370話 悪夢を打ち払え
スズさんやイリスを退けてきた、カムイの全力。
これならば……と思っていたのだけど。
「なっ!?」
漆黒の人形は、上半身のほとんどが溶けていた。
しかし、下半身が不自然に盛り上がり、膨れ上がり……
ほどなくして、上半身が再生してしまう。
「うわっ、グロ……」
カナデがちょっと引いていた。
「ここは未だ、アルファさんの夢の中。そして、相手はアルファさんが元になった魔族。ならば……」
「確実に死んでいるであろう状態からの再生も、自由自在? なんでもアリ、ということか……?」
「正解ですわ、レインさま」
「ちょっと、そんなの反則じゃない! そんなヤツ、どう倒せっていうのよ!」
タニアが顔をひきつらせていた。
それから、こちらを見る。
他のみんなも、こちらを見る。
パーティーのリーダーとして、みんなの期待に応えないといけない。
「……」
少し考えて、
「よしっ、やってみるか!」
一つの策を思いついた。
そんな俺を見て、イリスが驚く。
「えっ、もう思いついたのですか?」
「アルファさんを操るために、モニカはなにかしらの干渉を行っているはずだ。その核となるものを吹き飛ばす」
「その核がどのようなものか、レインさまは見当が?」
「いや、さっぱりわからない。だから、あの漆黒の人形を、欠片を残さずに全部吹き飛ばす」
「……」
「どうしたんだ、イリス?」
「いえ……大胆すぎる作戦ではありますが、確かに、現状ではそれが最適ですわね。それにしても、よくもまあこんな作戦を、瞬時に思いつきますわね。その思考力も、レインさまの力なのでしょうか?」
イリスは、呆れているような感心しているような、そんな器用な顔をしてみせた。
「一気に片をつける。みんな、俺の指示通りに動いてくれ。イリスは合図をしたら、全力で頼む。あ、塔や街に被害は出さないように。ちゃんと、宙に放り上げるから」
「わかりましたわ」
作戦の詳細は聞かず、無茶なお願いのはずなのに、二つ返事で了承する。
たぶん、だけど……
イリスは、俺のことを信頼してくれているのだろう。
だからこその態度。
そのことをとてもうれしく思い……
期待を裏切らないようにしないといけないと、気を引き締めた。
「マルチブースト!」
まずは魔法を使い、みんなの身体能力を上昇させた。
それから指示を飛ばす。
「みんな、ヤツを中心に円を描くように移動を! ソラとルナは魔法で。ニーナはティナとワンセットで行動して、転移で移動。一定以上の距離には近づかないで、攻撃を誘ってくれ!」
「ラにゃー!」
カナデを先頭に、みんなが駆けていく。
俺の指示通りに、漆黒の人形の周囲を駆けた。
時折、攻撃が飛んでくるものの、カナデたちは難なく避ける。
元々の身体能力が高く……
加えて、今は魔法で能力が上昇している状態だ。
漆黒の人形の攻撃だろうと、避けることはそうそう難しいことじゃない。
「挑発するような感じで、軽い攻撃を!」
「オッケー!」
さっそく、タニアが火球を撃ち出した。
他のみんなも中級魔法程度の攻撃を連射する。
「……!!!」
漆黒の人形は煩わしそうに吠えた。
それでもなお、みんなは攻撃を止めない。
俺の指示通りに、軽い攻撃を連打する。
今の俺は、さながら指揮者だ。
みんなの動きを把握して、次の行動を指示する。
これもまた、ビーストテイマーの一つの戦い方なのだろう。
「今っ! ソラとルナ、ニーナとティナは目くらましの攻撃を! 残りのみんなはヤツの懐に潜り込み、空に打ち上げてくれ!」
「ふふんっ、今度こそ我の超絶最強の力を見せつけ……」
「フラッシュインパクトッ!」
「我の出番を奪わずにはいられないのか、姉よ!? ええいっ、フラッシュインパクトッ!」
「……じゃんぷ」
「からのー、ウチの回転大魔球っ!」
四人の攻撃が炸裂して、漆黒の人形が仰け反る。
目くらましをするだけでいいんだけど、威力が高すぎたみたいだ。
相手の動きを封じることができたから、まあ、うれしい誤算としておこう。
「私と!」
「あたしと!」
「ボクの!」
「「「コンビネーションッ!!!」」」
カナデとタニアとリファが漆黒の人形の懐に潜り込み、一斉に拳を放つ。
そのまま蹴撃に繋げて、最後に回し蹴り。
「……!!!?」
圧倒的な威力の攻撃を受けて、漆黒の人形が宙に吹き飛ばされた。
今なら、どれだけ高威力の攻撃をぶつけても、周囲に被害が出ることはない。
「イリスッ! って……え?」
「ふふっ、待っていましたわ。準備は万全です」
イリスの長い髪は無重力状態にあるかのように、ふわふわと揺れていた。
それだけではなくて、淡い輝きを放っている。
ついでに、長さが倍近くになっていて、足元にまで伸びていた。
そしてなによりも、背中の翼。
八枚の鳥のような翼は消えていて、代わりに光で編み込まれた巨大な蝶のような羽が顕現していた。
その大きさは、三メートルほどだろうか?
本人の体よりも大きい。
「その姿は……?」
「あら。レインさまは『覚醒』を知らないのですか?」
「えっ!? イリスって、自力で『覚醒』状態に移行できるのか!? というか、そんな姿になるのか!?」
「詳しい説明は後にして……これが、わたくしの『覚醒』ですわ。この状態ならば、真に最強の一撃を放つことができます」
イリスは宙に浮かぶ漆黒の人形を睨みつけて、
「さあ、終わりにいたしましょう……終焉の白撃っ!!!」
世界が光で包まれた。
ゴォオオオッ!!! と大気が怒り、荒れ狂う音が聞こえる。
それと同時に、衝撃波が辺り一帯に撒き散らされた。
その威力は相当なもので、ふんばらないと転がってしまいそう。
「……終わった、のか?」
ややあって目を開けると、晴れた空が見えた。
漆黒の人形なんて、どこにもいない。
「あっ」
どこからともなく淡い光が集まり、それが人の形をとる。
ほどなくして、光はアルファさんとなった。
「ふふっ、うまくいったみたいですわね。レインさま、見事な指揮でした」
イリスはいつの間にか元に戻っていた。
俺の指揮が見事と言うが……
最後の最後で、イリスがなにもかもかっさらっていったような気がする。
さすがというか、なんというか……
俺、よくイリスに勝つことができたなあ、としみじみと思うのだった。
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