372話 生死の狭間で
色々と話をしたいところだけど、まずは戦いの疲れを癒やしておきたい。
そう考えて、宿に戻り休憩していたのだけど……
「イリスっ!!!」
重傷を負ったイリスが見つかったという話を聞いて、俺は慌てて宿の一階に降りた。
胸元を大量の血で濡らしたイリスがテーブルの上に寝かされていた。
その隣には、回復魔法をかけているソラとルナの姿が。
「イリスっ、大丈夫か!? イリスっ!」
「レイン、落ち着いて。気持ちはわかるけど、取り乱したら、見えるものも見えなくなるわ」
「くっ……悪い」
タニアに諭されて、わずかに落ち着きを取り戻すことができた。
それから、ソラとルナに尋ねる。
「イリスの怪我の具合は……?」
「……ぶっちゃけてしまうと、かなりまずいのだ」
「怪我は治しました。しかし、目を覚ましません。少しずつですか、生命力も衰えています……もしかしたら、魂を傷つけられた可能性も」
ソラとルナが苦い顔をしていた。
イリスは血に濡れているものの、傷跡らしきものは見当たらない。
二人が治療したのだろう。
しかし、目は閉じたままで、胸元が上下する間隔はひどくゆっくりだ。
「くっ……どうしてこんな!」
「にゃー……モニカっていう、あの女の仕業なのかな……?」
「どうかしら。あいつは幻影を生み出す力は相当なものだけど、でも、それだけでイリスをこんな風にできるとは思えないし……」
「私達が知らない力を隠し持っていたか。あるいは、他の誰かがいるか。そう考えた方がよさそうだね」
「せやね。うちらも狙われている、っていう可能性もあるから、注意せんと」
カナデが心配そうにこちらを見る。
「にゃう……レイン、大丈夫? ひどい顔しているよ。戦いの疲れもあるだろうし、少し休んだ方が……」
「……いや、俺は大丈夫だ」
「でも……」
「確かに疲れてるけど、こんな時に休んでいられないよ。でも、心配してくれてありがとう、カナデ」
なんとか笑みを浮かべて、カナデの頭を撫でる。
こんな時だから……
こんな時だからこそ、冷静にならないと。
ヤケにならず、焦ることなく、やるべきことをしっかりと確認する。
深呼吸をする。
「……よし」
少しではあるが、落ち着くことができた。
今やるべきことは?
二つ。
みんなの安全の確保。
それと、イリスを助ける方法を探すことだ。
「ちょっとだけ待っててくれ」
俺は宿の外に出て、犬と鳥を使役した。
周囲の警戒を担当してもらう。
空と地上、両方の警戒網を突破することは、なかなかできることじゃないだろう。
ただ、敵はイリスの防御を突破した相手。
なにかしら搦め手を使っている可能性が高い。
最強種などが持つ特殊能力とか……あるいは、魔道具とか。
最強種が同胞であるイリスを攻撃するなんて考えづらいから、可能性が高いのは後者だろう。
「えっと……いた」
魔力の流れを感知するという、リアクターアントを発見。
こいつらは、わりとどこにでも繁殖している。
さっそく使役して、警戒に加わってもらう。
なにかしらの魔道具が用いられている場合、これで感知することができるだろう。
完璧とは言えないが……
できる限りのことはした。
宿に戻る。
「悪い、またせた」
「なにをしてたの?」
「周囲の警戒を。引き続き、襲ってこないとも限らないからな」
犬と鳥、リアクターアントの警戒網を敷いたことを伝える。
すると、リファが宿の入口へ向かう。
「ボクも協力する」
リファは指を噛み、血を流す。
その血が膨れ上がるようにして、狼が二頭、出現した。
「この子達は優秀。一緒に警戒させて」
「ああ、助かるよ。リファの力があれば、百人力だ」
これだけの警戒網を作れば、敵も容易には手を出すことはできないだろう。
気を抜くことはできないが……
ひとまず、イリスの問題に集中しても大丈夫だと思う。
「ソラ、ルナ。イリスの容態は?」
「うぅ……すまないのだ。我らも全力で治癒魔法をかけているのだが……」
「やはり、魂が傷つけられている可能性が高いです。こうなってしまうと、現状維持が精一杯で、回復は……」
「そうか……」
打つ手がないのだろう。
ソラとルナも悔しそうにしていた。
でも、こんなところで諦めたくない。
イリスと和解できるかもしれなかったんだ。
普通の女の子のように、笑ってくれたかもしれないんだ。
それなのに、もう終わりなんて……
そんなことは絶対に認められない!
なにか方法は……
「……イリスさんを助ける方法に心当たりがあります」
「アルファさん?」
二階で眠っていたはずのアルファさんが降りてきた。
魔族化していた時の反動もあり、その体はボロボロのはずだ。
事実、ふらついていて……
慌ててカナデが駆け寄らなければ、そのまま倒れていただろう。
「今は寝ていないと……」
「いえ……結果的に、私のせいでイリスさんを傷つけてしまいました。その責任はとらなければいけません。私にできることがあるのならば、なんでも」
アルファさんは、とても強い顔をしていた。
自分の責任に対して、真正面からしっかりと受け止めようという覚悟がうかがえる。
イリスを助けるために、今はどんな情報も欲しい。
それに、アルファさんの覚悟を邪魔することはできない。
「……その心当たりというのは?」
「最強種の力を借りることです」
「最強種の……?」
「北大陸に、どのような傷も癒やすことができて、死者すら生き返らせる力を持つ最強種がいると聞いたことがあります」
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