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384話 話を聞いてくれない

 カナデと同じくらいの歳の女の子だ。


 なによりも最初に見てしまうのは、燃えるような赤い髪。

 タニアのものよりも色が濃く、それでいて鮮やかに輝いている。

 そんな髪は腰に届くほどに長い。


 そして、耳も尖っているかのように長い。

 横にピンと伸びていて、独特の形状をしている。


 背は高くも低くもなく。普通だ。

 身につけている服はやや露出が高く、少し目のやり場に困る。


 赤い髪に続いて、もう一つ特徴的なのは、首輪だ。

 チャランと鎖が少しだけついている首輪を身に着けていた。

 とても丁寧で細かい装飾が施されていて、宝石もあしらわれている。

 奴隷というわけではなさそうだから、アクセサリーの一種なのだろうか?


「な、なんで扉が開いて……誰か外に出ていたっけ? えっと……あれ?」

「にゃっほー」


 女の子の視線がカナデに向いた。

 カナデはにっこりと笑みを浮かべて、敵じゃないよ、と言うような感じで手を振りつつ呑気な挨拶をする。


「にゃ……にゃほ……?」


 女の子は律儀に同じ挨拶を返していた。


「え、猫霊族……? どうして、わたし達の里に……?」

「こん、にちは……」

「やっほー」

「え? え? 神族と鬼族もいるし……ど、どういうこと……?」


 女の子は混乱した様子で、あたふたとしていた。

 カナデを見て、ニーナを見て、リファを見て……

 そして、俺を見る。


「……」


 なぜかピタリと固まる。

 たぶん、俺が人間だということに気づいたんだろう。


 でも、いきなり攻撃してくるということはない。

 これなら、話ができるかな?


「こんにちは。俺は、レイン・シュラウド。冒険者をやっているんだ」

「……」

「突然おしかけて、ごめん。キミは、不死鳥族と呼ばれている最強種かな?」

「……」

「いきなりで驚いているかもしれないけど、少し話をさせてほしい。実は……」

「……ぴ」

「ぴ?」

「ぴゃあああああぁっ!?」


 突然、女の子はちょっと変わった悲鳴をあげた。

 涙目になり、怯えるようにガタガタと震える。


「にっ、ににに、人間!? その姿っ、その気配っ、き、きっと人間だよぉ!? あうあうあうっ、ま、まさかわたし達の里に攻め込んでくるなんてぇ!?」

「えっ!? い、いや、待ってくれ。そんな、攻め込むなんて……」

「うううぅ! 人間なんて……き、消えちゃえっ!」


 首輪に埋め込まれた宝石が輝いた。

 それと同時に、女の子の髪がゆらゆらと揺れる。

 さらに、燃えるような色の髪から赤い光がこぼれる。


 これは!?

 なにが起きているのかよくわからないけど、とにかく、まずい気がした。


「待ってくれ、俺の話を……!」

「レイン君っ、危ない!」


 言い終えるよりも先に、シフォンが俺の前に出た。

 真実の盾を構えると同時に、女の子の体を中心に炎が舞い上がる。


「こ、来ないでぇーーー!」


 女の子の体から湧き上がる炎は、その腕の動きに従うかのように、こちらに牙を剥く。


「くぅ!?」


 圧縮された炎が真実の盾に激突して、シフォンが苦しそうな顔をした。

 熱だけではなくて、相当な圧を感じているみたいだ。


「このぉっ!」


 女の子が叫び、さらなる炎が生まれる。

 彼女は炎の中心にいるはずなのに、火傷一つ負っていない。

 むしろ、その熱を心地よさそうにすらしていた。


 炎を己のものとして、自由自在に操ることができる。

 これが、不死鳥族の能力の一端なのだろう。


「わわわっ、落ち着いてー! 私達、敵なんかじゃないよ!?」

「そう、落ち着いて」


 カナデとリファが呼びかけるものの、女の子はすっかりパニックに陥っているらしい。

 言葉は届いていないらしく、ひたすらに炎をぶつけてくる。


「ニーナっ、頼む!」

「……ん」


 ニーナは、円を描くようにくるりと手を動かす。

 その軌跡に従い、空間に穴が作られる。


「ぽいっ」


 亜空間に炎が捨てられる。

 あるいは、まったくの別方向に誘導する。


 そうして女の子の攻撃を防ぐのだけど、ほどなくしてニーナが焦るような顔に。

 女の子の攻撃が全然止まないのだ。

 嵐のごとく、次から次に炎が押し寄せてくる。

 ニーナはそれらを一つ一つ対処していくのだけど、手が追いつかない。


「くっ……ファイアーボール・マルチショット!」


 洞窟内なので、威力は最小限に。

 複数の火球を放ち、ニーナの援護をする。


「ブラッドシュート」

「ギガボルト!」

「うにゃー!」


 リファは血の弾丸で、シフォンは魔法で、カナデは石を投げつけて……それぞれ、炎を迎撃する。

 しかし、それでも女の子の攻撃を完全に防ぐことは難しい。

 圧倒的な量の炎に、ジリジリと押されてしまう。


 戦うならともかく、防御に徹するとなると、かなり厳しい。

 だからといって、不死鳥族だと思わしき女の子と戦うわけにはいかないし……

 どうすれば!?


「アオオオオオォッ!」


 サクラの遠吠えが響いた。

 それは洞窟の中で反響して、音の武器となって女の子を包み込む。


「ぴゃあっ!?」


 耳元でガンガンと物音を立てられたような気分なのだろう。

 女の子はビクリと震えると、耳を押さえてしゃがみ込む。

 炎が収まり、熱波が消える。


 その瞬間を見逃すことなく、サクラが駆けた。

 一直線に女の子のところへ行き、ガバっと、体当たりをするような感じで体を寄せる。


「ぴゃうっ!?」


 女の子はサクラに押し倒されてしまう。

 なにが起きたかわかっていない様子で、さらに涙がにじみ、混乱の極みに達している。


 そんな彼女の上に乗り、サクラはペロペロと顔を舐める。


「ふぇ……?」


 ギュッと目を閉じて、命を覚悟するような顔をしていた女の子だけど……ただ舐められているだけだとわかり、恐る恐る目を開けた。

 そして、自分の上に乗るサクラを見て、キョトンとする。


「……サクラちゃん?」

「オンッ!」


 尻尾をブンブンと振りつつ、女の子の上でサクラが吠えた。

 そんなサクラを見て、女の子はなんでここに? というような顔になる。


 二人は知り合いだったらしい。

 だから、シグレさんは、サクラと一緒にいた方がいい、と言ったのかな?


「ど、どうしてサクラちゃんが人間と一緒に……」

「ワフゥ」

「……はっ!? も、ももも、もしかして……人間に捕まっちゃったの!?」

「ワフッ!?」

「あーんなことやこーんなこと、ひ、ひひひ、ひどいことをいっぱいされて……はわわわっ」

「ワフゥ……」


 サクラは、どことなく呆れているような鳴き声をこぼす。


「え? ち、違うの? それなら……」

「人間だっ、人間がいるぞ!」

「フィーニアが襲われているぞ!」

「仲間を呼んでこいっ、人間を生かして返すな!」


 奥から、さらにたくさんの不死鳥族が。

 女の子と同じように、その身に炎をまとう。


 まずい。

 あんな数で攻め込まれてきたら、さすがにどうすることもできない。


「レイン君っ、ここは一度、退くしか……!」

「くっ……みんな、撤退だ!」


 イリスを助けるためならば、多少の無茶はするつもりでいたが……

 これ以上は無茶ではなくて、ただの無謀だ。


 俺の声に反応して、サクラがこちらへ。

 そして、一緒に洞窟を後にした。

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