383話 いざ対面
「ふむ……いい顔をしているね。サクラに懐かれただけのことはあるさね」
「オンッ!」
自分の見る目は確かだろう? と言うような感じで、サクラが吠えた。
尻尾がぶんぶんと揺れていて、しきりにこちらを見ている。
うーん……懐いてくれるのはうれしいんだけど、ここまで良い印象を抱かれることはしていないんだけどな。
なんでだろう?
「進むというのなら、それを止めるようなことはしないよ。あと、せっかくだ。少し手伝うことにしようか。サクラ?」
「ウォンッ!」
「よしよし、良い返事だ。なら、レイン達に付いていってやっておくれ」
っていうことは……不死鳥族を訪ねるのに、サクラも一緒に?
「え? いいんですか?」
「口で説明してもいいんだけど、ちょっと複雑なのさ。だから、道案内をつけた方が一番なんだよ。それと、不死鳥族にとって呀狼族は知らない相手じゃないのさ。ちょっとした関係があるから、ひょっとしたら敵対しないで話を聞いてくれるかもしれない」
「ありがとうございます」
「お礼は全部うまくいった後で、その時、しっかりともらうことにするさね」
「ははっ」
シグレさんは、とても親切だ。
人に愛想を尽かしているなんて、とてもじゃないけれどそうは見えない。
ここまでよくしてくれる理由が気になるものの……
それは後だ。
今は、不死鳥族に会いに行くことを優先しよう。
――――――――――
再びリファに眷属の狼を召喚してもらい、サクラを伴い、俺達は西へ。
シグレさんの説明によると、不死鳥族が暮らしているというダンジョンまでは、サクラの足で二日ほどだという。
俺達なら……休憩などの時間を考えて、三日ほどだろうか?
その予想は正しかった。
色々な道を駆け抜けること、三日と少し……俺達は、山の麓にあるダンジョンの入り口にたどり着いた。
「オンッ!」
ここが目的地だ、と言うような感じで、ダンジョンの入り口の手前でサクラが吠えた。
「ここか……確かにダンジョンだな」
横幅は五メートルほど、高さは三メートルほどだろうか?
道が広いダンジョンだ。
すぐのところに門が見えた。
とても頑丈そうな作りをしている上に、表面に魔法陣のようなものが刻まれている。
おそらく、特殊な封印が施されている門だろう。
これがあるから守りは万全。
見張りを立てる必要もない、っていうことだろうか?
「大きな門……だね」
ニーナが小さいからなのか、門がとても大きく見える。
仮に鍵がかけられていなかったとしても、これ、一人で動かせるものなのだろうか?
「むう……開かない」
リファが試しに門を押してみるものの、びくともしない。
最強種の力でダメということは、鍵か封印か、なにかしらの仕掛けが施されていると考えた方がいいだろう。
「レイン君、どうしようか? せっかく、ここまで来たんだから、引き返すなんてことはしないけど……呼び鈴とかついてないかな?」
「にゃー……私がノックしようか? こう、ゴガァンッ! って」
「それはノックじゃなくて、ノックアウトだよな」
カナデって、たまにボケているのか真面目なのか、よくわからなくなるんだよな。
ちょっとだけ天然なのかもしれない。
一緒に過ごすことで、そうして、彼女の新しい一面を知ることができる。
それは、とてもうれしいことのように思えた。
って、話が脱線したな。
「さて、どうしようかな?」
呼びかけてみるか。
それとも、ノックをしてみるか。
「ワフゥ」
悩んでいると、サクラがぽんっと前足を扉にあてた。
すると、扉に刻まれた魔法陣がぼぅっと輝く。
淡い光の粒を放ち、やがて、それは扉全体に行き渡る。
ほどなくして、ゴゴゴッ、と扉が開いた。
「えっ……サクラ、扉を開けられたのか?」
「オンッ!」
すごいだろう、とどことなく誇らしげにしつつ、サクラが吠えた。
「呀狼族は不死鳥族と繋がりがあるようなことを言っていたから……だから、扉を開くことができたのかな?」
「たぶん、シフォンの言う通りなんだろうな。魔力かなにかで個人を認証して、呀狼族か不死鳥族が触れると、開くような仕組みになっているんだろうな」
こんなものを開発してしまうなんて、とんでもない技術だ。
不死鳥族っていうのは、力だけじゃなくて、優れた頭脳を持っているのかもしれない。
「でもさ、レイン」
「うん? どうしたんだ、カナデ」
「扉は開いたけど、勝手に入っていいのかな?」
「それはやめておいた方がいいかもな」
シグレさんの話だと、不死鳥族は人を完全に敵視している。
みんなならともかく、俺やシフォンが一緒だと、なかなか大変なことになるかもしれない。
「ダンジョンの中で戦闘になれば、簡単に逃げることはできないだろうし……道もわからないから、迷子になるかもしれない。無理をしないで、ここで待つことにしよう。たぶん、扉が開いたことは中の不死鳥族達も気づいただろうし、しばらくすれば誰かが来ると思う」
「そうしよう」
リファがはじめに頷いて、続けて、みんなも賛成する。
さて……どうなるか?
出てくるのは、まず間違いなく不死鳥族だろう。
いきなり攻撃されてしまうか、それとも、少しでも話を聞いてくれるか。
どうなるかまったく予想がつかないな。
「思った、んだけど……」
ニーナがおずおずと手を挙げる。
もうすぐ不死鳥族と対面……ということで、少し緊張しているみたいだ。
「レイン、と……シフォン抜き、で……話をするのは……どう、かな?」
「不死鳥族は人間が嫌いだから、レインとシフォンは一旦席を外す……うーん、悪くないかもね」
「ボクは反対」
カナデが賛成する中、リファが首を横に振る。
「そんなことをしたら、後々で面倒なことになる。最初から、レインとシフォンにいてもらった方が、妙な誤解を与えることはないよ」
「どうする、レイン君?」
シフォンの問いかけるような視線を受けて……
少し考えた後、俺は口を開く。
「……リファの言う通り、俺達のことを隠していたら、後で余計に話がこじれるかもしれない。いきなり攻撃されるかもしれないけど、それはそれで。なんとかしよう」
「うん、了解」
今後の方針が決まったところで、洞窟の奥から足音が響いてきた。
ついに不死鳥族が?
緊張しつつ、様子を見守っていると……
「え、えっとぉ……?」
おどおどとした女の子がひょこっと扉の隙間から顔をだした。
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