちょっと先に、空間を繋げて……そこから、音を拾っているの」
「器用だね」
「えへへ」
感心するリファ、照れるニーナ。
その一方で、唖然とするシフォン。
「す、すごい力……最強種はデタラメな力を持っているのは知っていたけど、これほどなんて」
この力があれば盗聴し放題だ。
情報戦で圧倒的優位に立つことができる。
たった一人で戦場をコントロールすることも可能になるかもしれない。
改めて、最強種という存在の底知れなさを感じたシフォンだった。
「どう?」
「んー……」
本人にしか聞こえないらしく、ニーナが集中して盗み聞きをしている。
ややあって、その顔が険しいものに。
「ど、どうしよう……?」
「にゃ? どうしたの、慌てて」
「レインが……捕まっちゃった、みたい……」
「「「えっ!?」」」
そんなバカなと言うように、三人は驚いた。
しかし、ニーナはオロオロして狼狽していて、その言葉がウソでないことを証明している。
「ど、どうしよう……?」
「どんな状況?」
「よく、わからないの……レインを、捕まえた……っていうことが聞こえてきて……」
「む……」
リファが難しい顔になる。
なにかの間違いであってほしいと思っていたが、ニーナの話を聞く限り、それはないだろう。
そう判断して……でも、悲観はしない。
泣いたり嘆くヒマがあるのなら、その分、事態の打開策を考えた方が何倍もマシだ。
リファは高速で思考を回転させる。
そして、とある結論にたどり着く。
「みんな」
「にゃん?」
「脱獄しよう」
「にゃん!?」
大胆極まりない提案に、カナデはピーンと尻尾を逆立てた。
同じように、シフォンも唖然とした表情を浮かべている。
しかし、すぐに驚きの感情をを捨てて、リファの真意を測るような顔に。
「それ、どういうこと? 今、私達が逃げたりしたら、レイン君の立場がもっと悪化しそうなんだけど……」
「今でも十分に悪いよ」
「それは……」
その通りなので、シフォンはなにも言えなくなる。
「これ以上はダメ。レインが傷つけられるかも」
「そうなる前に脱獄をして、サポートをする……っていうこと?」
「うん」
「でも、それは……ううん。やっぱり、アリかも。ここまできたら、もうどうしようもない気がするし……まずは、レイン君の安全を一番に考えないと。最悪の事態になったら、誤解を解くこともできない。そうなる前に、最低限のところをクリアーして……」
シフォンは顎に手をやり、ぶつぶつとつぶやきながら考える。
新生勇者パーティーのリーダーであり、頭脳担当でもある。
元々、あれこれと考えるのは得意なのだ。
思考を最大限に広げて、現状でもっとも最適と思われる答えを導き出す。
最適な答え、それは……レインの安全を確保すること。
脱獄したら余計に事態がこじれてしまいそうではあるが、レインになにかあれば、そこで全てが終わってしまう。
後を考えるよりも、今を考えなければいけない。
そんな結論を出した。
「よしっ、私も賛成。脱獄しちゃいましょう」
「えっ……い、いいのかな?」
「レイン君が危ないかもしれないの」
「よし、脱獄するにゃ!」
即座に意見を反転させるカナデだった。
仲間としてレインの身を案じているだけではなくて、好きな人の身を案じるという恋する乙女の想いが、そこにあった。
恋する乙女は無敵であり……そして、暴走しやすい。
「せー……のぉっ!!!」
思いついたら即実行。
カナデは大きく拳を振りかぶり、自分達を閉じ込める牢に叩きつけた。
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