376話 なにがあろうと
三時間で準備を終えた。
未開の地を攻略するわけだから、本当はもっと時間をかけたいのだけど……
イリスのために、今は一分一秒でも惜しい。
なので、最低限の準備だけにした。
その後、ソラとルナに門を作ってもらい、精霊族の里を経由してクリオスへ。
幸い、アルさんはまだ滞在していた。
すぐに面会をして、こちらの事情を説明する。
「むぅ……そのようなことになっておるとは」
イリスが危ないと知り、アルさんは苦い顔をした。
色々と気にかけていたから、さすがに心配なのだろう。
「北大陸に治癒に長けた最強種がいるらしいんです。アルさんは、なにか知りませんか?」
「その話は聞いたことあるのじゃ。ただ……むぅ、なんと言ったかのう? かなり前に聞いた話なので、ちと覚えていないのじゃ。すまぬのう」
「いえ……でも、存在はするんですね?」
「うむ。それは間違いないぞ」
「そのことを聞けただけでも、よかったです」
アルファさんだけではなくて、アルさんも治癒に長けた最強種の存在を肯定した。
二人は頭がよく、豊富な知識を持つ。
この二人の言葉が一致しているのならば、偽情報ということは、ほぼほぼないだろう。
「しかし、北大陸とは……また、とんでもなく厄介な」
「……そこまでなんですか?」
アルさんにここまで言わせるなんて。
かなり恐ろしいところなのだろうか?
「色々と厄介な話を聞くところなのじゃ。通常の個体よりも遥かに強力な力を持つ魔物がいるとか。見たことのない動植物が繁殖しているとか。あと……複数の最強種がいるという話も聞いたことがあるのじゃ」
「複数の……? それって、俺達が知らないような相手なんですか?」
「うむ。妾も知らぬような未知の最強種がいるらしい。癒やしの担い手と呼ばれる種だけではなくて、その他、噂にも聞かぬような種が……な」
「そうですか……」
「それだけじゃねーぞ」
扉が開いて、レゾナさんが姿を見せた。
「レゾナさん!」
「久しぶり」
「おう、俺のかわいい娘よ。元気でやってたか?」
「まあまあ」
久しぶりの再会を喜ぶ母娘。
こんな時ではあるが、少しほっこりとした。
「北大陸に行くんだろ? 俺もちっとだけど、情報を集めてきたぜ」
「助かります」
「アルが色々と挙げてたが、それ以上に厄介なのは、人間が暮らす街がないっていうことじゃねーか?」
「……なるほど」
レゾナさんの指摘に、ハッとさせられる。
今から行く場所は未開の地なので、当然、街なんてものはない。
ひょっとしたら、少しくらいは人が暮らしているかもしれないけど……
村や集落などで、街なんてものはないだろう。
そうなると、休憩を取ることができない。
食料や水の補給も難しい。
「あと……地図がないのも、かなり厄介ですね」
「おっ、わかってるじゃねーか」
「にゃん? 地図がないと迷っちゃうかもしれないけど……そんなに問題なの?」
不思議そうなカナデに説明をする。
「迷うだけじゃなくて、先になにがあるかわからない、っていうことが厄介なんだ」
「えっと……確かにわからないかもしれないけど、慎重に進めば問題ないんじゃないかな? 罠が設置されていたらどうしようもないけど、崖とか谷があったとしても、ちゃんと見つけられると思うし」
「でも、そういう危険を警戒しながら進むことになるだろう? そうなると、当然、速度は大幅に落ちることになる」
「あっ」
「それと、進んだ先が行き止まりだとしたら、また道を引き返さないといけない。大幅なタイムロスだ。今の俺達にとって、それはなるべく避けたい事態だ」
「そっか……地図って、安全に確実に前に進むために必要不可欠なものなんだね」
「おー……」
カナデと……ついでに、ニーナが感心したような声をあげる。
ニーナは小さいから仕方ないと思うが……
カナデは大人なのだから、地図についての知識くらいは持っていてほしい。
まあ、持っていなかったからこそ、初めて出会った時、あんなにも疲弊していたのだろうが。
「ってなわけで、地図だ」
「えっ?」
レゾナさんが丸められた用紙をこちらに放る。
慌てながら受け取り、開く。
「これ……北大陸の地図ですか?」
中央大陸などで売られている一般的な地図に比べると、かなり精度は悪い。
大雑把な地形と、簡単な情報が記されているのみだ。
しかし、これがあるとないとでは雲泥の差だ。
この地図に現地で得た情報を書き込む形にしていけば、かなりスムーズに探索をすることができるだろう。
「こんなものを、どこで……?」
「この街で暮らす鬼族の中には、アルのようなババアやジジイもいるからな。まあ、完璧なものじゃなくて大雑把なものになるが、ないよりはマシだろ」
「妾のような、というのは余計じゃぞ。妾は、こんなにもキュートで愛らしいというのに」
「そういった連中のところを片っ端からあたり、それで見つけた」
「わざわざそんな……ありがとうございます」
「いいってことよ。レイン達は、この街の恩人だからな。なにかできることがあれば、喜んで協力させてもらうぜ」
「かっこいい」
「はははっ、そうだろ。俺、かっこいいだろ!」
リファに褒められて、レゾナさんは上機嫌になっていた。
一見するとよくわからないんだけど……
実は、子供大好きなんだよな、この人。
「地図があるのは助かりました。あとは、北大陸への移動手段なんですけど……」
未開の地なので、当然、橋などはかけられていない。
「うむ、安心するがいい。北大陸への門なら、妾達精霊族の里にあるのじゃ。もちろん、問題なく使ってよいぞ」
「ありがとうございます!」
「何度も利用して、迷惑じゃない?」
リファの懸念をアルさんは笑い飛ばす。
「そのようなことはないぞ。長は妾の言いなりじゃからな。良い顔はしないじゃろうが、その時は鉄拳制裁でもしてくれるわ」
……ちょっとだけ長に同情した。
「とにかく、問題はないのじゃ。北大陸の南の方ではあるが……きちんと、送り届けてみせよう。普段、娘達が世話になっている礼じゃ」
「ホントなら、俺も同行してえところなんだけど……悪い。この街を放っておくわけにはいかねーんだ」
「先のスタンピードの事件から、まだ完全に立ち直っておらぬからのう……妾も協力することになってしもうたし、すまぬな」
「いえ、大丈夫です。地図をくれて移動手段も用意してくれて……ここまでしてもらっておいて、これ以上を望んだらバチが当たりますよ」
あとは俺達ががんばる番だ。
「さっそく、北大陸へ渡るか?」
「えっと……」
俺の準備は問題ないけど、みんなは大丈夫だろうか?
振り返り、みんなを見る。
「私は大丈夫だよ。元気いっぱいお腹もいっぱい! たくさんがんばるからねっ」
「ん。わたし、も……大丈夫」
「ボクも問題なし」
みんなも問題ないようだ。
ならば、前に進もう。
イリスを助けるための旅を始めよう。
進む先は、未開の地。
情報は少なく、なにが待ち受けているかわからない。
しかも、仲間の半分はカグネで留守番。
状況はよくない。
でも、決して諦めない。
「なにがあろうと……突き進むだけだ!」
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