404話 不思議な人
「じゃあ、しばらくの間、頼む」
そう言うと、レインさんは手頃なサイズの岩に腰をおろしました。
そして、なにやら集中すると……
かくんと首が落ちて、体から力が抜けるのがわかります。
たぶん、同化というのを使ったんでしょう。
上を見ると、ワタシ達に合図を送るように、一羽のヒドリがくるりと旋回しました。
それから、他の群れを引き連れて飛び去っていきます。
「す、すごいです……」
他の生き物に意識を移して、自由自在に操る。
そんなことができる人間がいるなんて……
お母さんから、人間はろくでもない性格をしていて魂は腐っている、と聞いてます。
あと、大した力を持たないくせに声だけは大きくて、喚くことしかできない、とも聞いてます。
でも……
レインさんは、その人間とはどこか違うような気がしました。
少なくとも、その力は本物。
同化なんてものを使える人間なんて、普通はいないと思います。
「……ちょっと、あんた」
「え?」
「あんたのことよ、気の弱そうなダサイ格好をしたあんたよ」
ワタシ達をこんなところに転移させた人間が、こちらを睨みつけていました。
とても凶悪な目です。
思わず怯んでしまいそうになります。
そんなワタシを見て、人間はますます凶悪な顔になります。
「あんた、今すぐあたし達を自由にしなさい」
「えっ、えっ?」
「ほら、早く拘束を解きなさいよ。今なら許してあげるわ」
な、なんでしょう……?
この人間、自分達が不利な立場にいるということ、理解していないのかな……?
拘束されて動けないはずなのに、でも、すごく上から目線です。
「で、でも……」
「あんたねぇ、あたし達にこんなことをしてタダで済むと思っているの?」
「え、えと……ど、どうにかなっちゃうんですか?」
「なるわよ。おもいきりなるわ。なにせ、あたしは勇者パーティーの一員なんだから。そんなあたしにこんな無礼を働いたら、後でどうなると思う? 処刑よ、処刑。首をスパーンと切り落とされるわ」
「ひっ!?」
その光景を想像してしまい、ワタシは思わず小さな悲鳴をあげてしまいます。
それを見た人間は、これ幸いと邪悪な笑みを浮かべます。
「まあ、あたしも鬼じゃないし? 今すぐに解放するっていうなら、特別に見逃してやってもいいわ。あたしって優しいわねー」
「そ、そんなことを言われても……」
ど、どうすれば……?
この人間が拘束されていることは事実。
普通に考えて、ワタシがこの場の支配権を握っています。
でも……この人間がウソをついていないとしたら?
本当に勇者パーティーの一員で、とんでもない力を持っていて……
自力で拘束を解けるとしたら?
だとしたら、ワタシは逆に支配権を握られている立場。
ここで逆らうようなことをしたら、どんな目に遭わされるか。
「うぅ……」
この人間は、すごくイヤな感じがします。
簡単に命を奪えるような、そんな悪い気配。
ワタシは、捕食される側なのかも。
怖い、怖い、怖い。
でも。
「だ……ダメです!」
「……あ?」
「わ、ワタシは……レインさんから、ここを任されたんです。そ、その役目を……な、投げ出すわけにはいきませんっ」
レインさんは、たぶん、ワタシを信じてこの場を任せてくれました。
信頼をしてくれました。
どうして? と不思議に思うことはあります。
ワタシ達は出会って間もないのに、信頼できる関係じゃないはずなのに……
でも、レインさんはワタシに心を預けてくれました。
それに応える必要があると、そう思うんです。
「だ、ダメですからね! あなた達を解放するなんてこと、し、しませんからっ」
「あんた、舐めてるの? このあたしが解放しろ、って言ってるのよ! 今ならまだ許してやる、って言ってるわけ」
「だ、ダメです! 絶対にダメです!」
「……あんた、後で必ず後悔させてやるわ。覚悟しておきなさい」
「ひぅっ」
怒気を通り越して殺意を叩きつけられて、ワタシは思わず怯んでしまいます。
この人間、どこかおかしい。
こんなイヤな感じがするなんて……体が震えてしまいます。
思わず、やっぱり解放します、と言ってしまいそうになります。
ワタシは……
「オンッ!」
「あっ……サクラちゃん」
サクラちゃんのたくましい鳴き声に導かれるように我に返ります。
「わふぅ」
サクラちゃんが隣に立ちます。
ワタシだけじゃない、自分がいる……と言っていました。
「わ、ワタシは……絶対にあなた達を解放しません!」
「……ちっ」
サクラちゃんのおかげもあり、なんとか人間に屈することなく済みました。
「ワフッ」
「え? 違う? ワタシがレインさんの信頼に応えようとした……から?」
そんなことをサクラちゃんに言われました。
ワタシが人間の信頼に応えようとするなんて、そんなこと……
普通に考えてありえません。
ありえないんですけど……でも、その答えはしっくりと来ました。
「そう、ですね……そうかもしれないです」
レインさんは、ワタシのことを信用してくれました。
無防備な体を預けて、敵の管理を任せてくれて。
そんなこと、普通はできません。
ワタシ達は出会ったばかりで、しかも、ほぼほぼ敵に近い関係。
でも、それは関係ないというように、レインさんは自身の思うことを貫きました。
そんなところは、人間だけど、好ましいと思います。
だからワタシも応えたいです。
レインさんが信頼してくれたように……
ワタシも、少しは信じてみようと思います。
そのための一歩として、この場をキッチリと守ってみせます。
「サクラちゃん……ワタシ、が、がんばるから……手伝ってくれますか?」
「オンッ!」
任せておけと、サクラちゃんは強く鳴くのでした。
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