367話 ナイトメア
「うあっ……!?」
突然、アルファさんが苦しそうな悲鳴をあげた。
己を抱きしめるようにしつつ、悶え苦しむ。
「アルファさんっ!?」
「ぐっ、うううぅ……これは!? 私の中に、異質な力が……この力、は……!?」
アルファさんは己の胸に爪を突き立てる。
まるで、体の中で暴れる寄生虫を取り除こうとしているかのようだ。
その顔は苦悶に満ちている。
たっぷりの汗を流して、顔色はどんどん青くなる。
「これは、私を……くうううっ!?」
「アルファさんっ!」
「逃げて、くだ……さ……」
そこで言葉が途切れて、アルファさんの全身がビクンと震えた。
なにかに侵食されているかのように、手足の先が黒く染まる。
それは、やがて全身に広がり……
「アアアアアァッ!!!」
闇が膨れ上がり、弾けた。
それは、孵化のように見えて……
「あれは……」
「魔族……ですの?」
俺とイリスの乾いた声が響いた。
共に険しい視線をして、ソレを見る。
いつか対峙した魔族と同じように、巨大な体は闇のような色をしていた。
一応、人型を保っているが……
顔らしき部分には、目も口も鼻も、なにもない。
「最強種を魔族に変えてしまう……? まさか、そのようなことが……」
「いや、ちょっと違うのかもしれない」
「どういうことですの?」
「アルファさんの夢は、まだ解除されていない。つまり……」
「……あの魔族は、アルファさんの力を奪った者が作り出した、夢の産物?」
「たぶん、そんな感じになると思う。もっとも、アルファさんの夢だから、きちんと実体があるだろうけど」
嫌な汗が背中を伝う。
最強種をベースにして作られた人工魔族。
SランクにSランクをかけ合わせているようなもので……
その力は、ハッキリ言って想像できない。
「レインさんは我が主の意向があるため、どちらでもいいのですが……しかし、イリスさんを見逃すことはできません。私達に逆らう以上、ここで死んでください」
「なるほど。最初から、わたくしのことを疑っていたのですね。まあ、あのような曖昧な態度を取り続ければ、当たり前のことですか……」
「では……優雅に私の幻影と踊り続けてください」
それが合図なのだろう。
漆黒の人形が動いた。
その体は、五メートルほどだろうか?
それだけの巨体ならば、速度が殺されているのではないかと期待したのだけど……
「くっ……!?」
漆黒の人形は風のように速く動いて、その豪腕をぶちかましてきた。
避けられない!
「物質創造!」
石の壁を作り出して、盾代わりとした。
漆黒の人形は、それを簡単に打ち砕くものの、勢いは衰えた。
カムイを横に構えて受け止めて……
同時に、自ら後ろに飛んで吹き飛ばされる。
ゴロゴロと床の上を転がり、十数メートルほど飛んだところでようやく止まる。
「レインさまっ!」
「ぐっ……俺は、なんとか大丈夫だ! それよりも、気をつけろ! そいつ、パワーだけじゃなくてスピードもとんでもないぞ!」
漆黒の人形は、すでに追撃の体勢に入っていた。
それを阻止するべく、全力で魔法を放つ。
「ファイアーボール・マルチショット!」
複数の火球が漆黒の人形を包み込み、大爆発する。
漆黒の人形は、アルファさんがベースになっているが……
以前、ホライズンで戦った魔族は人がベースになっていたが、撃破した後、無事に保護された。
そのことを考えれば、たぶん、手加減は必要ない。
というか、手加減をしている余裕はない。
そんなことをすれば、一気に飲み込まれてしまう。
「来たれ、異界の炎」
炎に炎をかぶせるように、イリスは召喚魔法を使用した。
さらなる爆炎と轟音。
頭のてっぺんから足の爪先まで、余すところなく、漆黒の人形は炎に包み込まれる。
これで倒れてくれればいいのだけど、それは甘い考えというものだろう。
さらなる追撃を叩き込むべく、俺とイリスは魔法を……
「っ!?」
瞬間、とてつもない悪寒を覚えた。
死の予感。
「イリスっ!」
俺はその場から横に跳んで、さらにイリスを抱えて、大きく離脱する。
直後、
ザンッ!!!
爆炎の中から黒い刃のようなものが無数に飛び出してきて、さきほどまでいた空間を貫いた。
「なんですの、あれは!?」
煙が晴れて、漆黒の人形の姿が見えるように。
サボテンのように、その体から無数の刃が生えていた。
伸縮自在。
硬度も自由に変更可能。
そんな刃を全身に生やして……
一斉に攻撃をすることができる。
そんなところだろうか?
「なんて厄介な……これじゃあ、うかつに近づけないな」
「かといって、敵は遠距離にも対応している様子。ペースを握られたら、なかなかにまずいですわ」
「リスクを承知で懐に飛び込み、一気にダメージを与えるしかないか……イリスは援護を頼む」
「わかりましたわ。しかし……もう少し、手があれば……」
イリスの言う通り、俺達二人だけで相手をするには、正直なところ、手に余る相手だ。
みんながいれば……!
そう思わずにはいられない。
ただ、この時の俺は忘れていた。
みんなは……しっかりと期待に答えてくれる、頼もしい仲間だということを。
「うにゃあああああ……」
どこからともなく、そんな声が聞こえてきた。
この声は……空から?
反射的に上を見ると、
「にゃんっ!!!」
空からカナデが降ってきて、そのまま漆黒の人形を痛烈な勢いで殴りつけた。
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