407話 初めて
「ああ、フィーニアは優しい子だよ」
突然、里の外に放り出されて……
恐怖の対象であるはずの人と一緒に行動することになって……
普通、自分のことしか考えられないと思う。
これからどうなるのか、とか……無事に帰れるのだろうか、とか。
でも、フィーニアは違う。
自分のことは後回しで、親や仲間のことを想っている。
それは、この子がとても優しい心を持っているという証だ。
「ワタシが……優しい……」
フィーニアはきょとんとして……
次いで、あわあわと手を横に振る。
「そ、そそそ、そんなことありませんっ。ワタシなんか、ダメな子というだけで優しいなんてことは……」
「そんなことないって。フィーニアは優しいと思うぞ」
今考えていたことを口にした。
「それは……でも、お母さんや仲間のことを考えるのは、ふ、普通ですよね……?」
「その普通ができるということはとても大事なことだ。普通だからこそ、なかなかに難しいところがあって……フィーニアは立派だと思う」
「そ、そんな……」
フィーニアが戸惑うような顔に。
それから自分の胸元に手を当てて、その奥に潜む想いを確認するように言う。
「ワタシ……そんなことを言われたの、は、初めてです」
「そうなのか?」
「その、あの……もっと自信を持てとか、立派な次代になれとか……そ、そんなことばかりで……」
「フィーニアは、エルフィンさんの娘だからな。それは仕方ないと思うが……でも、褒められたこともあるだろう?」
「は、はい……でも、それも力に関することで。ワタシの力、すごく大きいみたいで……そこを褒めてくれる人はいました。お母さんも、ほ、褒めてくれました……でもワタシ、その力を、完全に制御できていなくて……だから、首輪をしていて……」
「首輪? その首輪のことか?」
「は、はい……これ、力の制御装置……な、なんです。これがないと、ふ、普通に力を使うこともできなくて、暴走しちゃうこともあって……あうあう」
色々とイヤなことを思い出してしまったらしく、フィーニアの目がぐるぐると回る。
落ち着かせるように、そっと手を握る。
「焦らなくていいから」
「あ……」
「フィーニアのペースで、ゆっくり話せばいい。それで、言いたいことを教えてくれないか?」
「レイン……さん」
フィーニアは、パチパチとまばたきを繰り返した。
それから軽く深呼吸をして……再び口を開く。
「と、とにかく、その……ワタシ、力のことしか褒められたことはなかったんです。むしろ、性格の方はダメ出しばかりで……だから、その……優しいなんて言ってもらえたの、初めてです……」
ふわりと、柔らかい笑みを浮かべる。
「うれしい……です」
その笑みは、思わず見惚れてしまうほどに綺麗で、
「かわいいな」
ついつい、そんな言葉をこぼしてしまう。
「ふぇ!?」
ぼんっ、とフィーニアが真っ赤になった。
あわあわと慌てて、一気にパニックへ。
「わ、わわわ、ワタシなんかがかわいいなんて、そんなおこがましい……!? ば、罰が当たります! 神様から、お前調子に乗るなよ、とか言われちゃうに決まっています!?」
「えっと……とりあえず落ち着いてくれ」
今の発言は、少し軽率だったな。
この子、自分に自信を持てないみたいだから……
それなのにかわいいなんて言ったら、混乱させてしまうだろう。
でも、今の言葉は間違いなく本心なので……
いつか理解してもらえたらと思う。
自分はかわいいんだぞと、もっと自信を持ってほしいと思う。
「話を元に戻すけど……」
「は、はい」
「フィーニアの作戦を採用しようと思う」
「えぇっ!? い、いいんですか? ワタシなんかが成否の鍵を握るような作戦で……う、うまくいくとは……あわあわ、気持ち悪くなってきました……おえっ」
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫、です……緊張しすぎただけですから」
賛成しておいてなんだけど、大丈夫なのかと不安になってきた。
とはいえ、今は他に効果的な方法がない。
フィーニアが提案した以上の策は思い浮かばなくて……
彼女に賭けるしかないだろう。
「わ、ワタシ……絶対にお母さんを説得してみせます! レインさんは、その、人間にしては……思っていたよりも良い人なので」
「ありがとう」
「あ、でも……」
ふと、フィーニアが不安そうな顔に。
「お母さんはともかく、ほ、他の人達の説得は難しいかもしれないです……」
「そうなのか? 長の娘なら、他の人達こそ説得しやすいような気がするんだけど」
「えと、その……ワタシ、きちんと認められていなくて……あっ、いじめられているとかそういうんじゃないんです。ただ、この首輪……うまく力をコントロールできていないから、一人前と認められていないんです。そんなワタシの言うことを、ちゃんと、き、聞いてくれるかどうか……うぅ、聞いてくれないですよね。ワタシの言うことなんて……」
レースで力を示すことができれば、という話をしていたし……
呀狼族と同じように、不死鳥族も力を重視するのだろうか?
そして、フィーニアはその力が足りていない。
初めて出会った時、ものすごい勢いで攻撃されたことを覚えている。
あれで力不足なのだろうか?
コントロールできていない?
だとしたら、フィーニアの潜在能力は、とんでもないことになるような。
さすが、長の娘というところだろうか。
ただ、自分には才能がないと思いこんでいるみたいだ。
その思い込みは、どこかビクビクしている性格にも現れている。
もっと自信を持てば、きっと化けるだろう。
「大丈夫」
「えっ?」
「フィーニアなら、うまくできるさ。もっと自信を持つといい」
「で、でも、ワタシなんて……ダメダメですし、力もコントロールできないですし……こんなワタシ、誰も信じてくれません」
「俺は信じるよ」
フィーニアがぽかんとなる。
「出会ったばかりで、しかも俺は人間で……信用できないかもしれないけどさ。でも、俺は本気だ。フィーニアなら、って思うよ」
「それは……ど、どうしてですか?」
「ずっとビーストテイマーとして生きてきた勘……かな? 勘って言うと適当に聞こえるかもしれないけど、けっこうバカにできないぞ。これでも、人を見る目はあるつもりだから……俺は、フィーニアを信じるよ」
「……そんなこと、初めて言われました」
驚いているらしく、フィーニアは目を丸にしていた。
なんで? という疑問もあふれている。
ただ、悪くない顔だ。
この子は、ビクビクしているよりも、もっと前を向いた方がいいと思う。
そうすれば、色々なことが変わると思う。
それだけのスペックはあるだろうし、なによりも、とても真面目な性格をしている。
ちょっと後ろ向きなだけで、それがわかりづらいだけ。
「あ、あのっ……!」
「うん」
「ワタシ……が、がんばります! 絶対にお母さんを説得してみせます!」
「期待しているよ」
「は、はいっ」
フィーニアは言葉につっかえながらも、しっかりと頷いてみせた。
その姿は一人前。
頼りになるところを見せられて、小さいながらも希望を抱くことができた。
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