401話 真の作戦
不死鳥族の里……ダンジョンから離れたところに、リーンとモニカの姿があった。
ダンジョンには無数の入り口があるため、不死鳥族が管理していない場所から出入りをした、というわけだ。
「あはははっ、モニカ、見た? あの役立たずの驚いた顔!」
「ええ、とても驚いていましたね」
「ぽかーんとして、口とか大きく開けちゃった……くくく、めっちゃウケるんですけど」
大声で笑い、リーンはとても楽しそうにする。
そんな彼女に合わせるように、モニカも笑みを浮かべているが……
その顔はどことなく無機質で、リーンが笑っているから自分も笑顔を浮かべているだけ、と言っているかのようだ。
そのことに気づかないリーンは、上機嫌で話を続ける。
「それにしても、呀狼族と不死鳥族……だっけ? よくあいつらのこと知ってたわね。あたし、今の今まで、まるで聞いたことなかったんだけど」
「リースさまは、色々なことを知っていらっしゃるので」
「ふーん……確かに、賢そうだもんね。それに、長年魔族をやっていると、色々と情報が入ってくるものなのかしら?」
「リースさまの情報源を全て把握しているわけではないので、なんとも言えませんが……おそらく、色々な伝手があるのでしょう」
「へー、さすがね。あたしら人との共存を望むだけあって、普通じゃないのね」
「ええ、もちろん。リースさまは、とても尊い方なのです」
モニカがにっこりと笑みを浮かべる。
こちらは本物の笑みだ。
主が褒められたことで、素直に喜びを表に出している。
「呀狼族と不死鳥族が、リースの命を狙ってるんだよねー? 昔、対立したことがあって恨まれるとかなんとか」
「はい、そうですね。だからこそ、どうにかして、この二つの種族を排除しなければなりません」
「それはいいんだけどさー、なんで今なの? 前々から情報を持ってたなら、もっと早くにすればよかったんじゃない?」
「相手は最強種。しかも、二つの種族と戦うとなると、スムーズにはいきません」
「まあ、それもそっか」
「ですが……今は、リーンさんがいますから」
「おっ?」
モニカは己の主に向けるような、敬愛と尊敬に満ちた視線をリーンに向ける。
そんな視線を受けたリーンは驚きながらも、まんざらでもない顔に。
「虹水晶の力を得たリーンさんに敵はいません」
「そ、そう?」
「今まではリーンさんのような強い方がいなかったため、攻めあぐねていましたが……しかし、今は違います。リーンさんがいます。なので、手をのばすことにしたのです」
「なるほどねー」
あからさまなお世辞以外、なにものでもないのだけど……
それでも、リーンはみるみるうちに上機嫌になり、笑みが隠しきれていない。
「ふふーんっ、まあ、このリーンさまは天才美少女魔法使いだし? それくらいは簡単っていうか、なんとでもなるっていうか……やってやろうじゃない!」
「ふふっ、頼もしいです」
「あたしの力と、この虹水晶があれば、最強種だろうがなんだろうが一捻りよ!」
リーンはくるくると虹水晶を回転させて、それから構えてみせた。
しかし、リーンは気がついていない。
なにも知らない。
本物の虹水晶は、まるで違う形をしていることに。
リーンが手にしているものは、闇水晶と呼ばれている、持ち主の悪意と魂を食らい成長する呪われた道具だということに。
モニカは闇水晶のことを知っているが、そのことは口にしない。
あくまでも虹水晶ということで話を進める。
そうするだけの目的がある。
「でさー、これからどうするの? とりあえず、邪魔っぽい雑魚はどっか遠くに飛ばしておいたけど」
「それなのですが……レインさん達を飛ばした先はわからないのですか?」
「うーん、ちょっと難しいかも。強制的な長距離転移って、まだ慣れてないのよね。だから、転移先は完全にランダムなの」
「そうですか……」
「ただ、けっこう遠くに飛んだことは確か。よほど運が良くない限り、近くにいるってことはないと思うわ」
「……わかりました。それなら、邪魔は入らないと判断して行動してもよさそうですね」
「なになに? 次はなにをするの?」
リーンが目を輝かせる。
虹水晶の力を使いたくて使いたくてたまらない、という様子だ。
まるで、お気に入りのおもちゃを手に入れた子供だ。
しかし、そのおもちゃは容易に人を殺傷することが可能という、笑えない話であった。
「呀狼族と不死鳥族……この二つを対立させて、ぶつけましょう」
「んー……なんか、めんどくさくない?」
「これが一番確実かと。いくらリーンさんでも、二つの最強種の全員を同時に相手にできませんよね?」
「あー……それはまあ、そうね」
「なので、楽できそうな時は楽をしましょう。二つの種族を仲違いさせて、疲弊したところで私達がトドメを刺す……どうでしょう?」
「……面倒とか思ってたけど、よくよく考えてみたら、それはそれで楽しそうね」
仲違いをさせる、という部分にリーンが強く反応する。
目をキラキラと輝かせてすらいた。
他人の不幸は蜜の味と言うが……
リーンの性格は地でそれを進んでおり、なかなかに腐っていた。
「では、その方向で……もう少し、話を詰めましょうか」
「オッケー」
今後についての打ち合わせをしつつ、モニカはちらりと虹水晶……もとい、闇水晶を見る。
リーンは気がついていないみたいだが、禍々しい漆黒のオーラが、時折あふれだしていた。
それは隙を見てリーンを飲み込もうとしている。
「……もう十分ですね」
「ん? 今、なんか言った?」
「いえ、なにも」
モニカはにっこりと笑う。
その頭の中では、己だけが知る、真の作戦が組み立てられていた。
――――――――――
仮契約した野生の狼とサクラに周囲の探索をしてもらった。
結果、少し離れたところに海を発見。
それと、人里はまるで見当たらない、ということを知る。
サクラ達が持ち帰った情報と、レゾナさんからもらった地図を照らし合わせて現在地を探る。
結果……俺達がいるところは北大陸のどこか、ということが判明した。
フィーニアの意見をもらい、何度も検証した結果なので、間違いはないと思う。
ただ……問題は、北大陸のどこなのかわからない、という点だ。
サクラもフィーニアも知らない場所にいるらしく、呀狼族の里……あるいは、不死鳥族の里への戻り道がわからない。
「まいったな……早く戻らないといけないのに」
俺達がいなくなった後……エルフィンさんは、どんな行動に出るか?
普通に考えて、俺達がリーンと共謀して、なにか企んだと考えるだろう。
そうなると、人質となっているカナデとシフォンのことが心配だ。
呀狼族の里に置いてきたニーナとリファのことも、もちろん心配だ。
「落ち着け、焦るな……」
焦りは視野を狭めてしまう。
そう自分に言い聞かせる。
「……よし」
今後の方針をまとめることができた。
サクラとフィーニアを呼ぶ。
サクラは元気よく鳴きながら、フィーニアはおずおずとした様子でこちらへ。
「さっきも伝えた通り、現状、俺達は北大陸で迷子になっている。一刻も早く、不死鳥族の里に戻る道を見つけないといけないと思う」
「は、はい……そうですね」
「でも、それは後回しにしようと思う」
「えっ?」
突然の宣言に、フィーニアが驚いたような顔に。
ただ、考えなしにこのようなことを言っているわけじゃない。
「不死鳥族の里に戻る前に、やらないといけないことがあるんだ」
「やらないといけない……こと?」
「それは……今回の件の犯人である、リーンとモニカを捕まえることだ」
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