398話 混沌の始まり
「うーん」
現在、七層。
わりと良いペースで進んでいると思うのだけど、いかんせん、エルフィンさんとフィーニアがどうしているのかわからない。
そのため、優勢なのか劣勢なのか判断がつきにくい。
二人と激突することを望んでいるわけじゃないけど……
このまま何事もなく勝利したとして、果たして、不死鳥族に認めてもらえるのだろうか?
妨害するエルフィンさん達をなんとかしてこそ、力を示すことができるような気がする。
とはいえ、好き好んで争いたいとは思わないし、できることならこのまま……という思いもあり。
「……ジレンマだなあ」
「わふぅ?」
隣をトテトテと歩くサクラが、俺のつぶやきに反応して、不思議そうにこちらを見上げた。
その頭を撫でつつ、先を急ぐ。
力を示せるか、示せないか。
認めてもらえるか、もらえないか。
どちらに転ぶかわからないが、最低条件として、このレースに勝利しなければいけないというものがある。
まずはレースに勝利して……
それでうまくいくのならば、よし。
ダメだとしたら、その時また考えよう。
「グルルッ……!」
「っと、そうこうしている間に敵か。下層に進むにつれて、どんどん数が増えてきたな」
それなりにレベルの高い魔物なのだけど、サクラがいるおかげでぜんぜん苦戦しない。
単純に、サクラが強いという理由もあるのだけど……
それだけじゃなくて、こちらの考えを読んでいるかのように、サポートが欲しいところで必ずサポートをしてくれる。
息ぴったりだ。
「サクラはすごいな。どうしたら、そんな風にうまく動けるんだ?」
「オンッ!」
どことなく誇らしげに、サクラは大きな声で鳴いた。
「ぴゃあっ!?」
そんなサクラの声に反応して、少し離れたところから聞き覚えのある声が。
「び、びっくりしたぁ……いきなり大きな声がして……あっ」
「あっ」
姿を見せたフィーニアと目が合う。
突然のことに驚いて、体と思考が固まってしまう。
さらに、フィーニアの後ろからエルフィンさんが姿を見せる。
「あら?」
同じく目が合う。
そして……
「人間っ!」
「おわっ!?」
炎の波が生まれて、視界を埋め尽くすかのように広がる。
避けるスペースがない!
ならば、
「ファイアーボール!」
魔法を唱えて、炎で炎を相殺する。
その試みはうまくいき、なんとかエルフィンさんの炎から逃れることができた。
「私の攻撃を防ぎますか。人間ごときが、なかなかやりますね」
「いきなり攻撃するとか、ちょっとひどくありません……?」
「ルール上、なにも問題ありませんが? たかが人間が、ここで死んだとしても、誰も気にすることはありません」
たかが人間、と来たか。
不死鳥族の人間嫌いは、精霊族を大きく上回っているな。
シグレさんが言っていた、人を敵視しているという意味、肌身に感じて理解できた。
こうなったら仕方ない。
というか、ある意味で望むところだ。
真正面から激突して、その上で二人を制圧することができれば、他の不死鳥族にも認めてもらえる可能性が高い。
この状況を逆に利用する!
「サクラ、力を貸してくれ!」
「フィーニア、行きますよ!」
俺とエルフィンさんはそれぞれのパートナーに呼びかけるものの、反応が薄い。
いつでも動けるように構えつつ、何事かとサクラを見ると……
「グルルルゥ……!」
明後日の方向を見て、低い唸り声を発していた。
フィーニアもまた、サクラと同じ方を見て不安そうな顔をしている。
「な、なに、この気配……? すごくイヤな感じがして……あううう」
「フィーニア? どうしたのですか。人間を前にして、そのような……」
「お、お母さんっ、なにか、ものすごくイヤな気配が……うぅ、なにこれ、すごい悪意……人間? でも、それ以上の……」
フィーニアは自分を抱きしめるようにして、ガタガタと震えていた。
なんだ?
サクラの様子もそうだけど……いったい、なにが起きている?
明らかな異常事態に、俺とエルフィンさんは戦闘体勢を解いた。
そして、それぞれのパートナーのところへ移動する。
「サクラ、どうしたんだ? もしかして、また魔物が現れたのか?」
「グルルルゥッ……!!!」
俺の問いかけに答えている余裕はないという感じで、サクラは唸り声を発し続けていた。
その視線の先を俺も追いかける。
すると、コツコツという足音が響いてきた。
その数は二人分。
少しして影が見えて、その本体が見える。
その正体は……
「あはっ♪ ホントにこんなところにいるし」
「リーン!?」
「ひさしぶりねぇ、ゴミ虫ちゃん」
「ごきげんいかがですか?」
さらに後ろからモニカが現れる。
「お前ら、なんで……いや。それよりも、どうやってここに!?」
不死鳥族の監視の目をかいくぐり、どのようにしてダンジョン内に移動したのか?
そもそもの話、なぜリーンとモニカが不死鳥族のことを知っているのか?
ここに至るまで精霊族の里を経由しているから、俺達の後をつけてきたという可能性は低いはず。
そうなると、独自に情報を掴んでいた……?
そして、なにかしらよからぬことを企み、動き始めた……?
こんなタイミングで……と、嘆くべきだろうか。
それとも、偶然にも、二人の企みを潰す機会を得られたと喜ぶべきだろうか。
どちらにしても、厄介極まりない。
「出会って早々で悪いんだけど、あたしからとびっきりのプレゼントをしてあげるわ」
リーンはニヤリと笑う。
すると、その手に持つ透明な杖が黒く輝いた。
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