4話 『最強種』を使役するということ
「はい、確認しました。無事に、試験を乗り越えられたみたいですね。これで、今日からシュラウドさんは冒険者です。おめでとうございます」
冒険者ギルドに戻り、ゴブリンの魔石を提出した。
これで試験は終わり。
晴れて、俺も冒険者の仲間入りだ。
「こちらをどうぞ」
受付嬢からカードのようなものをもらう。
「これは?」
「冒険者カードになります。冒険者としての身分証のようなものですね。これを持っていることが、冒険者の証となりますので、なくされないように気をつけてください。再発行は可能ですが、一週間ほどかかります。また、故意の紛失や売買に利用した場合は、再発行されず、そのまま資格剥奪となりますので」
……そんな説明に始まり、冒険者としての心構えなどを一通りレクチャーされた。
「最後に、こちらがゴブリンの魔石十個分の報酬になります」
銅貨50枚を受け取る。
「試験なのに、報酬がもらえるのか?」
「はい、もちろんですよ。シュラウドさんが稼いだものですからね。それを横取りするような真似はいたしません」
「助かるよ」
Fランクの魔物なので、報酬は雀の涙のようなものだけど……
それでも、ないよりはマシだ。
「さっそく依頼を受けたいんだが……」
「はい、あちらの掲示板から好きな依頼を選んできてください。ただし、シュラウドさんはまだ冒険者になったばかり……つまり、Fランクですので、受けることができる依頼は限られています。どうか、ご了承ください」
新米冒険者に、いきなり高難易度の依頼を任せるようなことはしない。
そんなことをしたら、依頼が失敗するのは目に見えているし、冒険者自身も危険な目に遭ってしまうだろう。
そのことは理解しているので、特に異論はない。
「待たせたな」
「おかえりだよ~♪」
カウンターから離れて、待たせておいたカナデのところに戻る。
「ねぇねぇ、冒険者になれた? なれた?」
「ああ、なれたよ」
「そっか、おめでとう♪ レインなら、絶対になれるって信じていたよ」
「さっそく依頼を受けようと思うんだけど、カナデは大丈夫か?」
「うんっ、問題ないよ。れっつごー!」
元気の良いカナデに引っ張られるようにして、依頼用紙が貼られている掲示板の前に……
「おっ、こいつは珍しいな」
……移動しようとしたところで、大柄な男が、通路を塞ぐように俺たちの前に割り込んだ。
「もしかしてと思ったが、本物の猫霊族じゃねえか」
「……何か用か?」
「猫霊族なんて、初めて見たぜ。こいつは、何か良いことがあるかもしれないな」
こちらの言葉を無視して、男は、値踏みするような視線をカナデに向ける。
……イヤな感じだ。
カナデも不快に思っているらしく、眉をひそめている。
「こんなところに、何しに来たんだ? ん?」
「あなたに答えることなんてないよーだっ」
「ちっ、生意気な獣だな……おい、そっちの兄ちゃん」
「俺のことか?」
「お前以外に誰がいるんだよ。この猫霊族はどうしたんだ?」
この男の質問に答える義務も義理もないが、カナデと同じことしたら、機嫌を損ねてしまうかもしれない。
素直に答えることにした。
「平原の奥の沼地で出会ったんだ。それからは……まあ、色々とあって、一緒に行動してる」
「沼地? あそこには、今、キラータイガーが出現してるはずだが……」
「あの猫なら私が倒したよ」
キラータイガーを猫と言い切るなんて、さすがというべきか。
「なるほどな。猫霊族にとっちゃ、キラータイガーなんざ猫みたいなもんか。ははっ、おもしろいな、お前。気に入ったぜ」
「別に、あなたに気に入られたくないんだけど」
「そうつれないことを言うなよ。一緒に飲もうぜ? おごってやるよ」
「お断りだよ! あなたと一緒にいても楽しくなさそうだもんっ」
「そんな冴えないガキと一緒にいるよりかマシだろ?」
「こらーっ! 私のご主人様をバカにしないでーっ、レインは、私を使役しているんだからねっ」
「は? 使役?」
「俺はビーストテイマーなんだ」
ここはハッキリさせておかなければいけないところだと思い、キッパリと言った。
男は目を点にして……
次いで、下品な声で笑う。
「はははっ! このガキがビーストテイマー? それはいいとして、猫霊族を使役した? バカなことを言うな、そんなこと、ありえるわけねえだろうが。猫霊族ってのは、最強種なんだぞ? こんなガキに使役できるわけねえだろ」
「それは、あなたの目が曇ってるからでしょ? レインは、すっごいビーストテイマーなんだから。あなたの何倍も強いんだからっ」
「ほぉ……このガキが、俺様の何倍も強いってか」
男の目に危険な色が宿る。
「なら、勝負してみるか? 俺とこのガキで……そうだな、腕相撲をしよう。猫霊族を使役できるようなビーストテイマーなら、俺なんて相手にならないだろう? そうだよな?」
「もちろんっ、レインは、誰にも負けないんだから!」
「お、おい、勝手に話を進めるな」
「俺が負けたら、土下座なり、なんでもしてやるよ。だが、俺が勝った時は、お前は俺のものだ」
「いいよっ、その勝負、受けた!」
「だから、俺の話を……ダメだ、まったく聞いていないな」
カナデはバチバチと火花を散らすのに必死で、こちらを振り返りもしない。
この男と勝負?
腕の太さが俺の倍はありそうな男と腕相撲?
無茶苦茶な話だ。
早く止めないといけないのだが……
「じゃあ、さっそく始めようぜ。おい、そこのテーブル借りるぜ」
「レインっ、ぎったぎたのコテンパンにしていいよ!」
もう止められないところまで話が進んでいた。
これは、どうしたら……?
俺の戸惑いを見た男が、意地の悪い笑みを浮かべる。
「おいおい、ご主人様の方はやる気がなさそうだなあ? 怖いのか? 頭を下げれば、不戦敗ってことにしてもいいぜ。ま、そこの猫霊族はもらっていくがな」
「……」
俺のことは、怪我をしようと、どうなろうと構わないが……
カナデが絡むとなれば、別だ。
こんな男にカナデを預けられるわけがない。
「やろうか」
「ほう、少しは度胸があったみてえだな。それとも、ヤケになっただけか?」
男の言う通り、半ばヤケだった。
意地を張っているだけ、とも言える。
だが……
カナデが連れ去られようとしているのに、何もしないなんてことはありえない。
俺にできることはなんでもする。
それだけだ。
男と手を組み、肘をテーブルに乗せる。
「細い手だな? 折れても文句は言うなよ」
「……」
「へへっ、ぶるって声も出ないのか?」
「いいから始めるぞ。口ばかりで、その筋肉は飾りなのか?」
「てめえ……いいだろう。手加減なしに、おもいきりやってやるよ」
周囲の冒険者が、楽しそうな目でこちらを見る。
中には、賭けをしている者もいた。
俺は大穴中の大穴だ。
相手の冒険者は力自慢で知られているらしく、そのことを考えれば仕方ない。
でも……見ていろよ。
これでも、勇者パーティーに在籍してたことがあるんだ。
一泡吹かせてやる!
「私が合図をするね。いい?」
俺と男が同時に頷く。
「レディ……ゴー!」
……勝負は一瞬だった。
俺は全力で挑み……
大した抵抗を感じることなく、男の腕を押し切り、手の平をテーブルの上に叩きつける。
「ぎっ……ぎゃあああああ!!! 腕が、俺様の腕が……あぐうううっ」
腕が折れたらしい。
男は折れた腕を抱えて、悶え苦しむ。
そんな男を見て、俺は首を傾げた。
「……なんで?」
筋肉の鎧を着ているような男に、俺が勝てる要素はなかったはずなんだけど……
なぜか、圧勝してしまった。
わけがわからない。
「勝者っ、レインー!」
呑気なカナデが俺の名前を高らかに呼んだ。
「さすがレイン♪ あんな男なんて、目じゃないねっ」
「いや、なんていうか……俺自身、驚いているんだが……あんな力、俺にあるはずがないのに……」
「何を言ってるの? レインは今、さいきょーなんだよ? 私の力を分けてあげてるんだからねっ」
「どういう意味だ?」
「あっ、もしかして、レインって普通の動物としか契約したことがない? 私みたいな、一定以上の位の……最強種と契約したのは初めて?」
「そりゃそうだ。最高でも、普通の熊くらいだ」
「そっか、なら知らないよね。あのね、私達、最強種と契約をした場合、個体の能力に応じて、力を得ることができるんだよ。私達、猫霊族は力が強いから、レインの力もそれ相応に強化されているの」
「マジか」
「マジだよん♪」
今の俺は、猫霊族並の身体能力を得た、っていうことか……
なんか、とんでもない話だな。
夢でも見ていると言われたら、簡単に信じてしまいそうだ。
「やっぱり、レインについてきてよかった。私を守ろうとしてくれて、すっごいすっごいうれしかったよ♪」
「いや、まあ……それは当たり前だろう?」
「えへへ♪ ありがと、レイン」
未だ、認識が現実に追いついけず、呆然としてしまうものの……
とりあえず、カナデを守ることができた。
今は、それでよしとしよう。
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