373話 癒やしの担い手
「癒やしの力を持つ最強種か……」
確かにそれなら、イリスを助けることができるかもしれない。
ただ、ネックとなるのは、その最強種がいる場所が北大陸という点だ。
中央、東、南大陸の三つは人の領域だ。
西大陸は、魔物と魔族の領域。
そして北大陸は……謎に包まれている。
どのような地形なのか?
どのような動植物が生息しているのか?
人が暮らしているのか、魔物が暮らしているのか、それとも最強種がいるのか……それすらもわからない。
色々なものが謎に包まれている、未開の地なのだ。
「その最強種の名前は?」
「すみません、それはわからないんです。その……理想郷を作ろうと考える過程で色々なことを調べ、その時に文献を発見したのです。北大陸には、治癒能力に優れた最強種がいる……と」
「文献か……信憑性は?」
「その点については、問題ありません。歴代の鬼族が記録をつけてきた、確かなものなので。ただ、なにかしら事情があったらしく、詳しい情報は記載されておらず、名前もわからないという状況なのですが……」
「なるほど……」
「北大陸は未開の地。そのような場所へ赴くということは、かなりの危険を伴います。他の方法を探した方がいいかもしれません」
「いや、行くよ」
「……」
即答すると、アルファさんが目を丸くした。
「えっと……私の話、聞いていましたか?」
「もちろん。北大陸に行けば、イリスを助けられるかもしれないんだろう?」
「そうですけど……しかし、多くの危険が……」
「今一番危ないのは、イリスの命だ。イリスを助けられる可能性が一パーセントでもあるのなら、俺はどんなことでもするよ」
「……レインさんらしいですね」
アルファさんは最初に驚いて、次いで柔らかく微笑む。
「そのようなところに、私は負けたのかもしれませんね。レインさんのように純粋で強い心を持つ人は、私の夢なんて通用しないでしょう」
「どうだろう」
最初は普通に夢を見ていたから、なんともいえないところではある。
俺が現実に戻ることができたのは、間違いなくイリスのおかげだ。
イリスに助けてもらった。
だから、今度は俺が助ける番だ。
「もちろん、私達も一緒に行くよ!」
「危険だから待っててほしい、とか言わないわよね?」
カナデとタニアが名乗りをあげる。
「ああ、もちろん。みんなの力を貸してほしい」
「うむ。我の力、思う存分に使うがいい!」
「レインのためイリスのため、ソラは精一杯がんばりたいと思います」
「がん、ばる……ね」
「うちもやったるでー!」
「やる」
みんな気合たっぷりだ。
とても頼もしい。
みんながいれば、絶対にイリスを助けることができるだろう。
そう確信した。
「あ……でも、悪い。ソラとルナ。それと……タニアとティナは留守番で頼む」
「「「「なんで!?」」」」
四人が揃って大きな声をあげた。
「ちょっとレイン。おとぼけ双子精霊はともかく、あたしが留守番なんてどういうことよ!?」
「「おとぼけ双子精霊!?」」
「なんでウチも留守番なん? 納得できんでーっ!」
タニアとティナが俺に詰め寄る。
その後ろにいるソラとルナは、イリスを治療し続けているため動くことはできないが、とても不満そうな顔をしていた。
「待った、ちゃんと説明するから。以前のように危険なことに巻き込みたくないとか、そういう理由じゃないんだ」
「なら、どういう理由よ?」
「まず……ソラとルナは、このまま交代でイリスの治療を続けてほしい。途中でやめるわけにはいかないんだろう?」
「「あっ」」
そういえばそうだった、というような感じで、ソラとルナが揃って声をあげた。
そういう反応をするから、タニアにおとぼけとか言われてしまうのではないだろうか……?
「ティナは、ソラとルナの世話を頼む。二人共、ずっと魔法を使うことになるだろうから、かなり大変だろうし……私生活のサポートは必須だと思うんだ。元メイドのティナなら、そこら辺は完璧だろう?」
「なるほど……まあ、ウチにぴったりの役目やな」
「タニアは、いざという時のために、三人の護衛を頼みたいんだ」
「……あたしにする理由は? 脳筋猫でもいいんじゃない?」
「にゃんかひどいこといわれた!?」
「物理攻撃が効かないような敵が出たら、カナデだと厳しいだろ? その点、タニアはオールラウンダーだから」
「むぅ……悔しいけど、反論の余地がないわね」
「戦闘になる可能性を考えると、タニアが最適なんだ。頼むよ」
「……それって、あたしのことを頼りにしている、ってことよね?」
「もちろん」
「……ふへ」
「ふへ?」
なぜか、タニアがだらしのない笑みを浮かべて、よくわからない声をこぼした。
「なんでもないわ」
すぐに、キリッとした顔に戻る。
今のなんだったんだろう……?
「そういうことなら、私もソラさん達を手伝いましょう。お二人ほどではありませんが、治癒の心得はありますから」
「助かります」
アルファさんも協力を申し出てくれた。
イリスの魂が傷つけられたと聞いた時は、絶望したのだけど……
でも、今は希望が見える。
それは小さくわずかなものだけど、でも、絶対に掴んでみせる!
「ねえねえ、レイン。北大陸って、未開の地なんだよね? どうやって行くの?」
「問題はそこなんだよな……」
あまり時間をかけたくない。
可能ならば、カグネに来た時のように、精霊族の里を経由したいところだ。
ちらりと、ソラを見る。
俺の聞きたいことを察してくれた様子で、少し考えた後に口を開く。
「北大陸に扉が繋がっているか、それはちょっとわからないです……すみません」
「謝ることじゃないさ」
「ただ、母さんなら知っていると思います」
「アルさんか……」
まだクリオスにいるだろうか?
しばらくは滞在するようなことを口にしていたから、可能性はあると思う。
「ひとまず、クリオスに向かうか……精霊族の里を経由できるできない、どちらにしても、クリオスまで戻る必要はあるからな」
馬車を使うことになるだろうけど、もっと早く移動できればいいのだけど……
無理なことを望んでも仕方ないか。
「そうだ、レインよ。ここから我らの里に移動することはできるぞ」
「えっ、できるのか!?」
「家から里に繋げる道を作っただろう? あれと同じ感覚で、新しい道を作ることは可能なのだ。里から任意の場所に繋げることはできないが、こちらから繋げる分には繋げ放題なのだ」
「あ、なるほど。そういえば、家から里への道を繋げていたな」
「本当は、あちらこちらに門を作ることは禁止されているのですが……しかし、今は緊急事態です。母さんや長も許してくれるでしょう。まあ、許してくれなくても知ったことではありませんが」
「まあ、長は頑固だから反対するかもしれないが……ふふんっ、その時は黙っていればいいのだ!」
「うん……ありがとう、ソラ、ルナ」
これで、かなりの時間を稼ぐことができる。
細い希望が少し大きくなったような気がした。
「待っていてくれ、イリス……」
苦しそうな顔をするイリスの頬をそっと撫でる。
絶対に助けてみせる。
この顔を笑顔にしてみせる。
「契約するっていう約束を果たしていないんだから……それを破るなんてこと、させないからな」
必ず助ける。
改めて決意した。
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