371話 不意打ちの……
「アルファさん!」
床の上に横たわるアルファさんを抱き起こす。
手首に触れて脈を確認してみると、弱々しいけれど反応があった。
息もしている。
「レインさま。アルファさんは?」
「衰弱はしているが、ひとまず、助けることはできたみたいだ」
「そうですか……よかったですわ。面倒な事件を引き起こした方ではありますが、決して悪と言えるものではないですし」
「そうだな。ただ、後々でどうなるか……」
これだけの事件を起こしたんだ。
まったくお咎めなし、というのは難しい気がする。
最強種は人の社会に属しているわけではないが……
だからといって、なにか起きた場合、まったくの放置というわけにはいかない。
そんなことをしたら、やりたい放題だ。
危害が加えられているわけじゃないから、ひどいことにはならないと思うが……
「うーん……一応、レゾナさんに協力をお願いしてみるか」
「クリオス……鬼族が集まる街にいる知り合いなんだ。たぶん、力になってくれると思う」
「はぁ……レインさまは、いつの間にか人脈を築いていますわね。どのようにしたら、たらしこむことができるのでしょう?」
「言い方」
別にたらしてなんていない。
大体、レゾナさんはリファの母親だ。
仲間の母親に手を出すなんて、ありえないだろう。
「とにかく、塔を降りよう」
「ですわね」
アルファさんが気絶しているせいか、霧が晴れ始めていた。
塔も微細な振動が続いていて、崩壊をうかがわせる。
――――――――――
「みんな、大丈夫か!?」
「にゃー、平気だよ!」
塔の崩落は少しずつ激しくなり……
俺たちが降りて少ししたところで、空気に溶けるようにして消えた。
あのまま残っていたら、宙に放り出されていただろう。
ぞっとする。
みんなは無事。
イリスも無事。
アルファさんも問題ない。
「よし。脱出成功、というところか」
「ねえ、レイン。結局のところ、なにがどうなっているのかしら?」
「とりあえず、レインのところに駆けつけたが……我らは、事情がさっぱりなのだ」
「イリスも、当たり前のような顔をして一緒にいますね」
「ふふっ。それについては、色々とありまして」
「後でちゃんと説明するよ。それよりも……」
周囲を見る。
「にゃん? どうしたの、レイン?」
「周囲の警戒と……あと、犬とかがいないかな、って」
「わん……ちゃん。どうする、の?」
「モニカが近くにいたはずなんだ。今もどこかに隠れて、俺達のことを見張っているかもしれない」
「モニカ……あいつ、苦手だよ……」
以前の苦い戦いを思い出したらしく、カナデの尻尾がヘナヘナと垂れ下がる。
「犬とかを使役して、警戒してもらいたいんだけど……うーん、難しいかな?」
犬は優れた嗅覚を持っているけれど、対象の匂いがわからないと追跡のしようがない。
悪意などには敏感だから、なにかしらあれば吠えてくれるかもしれないけど……どうだろうか?
「レインさま。そういうことなら、わたくしが街を見て回りましょうか?」
「いいのか?」
「わたくし一人ならば空を飛べますし、それに、モニカさんの気配も知っています。一番の適任ではないかと」
「それは、まあ……」
そのままいなくならないだろうか? という心配をしてしまう。
それが顔に出ていたらしく、イリスが小さく笑う。
「ふふっ、そのような心配は無用ですわ」
「えっと……」
「こうして姿を見せた以上、また隠れるというのは失礼ですし……わたくしも、レインさまとお話をしたいと思いますから。逃げたりせず、きちんと戻ってくると約束いたします」
「あー……悪い、変な心配をして」
「いえ、そのように思われることはうれしく思います。ふふっ」
イリスは八枚の翼を広げた。
「では、行ってまいります」
「気をつけて」
「ふふっ、わたくしを誰だと思っているのですか? 最凶の最強種ですわよ」
――――――――――
「……特に問題はないようですわね」
ひととおりカグネの街の上空を飛んで、イリスはそんな結論を出した。
警戒をしつつモニカの姿、その気配を探したものの、欠片も感じ取ることができない。
モニカは幻影を自由自在に操ることができるが……
しかし、イリスの鋭い目から完全に逃れることはできない。
気配の欠片も残さずに潜伏するということは、ありえないことだ。
故にイリスは、モニカはもういないだろうと判断した。
「それにしても、疲れましたわね……」
長時間の戦闘。
及び、覚醒状態に移行しての全力攻撃。
さすがに消耗が激しく、気を抜けば眠ってしまいそうだ。
「さて、待ち合わせの宿に戻りましょうか。問題がないことをレインさまにお話しして……その後は、どういたしましょう? できることならば、レインさまと一緒に……」
「……あははっ、ざーんねん♪」
「っ!?」
不意に笑い声が響いて、
「……がっ!!!?」
胸部に激痛が走り、イリスは声にならない悲鳴をこぼした。
視線を落とすと、自分の胸から人の手が生えていた。
肉を突き破り、血に濡れた手が見える。
その手の先に、光り輝く球体が掴まれていた。
「これ……は……!?」
「さすがのあんたも、空間を跳躍した攻撃に対してはどうすることもできないみたいねぇ、それに疲れているみたいだし……あはははっ! さすが伝説の装備、虹水晶。すごい力ね」
「あなた、は……勇者の、パーティー……の……!」
「リーンっていうの。覚えて……おく必要もないわね。この傷で助かるわけないし、あはははっ!」
「ぐっ……!」
「あんた、あたしらを裏切る気たっぷりだったでしょ? そんなのお見通し、バレバレ。だから、ここで制裁をしておく、っていうわけ。それがあたしとモニカの本当の目的よ。ああ、そうそう。あんたの力は惜しいから、それ、まるごとあたしがもらってあげる」
「こ、のぉっ……!」
イリスは、自分の胸から生える手を掴み、爪を立てる。
せめて、この相手だけは……!
腕一本であろうと、道連れに……!
しかし、力が入らない。
全身が急速に冷えていき、視界が暗転する。
「……レイン……さま……」
愛しい人の名前を口にしつつ、イリスは気絶した。
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