399話 今は手を取り合って
ぐにゃり、と空間が歪む。
その歪みはどんどん大きくなり、俺達を飲み込むように大きくなる。
「くっ!」
とてつもなくイヤな予感がした。
俺とサクラは後ろに跳んで逃げる。
同じく、不穏な気配を感じたらしく、エルフィンさんも歪みから離れる。
ただ……
「フィーニア!?」
「あっ……お、お母さん……」
フィーニアが逃げ遅れて、歪みに捕まっていた。
その手が歪みに食らいつかれているかのように、引きずりこまれようとしていた。
娘が危ないかもしれない。
しかし、相手は正体不明。
迂闊に動けば、自分もやられてしまうかもしれない。
そんな思考が働いたらしく、エルフィンさんがためらう。
ならば……ここは俺の番だ!
「フィーニア!」
「えっ……?」
歪みを避けるようにしつつ、フィーニアの手を取る。
そして引っ張り上げようとするが、
「くっ……これは!?」
フィーニアは空間に固定されてしまったかのように、まるで動かない。
それどころか、どんどん歪みに引き込まれていく。
「オンッ!」
サクラも加わり、俺と一緒にフィーニアを引っ張ってくれる。
それでも力が足りない。
少しずつ引き込まれてしまい……
「あはははっ、さようなら!」
リーンの笑い声を耳にしつつ、俺達は歪みに飲み込まれてしまった。
――――――――――
「……ここは?」
気がつくと空が見えた。
軽く視線を動かすと、草と土が視界に。
どうやら、ここは不死鳥族の里ではなくて外みたいだ。
俺、なんでこんなところで寝ているんだ……?
「……って、フィーニアとサクラは!?」
ぼんやりしていた頭がハッキリとして、前後の状況を思い返した。
慌てて起き上がり左右を見る。
少し離れたところにフィーニアが倒れていた。
そこからさらに離れたところに、サクラの姿が。
「フィーニア、大丈夫かっ? フィーニア!」
まずはフィーニアのところへ。
その体を抱き起こして、強く声をかける。
「んっ……うぅ?」
軽くゆさぶると、フィーニアはゆっくりと目を開けた。
どことなく寝ぼけているような感じだ。
ただ、次第に目の焦点が定まっていき……
「……ぴゃあああっ!? に、人間っ!?」
悲鳴をあげて飛び上がり、逃げるようにして俺から離れた。
そのまま頭を押さえてうずくまる。
「お母さんがいない!? わ、ワタシだけ……!? ということは、人間と二人きり!?」
「えっと……?」
「食べないで食べないで食べないでくださいいいいいっ!!!」
「え? いや、あの……食べないぞ?」
「ウソっ、ウソですぅううう! お母さんが言っていました。悪いことをしたら人間に食べられちゃいますよ、って!」
「えっと……」
「きっと、ワタシのことも食べちゃうんですね!? パクリと! こんなところに誘い出して、あうあうあう!?」
「オンッ!」
「ぴゃあ!?」
ひたすらに対応に困っていると、いつの間にか目を覚ましたサクラが近づいてきていて、フィーニアの近くで大きく鳴いた。
その声に驚くようにして、彼女が小さくジャンプ。
決壊寸前のうるうる涙目をサクラに向ける。
「……サクラちゃん?」
「おふぅ。オンオンッ」
「……この人間は、そんなことはしない?」
「オンッ!」
よくわからないが、会話が成立しているみたいだ。
傍から見ると、サクラはわんとしか鳴いていないのだけど、フィーニアは意思疎通ができるらしい。
最強種同士だからこそ成り立つのだろうか?
「あの……」
ややあって、フィーニアがおずおずと話しかけてきた。
まだ俺のこと……というか、人間が怖いらしく、二メートルほどの距離が空いている。
「えと、その……へ、変な勘違いをしてすみませんでした。サクラちゃんは、あなたはなにもしていないし、なにもしない……って」
「あ、うん。わかってくれたのなら、それでいいよ」
「それで……なにがどうなっているのか、教えていただいても……?」
「そのことなんだけど……」
改めて周囲を見る。
外であることは間違いないが、ここがどこなのか、さっぱりだ。
「ごめん。俺にも、なにが起きたのかわからなくて」
「そうなんですか……あ、あのっ、お母さんは?」
「近くにはいないと思う。もしかしたら、ここに飛ばされたのは俺達だけなのかも」
俺とサクラとフィーニアだけ同じ場所で、エルフィンさんだけ遠く離れた場所に飛ばされる理由がわからない。
空間転移……なのだろうか?
それに巻き込まれたのは俺達だけ、と考えるのは自然だろう。
なにが起きたのかわからないけど、誰の仕業かということは明白だ。
リーンがなにかしらの手段を使い、俺達を外に転移させたのだろう。
その方法や目的は不明だけど……
どうせ、ろくでもないことに決まっている。
カナデとシフォンのこともあるし、できるだけ早く不死鳥族の里に戻らないと。
「うぅ、そんな……ワタシ、どうすれば……」
「あのさ」
「ひゃ、ひゃい!?」
「こんな時だから……いや。こんな時だからこそ、俺達、協力できないかな?」
そう言いながら、俺はフィーニアにそっと手を差し出した。
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