396話 甘え上手
俺とサクラは右の通路を進み、フィーニアとエルフィンさんは左の通路を進む。
すぐに互いの姿が見えなくなり、パートナーのサクラの息遣いだけが聞こえるように。
「ダンジョンと言っても、この辺は整備されているか」
現在、四層。
居住地ではないとはいえ、魔物などの侵入を防ぐための防壁を設置したり、時折、見回りをしているのだろう。
そのためか、三層と変わらないくらいに綺麗で、魔物の姿も見当たらない。
「魔物が出ないうちに、できる限り下層に進んでおきたいな」
「おふぅ」
「うん? サクラ?」
サクラは俺のズボンをぱくりと咥えると、ぐいぐいと引っ張る。
まるで、こっちに来て、と言っているかのようだ。
「もしかして……下層に続く階段の場所がわかるのか?」
「オンッ!」
力強い鳴き声が。
自分に任せろ、という自信を感じられる。
四層以下に突入するのは、サクラも初めてだと聞いているが……
呀狼族だからなのか、なにかしら感じるものがあるのかもしれない。
「よしっ、頼んだ!」
「ウォーンッ!」
サクラが勢いよく駆け出した。
その走りに一切の迷いはない。
頼もしいな……って、感心している場合じゃないか。
のんびりしていたら置いていかれてしまいそうだ。
俺は急いで駆け出して、サクラの後を追う。
直線を駆け抜けて、右へ左へ曲がる。
そうしてたどり着いた先は……
「……」
「……」
行き止まりだった。
「サクラ?」
「……おふぅ」
申しわけなさそうな感じで、サクラが頭をペコリと下げた。
やらかした、という自覚はあるらしい。
「くぅん……」
これは違う、なにかの間違い。
こんなはずじゃなかった……そんな感じでサクラが鳴く。
言葉はわからないのだけど、考えていることはなんとなくわかる。
ものすごく慌てているみたいだ。
「気にしてないから」
「おふぅ……?」
落ち着かせるように、サクラの頭を撫でる。
「確かに、この勝負、絶対に負けられないんだけど……でも、だからといって、サクラだけに責任を押し付けるなんてことはしないさ。一緒にがんばろうな」
「オンッ!」
サクラはやる気を取り戻した様子で、再び力強く鳴いた。
それから鼻をスンスンと鳴らして、下層に続く道を探し始める。
匂いをかぎながら、その場でグルグルと回る。
グルグル。
グルグル。
グルグル。
混乱しているのだろうか?
と疑いたくなるほどにその場で回り、なかなか離れようとしない。
というよりは……
「おふぅ?」
どうも戸惑っているみたいだ。
サクラの反応を見る限り、ここに下層に続く道があるらしい。
でも、それらしきものは見当たらず……それ故に、なんで? と混乱しているのだろう。
「ふむ」
サクラを信じるか。
それとも、他のところを探すか。
「その二択なら決まりだよな」
今、俺とサクラはパートナーであり……仲間と言っても過言じゃない。
ならば、サクラのことを信じないと。
「うん?」
ふと、サクラがウロウロしている辺りの床に亀裂が入っていることに気がついた。
自然にできるようなものではなくて、人工的につけられたような亀裂だ。
サクラがその亀裂に鼻を近づけると、わずかに毛が揺れるのが見える。
ということは……あの亀裂から風が吹いている?
「サクラ、ちょっとどいてくれ」
サクラを呼び戻した後、魔法を唱える。
「ファイアーボール!」
火球が着弾すると、その衝撃に耐えられず、床が円状に崩落する。
落ちないように気をつけつつ覗きこむと、五層が見えた。
「なるほど、天井が崩落しかけていたのか」
だから、サクラはここに反応したのだろう。
でも階段は見当たらず、困惑していた……ということか。
「別に、階段を使って移動しないといけない、っていう決まりはないからな。サクラ、お手柄だ」
「オンッ!」
うまくいったことを悟り、途端にサクラが元気になる。
大きく胸を張り、やったぜ、みたいな感じで凛々しい顔に。
それから、じっとこちらを見つめてくる。
目をキラキラと輝かせていて、尻尾をぶんぶんと左右に振っている。
褒めて褒めて! と全力でアピールしていた。
そんな姿についつい笑いをこぼしつつ、サクラの頭を撫でる。
「ありがとうな。サクラのおかげで、すぐに五層に移動することができた」
「おふぅ……オンッ、オンッ」
「うわっ」
サクラはとてもうれしそうにしつつ、体をスリスリと寄せてきた。
ものすごく甘えられている。
反応がすごく大きいから、こちらもついつい甘やかしてしまうというか、褒めてしまうというか……
サクラは甘え上手だな。
ふと思う。
ところで、サクラは何歳なんだろう?
シグレさんの孫と聞いているから、俺より上ということはないと思うが……
まあ、今はいいか。
うまくいった後にでも聞くことにしよう。
「よしっ、このままがんばるぞ、サクラ!」
「オンッ!」
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