382話 不死鳥族
「えっ、他にも最強種がいるんですか?」
「ここから西に、ここと同じような平原があるのは知っているかい?」
「はい。行ったことはないですけど、地図があるので」
「へえ。この大陸の地図を持っているのかい。誰か知らないけど、その地図を作った人は優秀だねえ。おっと、すまないねえ。話が逸れてしまったよ。いけないねえ、歳を取ると、どうもおしゃべりが多くなってねえ」
シグレさんは愛嬌のある笑みを見せてくれる。
精霊族と似たように、人間に呆れ、姿を消したと聞いたけど……
その割には、俺やシフォンに対して、けっこう友好的だよな?
サクラが懐いているから、だから、俺達のことも信用するという話だけど。
孫が信用しているから自分も信用する。
そんな簡単な話なのだろうか?
信用しているという話にウソはないと思う。
だから、他になにか、信じるだけの要素が隠されていると思う。
「どうしたんだい?」
「あ、いえ……なんでもありません」
いけないいけない。
気になることだけど、今は、もう一つの最強種についての話を聞かないと。
「もう一つの最強種について、教えてもらうことは可能ですか?」
「ああ、いいさね」
シグレさんは一つ頷いた後、ゆっくりと語る。
「ここから西の平原に、広大なダンジョンの入り口がある。いや……元ダンジョンというべきかね」
「元……? それ、どういうことなんですか?」
「件の最強種は、そのダンジョンを住処としているんだよ。だから、元ダンジョン、というわけさ」
「なるほど……」
ダンジョンを住処にしてしまうなんて、とんでもない最強種だ。
普通、そんな事は考えないし、仮に考えたとしても、実行できるだけの力がない。
さすが、最強種というべきか。
こちらも規格外の存在らしい。
「彼らは私らとは違い、幼少期は違う姿を取る、なんていうことはないよ。その外見は人間によく似ている。特徴としては、そうさねえ……炎を操るというところかねえ?」
「炎を……ということは、治癒能力は持たない?」
「いや」
シグレさんは首を横に振る。
それから、考えるような仕草をしつつ、言葉と情報を組み合わせていく。
「炎を操るといっても、攻撃能力に特化しているわけじゃないよ。レインが求める治癒の力を、彼らは持っている。治癒の炎、というヤツだね」
「治癒の炎……」
「その炎は、炎でありながら暴力的ではなくて、とても優しい。肌を焼くようなことはなく、むしろ、温かく包み込む。死者すら生き返らせることが可能……と言われているね」
「本当ですか!?」
「あくまでも、そのように聞いている、というだけさね。不死鳥族のことは私達も詳しいけれど……さすがに、そこまでの力があるかどうか、それは断定できないよ」
「そうですか……」
なにもかもが思い通りというわけにはいかず、少しガッカリしてしまう。
でも、道は開けた。
治癒の力を持つという、最強種は確かに存在した。
あとは、どうにかして協力を取り付けることができれば……!
「不死鳥族は、どうして北大陸に?」
「あー……それなんだけどねえ」
シグレさんが、とても苦い顔をした。
あまりよくない予感がする。
「基本的に、私達や精霊族と似たようなものさ。人間に愛想をつかして、人間のいない北大陸に移住したのさ。私達と同じくらいの時期だから、記録に残っていないんだろうね」
「なるほど……」
「ただ、一つ大きな問題がある」
「問題ですか……?」
「彼らは、人間をひどく敵視しているのさ」
シグレさんの話によると……
昔は、人と不死鳥族は良き友人として同じ道を歩いていたらしい。
しかし、不死鳥族が死者すら蘇らせることができるという力を持つと知り、人は彼らを求めた。
家族を蘇らせてほしい。
友人を蘇らせてほしい。
欲望はそれだけにとどまらず……
死んでも生き返る方法を教えてほしい。
不老不死になる方法を教えてほしい。
理不尽な要求を突きつけるように。
それで人に愛想を尽かした不死鳥族は、呀狼族と同じように、人と距離をとろうとした。
しかし、人はそれを許さない。
かつて、天族にしたように……
人の道を踏み外した行いに出ようとした。
結果……人と不死鳥族の間で争いが起きた。
そして、関係は最悪の状態へ。
不死鳥族は人を完全に敵と見なしつつ、北大陸へ逃げたという。
「……なんてこった」
ひどい話を聞かされた俺は、思わずその場で頭を抱えてしまう。
どこの誰か知らないが、過去の人は余計なことをしまくってくれる。
「うーん……そんな背景があると、ますます難しいかもしれないね」
シフォンが顔を曇らせつつ言う。
そうなのだ、彼女の言う通りなのだ。
不死鳥族は、自分達の力を利用されることを嫌い、北大陸へ移動した。
そして俺達は、そんな不死鳥族の力をアテにして、ここまでやってきた。
スムーズに物事が展開していくとは、欠片も考えられない。
トラブルの予感しかしない。
「私達呀狼族や精霊族なんかは、人間を嫌っているだけさね。冷たく突き放すようなことはしても、攻撃するようなことはない。まあ、向こうからしかけてきたら別だけどね。ただ、不死鳥族は違くてねえ……彼らは、人間を見つけたら、問答無用で攻撃するだろうね。それこそ、魔物と扱いは変わらないよ」
「うにゃー……私達、魔物なんかじゃないのに」
カナデが不服そうに唇を尖らせた。
その気持ちはわかる。
わかるけど……不死鳥族の気持ちも、なんとなく理解できるんだよな。
シグレさんの話を聞くと、過去、相当ひどい目に遭ったみたいだ。
それこそ……イリスのように。
そんな目に遭えば、人をとことん敵視しても仕方ないだろう。
「さて……不死鳥族については、こんなところかね。細かい場所を教えても構わないが、十中八九、攻撃されるね。種族全体で、思う存分に暴れると思う。そんなことになる未来は見えているんだけど……どうする?」
「もちろん、行きます」
即答すると、シグレさんは目を丸くした。
「……私の話、聞いてなかったのかい?」
「聞いていますよ。たぶん、問答無用で攻撃されるんですよね? 話し合いをするヒマすらないというか、そもそも説得も難しい。俺達の目的が治癒能力にある以上、さらに話がこじれる可能性が高い」
「そこまでわかっているのなら……どうしてなんだい?」
「……苦しんでいる子がいるんです」
過去にひどい目に遭って、以降、ずっと暗闇の中で生きてきて……
そんなイリスが時折見せる、空虚な笑みが忘れられない。
生きていることなんて、どうでもいいというような……そんな空っぽの笑みが、脳裏に焼き付いて離れてくれない。
「俺は……イリスに笑ってほしい。心の底からの笑みを、また見たい」
以前……なにも知らない時にイリスと話をした時は、楽しそうに笑っていたような気がする。
あの時のような笑顔を取り戻したいと、心の底から願う。
「だから、なにがあろうと、なにが待ち受けていようと……俺は突き進むだけです」
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