380話 北へ
狼の後をついていき、一日ほど歩いただろうか?
もちろん、途中に休憩は挟んでいる。
夜になると、狼はこちらに戻り、俺に寄りかかるようにしてくるりと丸くなり、勝手に寝てしまう。
この狼は最強種なのだろうか?
治癒の力を持つのだろうか?
色々と気になり、尋ねてみたいものの、言葉を交わすことができない。
残念だ。
まあ、今は手がかりを得ることができたと、前向きに考えることにしよう。
後ろ向きなことばかり考えていたら、心が参ってしまうからな。
そして、再び朝が訪れる。
おそらく、北東の平原に向けて移動をしているのだけど……
「オフゥ……」
ある程度移動したところで狼が立ち止まり、なにか言いたそうな感じでこちらを見た。
その場で足踏みをしている。
もどかしそうな感じだけど……悪い、さすがに言葉はわからない。
「にゃんっ」
「ワンッ」
突然、カナデが狼と会話を始めた。
「うにゃー?」
「オンッ、オフゥ」
「にゃにゃにゃ、にゃー」
「クゥンッ」
傍から見ると、かなり謎な光景だった。
猫って、犬と会話できるのだろうか……?
「……うん、にゃるほど」
「えっと……ソイツがなんて言ってるのか、わかったのか?」
「なんとなくだけどねー。もっと急げないの? って言いたいみたい。このままだと、けっこうな時間がかかりそうとか、そんな感じ」
「なるほど」
確かに狼からしたら、俺達はとても遅く感じるだろう。
狼は、一日にかなりの距離を移動するらしいから、とてももどかしいだろう。
とはいえ、どうしたものか?
俺は契約で得た力があるし、カナデは猫霊族だから、長時間走り続けることは可能だ。
ただ、他の三人は難しい。
「レイン」
悩んでいると、リファが声をかけてきた。
どことなく、ドヤ顔をしているような気がする。
「ボクに任せて」
「解決策が?」
「うん」
リファは一つ頷くと、親指を噛んで血を流す。
「おいで」
血が地面に落ちると、土に吸収されず、湖に波紋が広がるような光景へと変わる。
そこからリファが眷属にしている巨大な狼が四頭、現れた。
「この子達に乗ればいい」
「四頭もいたのか?」
「戦える子は二頭。残り二頭はまだ子供」
……ビーストテイマーだけど、見分けがつかない。
どれも同じ個体に見えるが……そこは、主であるリファにしかわからないものがあるのだろう。
「ボクとニーナは小さいから、一緒に乗る。あとは、一人一頭」
「助かるよ。ありがとう、リファ」
「あふぅ」
頭を撫でると、恍惚とした顔になる。
もっと、というように頭を差し出してきたので、さらになでなでしておいた。
「にゃー……」
「んぅ……」
「いいなぁ……」
カナデとニーナはともかく、なぜかシフォンまでうらやましそうにするのだった。
――――――――――
移動手段を変えたため、その後の旅は順調だった。
一気に速度がアップして、当初の予定の何倍もの速度で行程を消化していく。
そして……二日後。
俺達は、当初の目的地に定めていた北東の平原に到着した。
そこには小さいながらも村が作られていた。
広大な平原の中央に、無数のテントが建てられていた。
遊牧民なのかな? と思いきや、意外とがっしりと作られているテントで、簡単に移動できないものだとわかる。
村の奥に柵が作られていて、そこに牛が放し飼いにされている。
ちょろっと羊や小型犬も混じっていた。
そして……そんな村の主達は、犬耳と大きな犬の尻尾が生えていた。
猫霊族のカナデと似ているようで、決定的に違う種族。
これはもしかして、もしかするかもしれない。
「オンッ!」
「おや?」
狼が一つ吠えると、村人がこちらに気がついた。
ちなみに、無意味に刺激してしまいそうなので、リファの眷属は引っ込めてもらっておいた。
「サクラや。帰ってきたのかい? 様子は……おや、そちらの方々は?」
「ウォンッ!」
「ほうほう……気に入ったから連れてきた、と。うーん……まあ、いいさね。そうやって自分で判断できることは、いいことだ。えらいえらい」
「ハッハッハッ……!」
狼はとてもうれしそうに頭を撫でられていた。
「ふむ……猫霊族に神族に鬼族。同胞が勢揃いだねえ。それと、人間が二人……こんなところまで来るのは、さぞかし大変だっただろう。おいで。お茶を出してあげよう」
「え? あ、はい……ありがとうございます」
もしかしたら、北大陸に住む最強種は友好的じゃないかもしれない。
そんなことを考えていたため、柔らかい対応に、ついつい驚いてしまう。
警戒しすぎだったかな?
いくらか気を緩めつつ、案内されるまま大きなテントへ。
中は綺麗で、生活用品が一通り揃っていた。
「ほら、どうぞ。猫霊族の嬢ちゃんは、ぬるめにしておいたからね」
「いただきます」
まずはお茶をいただいた。
けっこう苦味が強いのだけど、不思議と旨味もあり、癖になるような味だった。
「さてと……話をする前に、自己紹介といこうか」
「そうですね。俺は、レイン・シュラウド。人間です」
「私は、シフォン・ノクス。同じく、人間です」
「私はカナデだよ。見ての通り、猫霊族だよ」
「ニーナ……です。神族……です」
「リファ。鬼族」
俺達の自己紹介を耳にして、不思議そうに小首を傾げる。
「私の自己紹介の前に、質問を許しておくれ。レインは……あ、名前でも呼んでもいいかい?」
「はい、どうぞ」
「なら……レインは最強種である彼女達の仲間なのかい?」
「レインは、私達のご主人さまだよー」
「ちょっ」
カナデが妙な誤解をされかねない発言をして、慌ててしまう。
「仲間です、仲間! カナデの今の発言は、俺が彼女達と契約をしているからで……」
「ほう、契約とな?」
「俺、ビーストテイマーなんです。それで契約をしてて、だから、今の発言は決して変な意味ではなくて……」
「ほほう」
興味深そうな顔をされた。
「最強種である彼女達と契約を……なるほど、なるほどねえ。いやはや、長く生きていると面白いこともあるものだ。本当におもしろい」
「えっと……?」
「おっと、すまないね。脱線はこの程度にして、私の自己紹介をしておこうかね。おいで、サクラ」
「オンッ」
彼女の隣に狼が移動する。
その背を優しく撫でながら、ゆっくりと口を開く。
「私の名前は、シグレ。この子は、サクラ。呀狼族と呼ばれている最強種だよ」
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