390話 親睦会
「いやぁ、兄ちゃん。レインって言ったっけ? まさか、あのシグレさまに勝つなんてなあ……うん、すごい人間だ。素直に感心したぜ」
「よくよく見てみれば、とても澄んだ目をしているね。うん、あたしの旦那の次に……いや、旦那以上に良い男かもしれないね」
「飲んでいるか、客人よ? その酒は、この里で作られた特殊なものでな。やや苦味があるのが特徴的だが、そこが癖にならないか?」
たくさんの呀狼族の人に囲まれて、みんなで酒を飲んでいた。
シグレさんに勝利したことで、俺とシフォンは呀狼族に認められた。
ただ、実際に言葉を交わしたことがない。
なので、親睦会が開かれることになったんだけど……
この陽気さは、なんだろう?
本当に人間が嫌いなのだろうか? と疑問に思うほど、とても親しく、優しくしてくれている。
「ふにゃー……このお酒、強烈だよぉ……頭がぐるぐるするぅー」
「カナデ、大丈夫? 水飲む?」
「……ひっく」
少し離れたところで、カナデとリファとニーナが、同じく呀狼族達に囲まれて酒を飲んでいた。
あちらは同じ最強種ということもあり、最初から仲が良さそうだ。
それにしても……カナデが一番酔っているように見えるのだけど、もしかして、一番酒に弱いのだろうか?
ニーナがマイペースに飲み続けていて、ちょっと心配になる。
「ほらっ、客人! 明後日を見てないで、今は俺達と色々な話をしようぜ」
「そっちの女の子も、どんどん飲みなさい。女だからといって、遠慮する必要はないんだからね」
「お前は逆にもうちょっと遠慮しろよ……」
「うるさいね! あたしは酒が好きなのさ。唯一の楽しみを邪魔するヤツは、例え同胞といえど容赦しないよ」
「は、はあ……」
やっぱりというか、シフォンも戸惑っていた。
よくわかる。
こんな笑顔を見せられて、人間嫌いです、なんて言われても信じられない。
シフォンが顔を寄せて、こっそりと耳打ちする。
「レイン君、呀狼族って本当に人間嫌いなの?」
「その疑問は、俺も思っていたところだよ」
「ほっほっほ、二人共、驚いているようだねえ」
シグレさんが姿を見せた。
その手には、酒がなみなみと入った器が。
俺達や他の呀狼族以上に飲んでいるみたいだけど、顔色がまったく変わっていない。
強い力を持つだけではなくて、とんでもない酒豪みたいだ。
「えっと……人である俺がこんなことを聞くのも変かもしれないですけど、呀狼族って、本当に人間嫌いなんですか?」
「嫌いさね。人間は、私らが何度も忠告したにも関わらず、愚かな行動を繰り返した。その果てに……一つの最強種を絶滅させた」
それは、天族のことだろうか?
当時を見ていたのだとしたら、シグレさんの失望も理解できる。
「ただ……前も言ったかもしれないけど、私ら呀狼族は、特定の者を主と定めて絶対の忠誠を捧げるんだよ。それ故に、一度心を許した者には……このような感じになる、というわけさね」
「なるほど」
人を見たらすぐ唸り威嚇するような野良犬が、飼われるとものすごく人懐っこくなるのと似たような感じかな?
「まあ、再び人間と笑顔で酒を飲み交わす日が来るなんて、想像だにしていなかったけどね」
「そうなんですか? それなら、どうして」
「力を示した、というのもあるけどね。それ以上に、二人の間にある絆に、私らは心を打たれたのさ」
「絆?」
「言葉を交わすことなく、即興で作戦を組み立てる。互いを信頼していなければ、できないことさね。そんなことができる人間がまだいるなんて……と、驚いたよ。私らが北大陸に移り、数百年……人間も変わってきているのかねえ」
過去の人が、どれだけ愚かなことをしたのか。
又聞きでしかないし、本当のところはなにもわからない。
でも、変わっていてほしいと思った。
「おっと、すまないね。せっかくの祝いの席なのに、しんみりした話をしてしまって」
「いえ……」
こんな場を設けてもらっておいてなんだけど……
イリスのことがある以上、心から楽しむことはできない。
だから、どんな話をされたとしても問題はない。
むしろ、先に関連する話なら大歓迎だ。
「とりあえず……酒でも飲みながら、今後の話をしようか」
「あ……はい!」
こちらの求めるものを察したらしく、シグレさんは近くに座る。
「さて……まずは、私ら呀狼族と不死鳥族の関係を話しておこうさね」
「はい、お願いします」
「私達は共に人間に失望したということもあり、それなりに良好な関係を築いているよ。暮らしている場所は今でこそ別だけど、一時期は、一緒に暮らしていたこともあったらしい」
「どうして、別々に?」
「ちょっとケンカをしてしまってね」
「ケンカ……ですか」
争いとか決別とか、そういう単語が使われているところを考えると、些細なものなんだろうか?
そんな俺の推測が正しいというように、シグレさんはのんびりと話を続ける。
「なーに、大したことじゃないんだけどね。とあることで意見が対立して、私らの方が正しい。いやいや、俺達の方が正しい、っていう感じになってしまったのさ。意地と意地のぶつかりあいという感じで、互いに一歩も引かなくてねえ……ついには、勝負をすることになったのさね」
「え? それって、私達がしたような決闘ですか?」
シフォンが驚きの声をあげるけど、シグレさんは首を横に振り否定する。
「私ら最強種が決闘なんてしたら、とんでもないことになるさね。だから、別の方法で決着をつけたんだよ」
「それは……?」
「レースさね」
「レース……ですか?」
「不死鳥族が暮らすダンジョンは、けっこう深いんだよ。住居として利用しているのは3層程度で、その奥はほったらかし。魔物なんかも再び湧いているみたいだけど、不死鳥族はまるで気にしていなくてね。で……そんなダンジョンの最下層に先に到着した方が勝ち、というルールを設けたというわけさね」
「なるほど……それは確かにレースですね」
「以来、呀狼族と不死鳥族の友好を深めるために、レースは定例行事となったのさ」
シグレさんが、まったく関係のない話をするとは思えない。
不死鳥族とのレースの話をするということは、つまり……
「もしかして……そのレースに俺達が?」
「正解」
シグレさんはいたずらが成功したような子供みたいに笑う。
「ちょうどいい具合に、そろそろレースの時期さね。呀狼族の代表として、レインとサクラを出場させようと思うんだけど、どうだい?」
「それ、荒れませんか……?」
「おもいきり荒れるだろうね」
サラリと言うシグレさんだった。
ただ、悪ふざけや冗談を口にしている様子はない。
「不死鳥族は人間を敵視しているからねえ……私らが仲介したとしても、まともに話を聞いてくれるか怪しいのさ。良くて追い払われる、悪ければ、私ら呀狼族も敵視されることになるだろうね」
「それは、また……」
本当に、俺達の先祖はなにをしてくれたのか。
たぶん、イリス達天族にしたのと似たようなことなんだろうけど……
当事者ではないのだけど、とても申しわけなくなってしまう。
「ただ、レースに出場するだけなら、なんとかなると思うよ。反発は必須だろうけど……自分達の手で潰してやろうと、参加を認めてくれる可能性は、そこそこあると思う」
「ぶ、物騒だね……」
「レースに出場して、レインとサクラがうまくやるところを見せれば、あるいは、不死鳥族の気持ちも変わり、話を聞いてくれるかもしれない。私達が心を動かされたみたいに……ね」
うまくいくかどうか……
それは、俺とサクラ……いや。
俺次第というわけか。
「どうだい、やってみるかい? サクラが一緒とはいえ、危険はあるだろうし……一部の不死鳥族は、とことん人間を嫌っているからねえ。ひょっとしたら、なにかしてくるかもしれない。それでも、可能性があるとしたらこの道だけだと思うさね」
「やらせてください」
「おや。即答かい」
「不死鳥族に話を聞いてもらう方法がそれしかないというのなら……イリスを助ける可能性が少しでもあるのなら、俺は、やれることをやるだけです」
「うん、良い顔だね。レインならもしかしたら、っていう期待をしてしまうね。ホント……あの方を思い出すねえ」
そう言うシグレさんは、前の主……勇者のことを思い出しているのだろうか?
とてもしみじみとした口調で言い、懐かしそうな顔をしていた。
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