400話 混乱の中で
「きょ、協力……?」
「そう、協力だ。ハッキリとした根拠はないし、うまく説明できないんだけど、もうレースどころじゃないと思うんだよ」
リーンとモニカが、なぜあんなところにいたのか?
それはわからないが……どうせまた、ろくでもないことを考えているに違いない。
俺を見て驚いていなかったから、狙いはこちらなのか。
あるいは、まとめて不死鳥族にも害を与えようとしているのか。
フィーニアはリーンとモニカのことを知らないため、うまく説明はできない。
時間をかけて説明すればわかってくれるかもしれないが、このタイミングで、余計な時間を失うことは避けたい。
「だから、今は協力体勢を結ぼう。そうすることが一番だと思う」
「え、えと……」
フィーニアは即答しない。
考えるような仕草をとり……
次いで、疑わしそうな目でこちらを見る。
「あ、あなたがなにか企んでいる……ということは、ありませんか?」
「あー……それは」
もちろん、なにも企んでいない。
こちらにとっても、リーンとモニカの件はイレギュラーなのだ。
ただ、そのことを証明する術がない。
人間を敵視する不死鳥族にとって、言葉だけで俺を信じることはできないだろう。
まいったな。
どうにかして納得してもらわないといけないんだけど、どうしたらいいものか。
「オンッ」
頭を悩ませていると、隣のサクラが吠えた。
いや。
吠えたというよりは、語りかけるというような雰囲気で、どこか優しい鳴き声だ。
「わふぅ……オンッ、オンッ」
「えっ、サクラちゃん?」
「オンッ!」
「う、うーん……」
どうやら、サクラが説得してくれているみたいだ。
最初は険を含んでいたフィーニアの表情、少しずつ柔らかいものに変化していく。
「……わ、わかりました」
しばらくして、フィーニアは覚悟を決めたような感じでこちらを見る。
その目には、変わらずに疑いの色。
ただ、それ以外の感情もわずかに見て取れた。
「サクラはなんて?」
「あ、あなたのことは信じても大丈夫……って」
「なら、信じてもらえるか?」
「し、信じられませんっ。人間は野蛮で獰猛で狡猾で……と、とてもひどい生き物だと聞いています! きっと、ワタシのことも隙を見て……ガクガクブルブル」
「そんなことはしないんだけどなあ……」
「……でも」
視線は険しいままだけど、フィーニアは、幾分柔らかい調子で言う。
「今は……サクラちゃんを信じてみます」
「そっか。ありがとう」
「か、勘違いしないでください! あ、あなたを信じたわけじゃないです、サクラちゃんを信じたんです。だ、だから……あうあう」
「それでも十分だよ」
サクラのおかげで、どうにか場がまとまりそうだ。
改めてサクラには感謝だ。
落ち着いたら、おいしいものでもごちそうしたい。
それにしても……フィーニア一人を説得するだけで、これだけの苦労だ。
エルフィンさんに至っては、もっと難しいだろうな。
カナデやシフォン、リファとニーナのことが心配だ。
大丈夫だろうか?
ここがどこなのか、そして、なにが起きたのか。
早いところ調べて、みんなのところへ戻らないと。
――――――――――
里に戻ったエルフィンは、他の者を集めて状況を説明した。
突然、レイン以外の人間が現れたこと。
その人間によって、フィーニアがどこかへ消えたこと。
残念ながら、増援らしき人間は取り逃がしたこと。
それらを説明した後、エルフィンは厳しい顔をして言う。
「人質達を処刑しましょう」
レインと名乗る人間は、卑怯にも仲間を連れて、忍ばせていた。
それだけではなくて、娘を誘拐した。
卑劣極まりない犯行である。
断じて許すことはできない。
不死鳥族が愚かな行為に屈することはない。
断固たる態度で挑み、相応の報いを与えなければならないのだ。
「そうだ! 殺せっ、殺してしまえー!」
「人間なんて、やっぱり信用できないわ!」
次々と賛同の声があがる。
誰も彼も怒りを声に含めていて、鬼気迫る様子だ。
その光景に、ニーナは身をすくめた。
リファはそんな彼女に寄り添い、周囲の悪意から守っている。
「落ち着け」
ヒートアップするエルフィンに、シグレがそっと声をかける。
「レインと新しく現れた人間が繋がっていると、決まったわけではなかろう? 今回のことは、まったく関係ない第三者の仕業かもしれぬ」
「呀狼族ともあろう方が、人間ごときをかばうのですか?」
「人間は嫌いさね。ただ、レインは別だよ。レインは、我ら呀狼族が認めた人間さね」
「話になりませんね。人間に騙されるなんて……所詮、呀狼族もその程度ですか」
「ほうほう……それは、呀狼族に対する侮辱かえ?」
「そう聞こえたのならばそうなのでしょう」
レインだけではなくて、呀狼族も貶めるような発言に、二人の間に不穏な空気が流れる。
視線がバチバチとぶつかり……
ややあって、シグレがため息をこぼす。
「ふう……ここで争っても仕方ないさね。それこそ、敵の思うツボさね」
「敵とはなんのことですか?」
「今のお前さんに言っても耳を貸さないだろうから、また後にするよ。それよりも、人質は処刑しない方がいい」
「なぜですか? このようなことになってもまだ、あの人間はなにもしていないと?」
「そう考えているが、お前さんは違うのだろうねえ」
「当たり前です。やはり、あなたがいるとはいえ、人間などを里に入れるべきではありませんでした。即刻、排除すべきでした」
「落ち着かないか。悪意あっての行動かどうかはともかく……現状、向こうにフィーニアがいるじゃないか。いざという時のために、人質は残しておいた方がいいさね」
「……私達も人質を確保する、ということですか?」
「それが一番だと思うが、どうかね?」
「……そうですね。一理あるでしょう。人質の処刑については、しばし待つことにいたしましょう」
誰にも気づかれないように、シグレはそっと安堵の吐息をこぼす。
どうにか、人質の即座の処刑は回避できた。
しかし、そう長くは続かないだろう。
この不透明な状況が続けば、再びエルフィンや不死鳥族の怒りが爆発してもおかしくはない。
「そうなる前になんとかしないといけないけど……レイン、サクラ、今、どうしているんだい?」
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