366話 解決……にはならず
あまりにもあっけない終わり。
故に、罠を疑ってしまう。
「……今、なんて?」
「私の負けです。夢を解除します」
聞き間違い、ではないみたいだ。
ただ、さすがに素直に信じることはできない。
アルファさんは騙し討ちするような人には見えないが……
追い詰められている中で、どんなことをするかわからない。
イリスも同じ考えらしく、警戒は解かない。
鋭くアルファさんを睨みつけている。
「やけに素直ですね。少し前に話をした時は、絶対に譲らない、という姿勢を崩すことはなかったのに。なにか企んでいるのですか?」
「……そう思われても仕方ありません。イリスさんの懸念は、もっともでしょう」
「あら……?」
ここでも素直に肯定されてしまい、イリスは拍子抜けしたような顔になる。
なにかおかしいな?
アルファさんはおとなしそうな人ではあったが、その内に、とても強い芯があるように見えた。
理想のため、自分が信じた幸せを人々に分け与えるため。
全力を尽くすように見えたのだけど……
「この塔は私が生み出したもの。故に、内部で起きたことは、離れていてもある程度把握することができます」
「つまり……?」
「レインさんとイリスさんの戦いを見ていました。その最中に発せられた、二人の言葉を聞いていました」
アルファさんは、そっと胸元に手を置いた。
その奥にある心に触れて、表にさらけだすように……
静かに言葉を紡ぐ。
「私は、自分が正しいと思っていました。だからこそ、この計画を実行に移しました。しかし……お二人の言葉を聞いた今、正しいと胸を張って言うことができなくなりました」
それは、俺達の言葉がアルファさんに届いたということ。
それが本当なら、うれしいと思う。
アルファさんと対立することになったものの……
でも、一度たりとも憎んだりしたことはない。
敵意を抱いたことはない。
信念は異なっているものの、アルファさんは人のことを考えている。
誰かのための思い、行動している。
そんな人に刃を向けることを、本当は、わずかにためらっていた。
そんな必要がないというのなら、歓迎すべきことだ。
「レインさま、簡単に信じてはいけません。罠という可能性もありますわ」
「イリスは疑り深いなあ……」
「レインさまが、お人好しすぎるのですわ」
ちょくちょく仲間にも言われていることなので、否定しづらい。
「安心してください。私の言葉にウソはありません。お二人と争うつもりはありませんし、順次、夢を解除していきましょう」
「なぜ、すぐに解除しないのですか? 時間稼ぎのためでは?」
「え、いえ……そういうつもりはありません。ただ、今すぐに夢を解除してしまうと、この塔も消えてしまうことになり……そうなると、レインさんはただでは済まないと思うのですが?」
「あ……」
その結果を忘れていた、というような感じで、イリスが間の抜けた声をこぼす。
こんなうっかりを見せるなんて、珍しいな。
イリスも、実は気を張っていたのかもしれない。
アルファさんと対面して話をすることで、多少、緩んだのだろうか?
「私は、レインさん達の言うことに全て従います。私が信じられないというのなら、拘束するなり無力化するなり、ご自由にどうぞ」
「いや……そこまでしないよ。とりあえず、一緒に塔を降りようか。ここにいたら、夢を解除できない」
「……私を信じるんですか?」
「信じるよ」
即答すると、アルファさんが驚きに目を大きくした。
隣のイリスは、やれやれという顔をしつつ、その口元には笑みがある。
「前もどこかで言ったような気がするけど……疑うよりは信じた方がいい。それで裏切られるとしたら、まあ、仕方ない。甘んじてその結果を受け止めて、その後は……なんとかするさ」
「……ふふっ」
アルファさんが、堪えられないという感じで小さく笑う。
「本当におもしろい人間ですね……まるで、あの人のよう」
「あの人?」
「私が愛した人です。子供のように無邪気で、とても純粋な人」
「その人は、今どこに……?」
「……もう、いません」
ある程度、答えは想像ついていたのだけど……
いざ答えを聞くと、なんともいえない気持ちになる。
やはりこの人は、心を引き裂かれるような痛みを知っている。
その痛みに苦しみ、泣いて……
そんな思いを味わったからこそ、他の人を救おうとしたのだろう。
その方法は歪んでいたけれど……
でも、想いはたしかなものだと、そう言えた。
「では、塔を降りましょうか」
「……アルファさん」
「はい?」
「あなたの方法は認めることはできません。夢を見ても、根本的に、幸せになることはできない。その点では、俺は何度でも対立します」
「……はい」
「でも……それ以外の方法なら、受け入れることもあります。だから、なんていうか……これからも、アルファさんらしくあってください」
「……」
アルファさんは、一度、目を大きくして……
次いで、柔らかく微笑んだ。
「はい。約束しましょう」
「ええ、約束です」
握手を交わす。
この瞬間、俺とアルファさんの気持ちは本当の意味で通じ合い……
カグネで起きている事件が解決した。
……そう思った、その時。
「めでたしめでたし……となってしまうと、こちらとしても困ってしまいます。なので、あなた達が手を取り合う展開は、なしとさせていただきましょう」
どこからともなく女の声が響いてきた。
聞き覚えがある……
というか、そうそう簡単に忘れられるわけがない。
「モニカっ!?」
「少しぶりでしょうか、レインさん」
くすくすと笑う声が響く。
慌てて周囲に視線をやるものの、モニカの姿は見当たらない。
イリスも魔力を使い、探知しているようだけど……
「……ダメですわ。わたくしの力でも、モニカさんの居場所を特定することができません」
最強種の……しかも、天族であるイリスを欺くほどの力?
そんなものが、この世にあるというのか?
「無駄ですよ。私の幻影は最強種といえど、簡単に破ることはできません。それは、カナデさん達との戦いで証明されたこと」
「なんで、モニカがそんな力を……」
「そのように、幼い頃から鍛えられてきましたから。と……少し、おしゃべりがすぎましたね」
鍛えられてきた?
それは、まるで……
俺と同じみたいじゃないか。
「私の幻影とアルファさんの夢を見せる力……とても相性がいいですね。このまま放置して、なくしてしまうのはもったいないので、そっくりそのまま、強奪させてもらいます」
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