385話 出直し
俺達が現れたことで、不死鳥族は厳戒態勢に。
なんとか話を聞いてもらおうとしたのだけど、とてもそんな雰囲気じゃなくて……
まったく解決の糸口を見出すことができない。
ここで粘るよりは、再びシグレさんに助力を求めた方がいいだろう。
そんな判断に至り、俺達は呀狼族の里に戻った。
「おかえり。その様子だと……残念ながら、私の言った通りになったみたいだねえ」
疲れ果てて戻った俺達を見て、シグレさんが苦笑した。
「面目ないです……事前に忠告されていたのに、こんな結果に」
「仕方ないさね。不死鳥族は、人間のことを完全に敵視しているからね。魔物と同じ扱いなのさ。よく無事でいられたねえ」
「最初、一人で出てきた女の子がいまして……いきなり全員で襲われていたら、危なかったかもしれません」
「へえ、女の子……どんな子だったんだい?」
「えっと……赤い髪をしていて。歳はカナデと同じくらい? あと、特徴的な首輪をしていました」
「ああ、なるほど。そいつはおそらく、フィーニアの嬢ちゃんだね。あの子は、ちょっとおどおどしたところがあるからねえ……そのおかげで、助かったところもあるんだろうね。他の不死鳥族だとしたら、さらに強大な火力で焼かれていたよ」
「知り合いなんですか?」
「サクラと仲良しの子でね。よく知っているよ」
今更ではあるが、呀狼族と不死鳥族の関係はどうなっているんだろう?
急ぐあまり、まっすぐに不死鳥族のところへ行ってしまったけれど……
もしかしたら、それは間違いだったかもしれない。
呀狼族と不死鳥族の関係を調べることで、なにかしらの突破口が見つかるかもしれないし、焦らず、情報収集を優先させた方がよさそうだ。
「シグレさん達呀狼族は、不死鳥族と仲が良いんですか?」
俺の聞きたいことを、シフォンが代わりに聞いてくれた。
「そうさねえ……悪いということはないし、むしろ、良い方ではあるねえ」
「なら……」
「仲介をしてくれないか? っていう話だろう。悪いけど、そいつは無理だねえ」
シフォンの言葉を先回りして、シグレさんが首を横に振る。
「レイン達の事情は知った。協力もしたいとは思う。ただ……それで呀狼族と不死鳥族の仲がこじれるようなことになれば、目も当てられないことになる。これでも、私らも信用を得るのにそれなりの時間がかかっていてねえ……それが一瞬で崩れ落ちるようなこと、なかなかやることはできないさね」
「にゃー……私達のことを仲介して、話を聞いてもらうようにするだけなのに、そんなことになっちゃう可能性があるの?」
「あるねえ……不死鳥族は人間が嫌いじゃなくて、敵と認識しているんだよ。例えるなら……そうさね。猫霊族の嬢ちゃんのところに、突然、人間がやってきたとする。その人間は魔物を連れていて、こいつは良いヤツだから話を聞いてくれ、なんて言われたらどうする?」
「……ものすごく警戒する」
「つまり、そういうことなのさ。不死鳥族にとって人間は、魔物と同じ扱いなのさね」
話によると、不死鳥族は天族と同じように、人に酷い目に遭わされたという。
それならば仕方ないと、納得してしまう話だった。
とはいえ、ここで諦めるなんて選択肢はない。
どれだけ可能性が低くても。
どれだけ希望が少ないとしても。
イリスを助けるためならば、どんなことでも全力でぶつかるのみだ。
「その上で、お願いします。どうか、仲介役を頼めませんか?」
頭を下げて言う。
困ったような声が上から降ってくる。
「やれやれ……今の話を聞いて、迷わずそんなことを言うのかい」
「はい」
「私ら呀狼族にも迷惑をかけるかもしれないと、その可能性を考えての結論かい?」
「その時は、仲裁に全力を尽くします」
「レインの言うことは、あれもほしいこれもほしいっていう、子供の理想のような青臭い話だと思うんだけどねえ」
「現実は知っているつもりです。青臭い理想論だということも理解しています。だからといって、諦めるようなことはしたくないんです」
「理想を貫き通すことができると?」
「俺一人では無理です。でも、頼りになる仲間がいますから」
「にゃー……レイン」
「みんながいれば、なんでもできる。どんな不可能にも挑戦することができる。そう思っています」
「……」
シグレさんが、じっとこちらを見つめてきた。
穏やかな目をしているものの、その瞳に宿る圧は強い。
ともすれば、目を逸らしてしまいそうだ。
でも、そんなことは絶対にしない。
こちらの意思を伝えるため、そして、認めてもらうため。
じっと、見つめ返す。
「……ふう」
ほどなくして、シグレさんが吐息をこぼした。
仕方ないなあ、なんて苦笑しているかのようだ。
「やれやれ、頑固だねえ。レインみたいな人間に会ったのは、本当に久しぶりだよ」
「えっと……?」
「仲介するかどうか、そこについてはまだ決められないよ。私の一存で決めていいものじゃないからね。ただ、里のみんなで話し合うことは約束するさね」
「本当ですか!?」
「レインの強い想いに心を動かされたよ。あんたみたいなまっすぐな人間には、私ら呀狼族は弱いのさ」
「ありがとうございます!」
「あと……縁もあるからねえ」
縁とは、いったいなんのことだろう?
しかし、その質問をするよりも先に、シグレさんが席を立つ。
「さて……緊急の集会を開かないといけないね。サクラ、みんなを呼んで、広場に集めておくれ」
「オンッ!」
「そのまま集会をすることになるだろうから、レイン達はここで休んでいるといいよ。強行軍で疲れただろう」
「えっと……はい。それじゃあ、お言葉に甘えて」
俺やカナデ、シフォンはまだ余裕が見えたのだけど……
でも、ニーナとリファの年少組は、ちょっとうつらうつらとしていた。
ここは言われた通り、休むことにしよう。
――――――――――
広場の方が騒がしくなり、集会が始まった。
そして、どれくらいの時間が過ぎただろうか?
三時間は経っていると思うのだけど、まだ終わる気配がない。
テントの外に向かう。
「どうしたの、レイン君?」
「ちょっと様子を見に」
「レイン君も休んでおいた方がいいんじゃあ……」
「俺は大丈夫。無理はしていないし、しっかりと体調管理はしているから」
なにか言いたそうなシフォンの視線を振り切り、俺はテントの外へ。
すると、ほどなくしたところでシグレさんの姿が見えた。
一人で、他に誰もいない。
「おや? どうしたんだい?」
「えっと……どうなっているのかな、ってちょっと様子を……」
「ああ、なるほどね。待たせてすまないねえ。予想していた以上に、話し合いが難航していてねえ……今は、ちょっとした休憩さ。時間をかけてすまないが、もう少しだけ待っておくれ」
「はい、わかりました」
そのまま、なんとなくシグレさんと二人で風を浴びる。
北大陸の風はスッキリと心地良い。
「……」
「……」
少しの間、沈黙が続いて……
「なにか聞きたいことがあるんだろう?」
俺の心を見透かしたかのように、シグレさんがそんなことを言う。
「どうしてわかったんですか? もしかして……」
「呀狼族の特殊能力とか、そういうわけじゃないさ。ただ単に、レインがわかりやすいだけさね」
「うっ……」
俺、そんなにわかりやすいのかなあ……?
色々な人に言われるものだから、少し気になってきた。
「あの……どうして、ここまで俺達によくしてくれるんですか?」
「そうさね……縁、とでも言っておこうか」
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