365話 最上階へ
無事にシフォンを退けることができた。
残るはアルファさんだけ。
話をするなり力づくなりして、結界を解除させる。
それで終わりだ。
「ただ……シフォンはどうしたものかな」
こんなところに、気絶しているシフォンを一人置いていくわけにはいかない。
もう敵対することはないと思うから、目が覚めるのを待ってもいいんだけど……
シフォンも敗れた今、アルファさんがどんな行動に出るかわからないため、できることなら急ぎたい。
とはいえ、シフォンを放置するわけには……
「あら、レインさま?」
階段を上がり、イリスが姿を見せた。
その後ろに、ミルフィーユとショコラもいる。
一緒に行動しているところを見ると、和解したという感じかな?
「「シフォンッ!」」
倒れているシフォンを見て、ミルフィーユとショコラが駆ける。
すぐにシフォンを抱き起こして、その顔色を見る。
「大丈夫、気絶しているだけだから。怪我もほとんどないと思う」
「これはー、レインさんが?」
「シフォンを相手に、よく手加減をする余裕があったな」
「……たぶん、心の奥底ではシフォンも迷っていたんだと思う。だから、全力を出せなかった、っていうところかな」
シフォンが本気で俺を拒絶するなら、とっておきの切り札……魔法剣を使えばいい。
あんな強力な攻撃を繰り出された場合、どうなっていたことか。
でも、シフォンはそうしなかった。
普通に剣で戦うだけで、魔法剣どころか、魔法すら使おうとしなかった。
本人は自覚していなかったみたいだけど、やはり、迷いがあったんだと思う。
それが枷となり、行動を縛っていたのだろう。
「ミルフィーユとショコラは、ここでシフォンの様子を見ていてくれないか? こんなところに一人にしておくわけにはいかないし、誰かが残らないと」
「それは構いませんがー」
「……レインは、終わらせるつもりなのか?」
「ああ、終わらせるよ」
ショコラの問いかけに、しっかりと頷いてみせた。
「そうか……任せた」
「任された」
ミルフィーユとショコラも、夢を終わらせることに納得しているみたいだ。
たぶん、イリスがなにかしらしたんだろうけど……
いったい、どんなことをしたのだろう?
気になるけど、答え合わせは後だ。
今は、先に進まないといけない。
「イリス、行こうか」
「ええ。レインさまの言うとおりに……」
イリスと二人、階段を登る。
数階分、上に移動するのだけど、新しい敵は現れない。
おかしいな?
体感的に、そろそろ最上階に到着するはずだ。
それなのに、守りが厚くなるどころか薄くなるなんて……もしかして、打ち止め?
シフォンたちが最後の要で、以降はなし?
アルファさんは、用心深いというか抜け目ないというか……こんなにも簡単にいかないような相手と感じたはずなんだけどな。
シフォン達が突破されても、さらに二つ目、三つ目の壁を用意していてもおかしくはないんだけど……
「レインさま」
「うん?」
「疑問はもっともですが、ひとまず、今は目の前に集中いたしましょう。答え合わせは、自然と出てくるものですわ」
「……そうだな」
イリスの言う通りだ。
疑問に囚われて、思考を乱さない方がいい。
もう少しで、アルファさんの喉元に辿り着くのだから……最大限の警戒を。
「ありがとう、イリス。おかげで、冷静になることができた」
「いいえ、どういたしまして。今のわたくしは、レインさまの忠実な下僕みたいなものですから」
「なんだ、それ?」
「ふふっ、そういう心境ということですわ」
わかるようなわからないような……?
って、また別のことを考えてしまっている。
集中……集中しないと。
今は、アルファさんの件だけを解決することに注力する。
そして……
「ここが最上階か……」
「そのようですわね」
空が見えて、階段の類はない。
つまり、ここが終着点だ。
最上階は今までの階と違い、かなり広い。
縦横に十倍ほど。
どのような作りになっているのか、それほどまでに広い。
「おまちしていました」
階段を上がってすぐのところに、アルファさんの姿があった。
他に人はいない。
おかしいな?
魔物を生み出している第三勢力がいるはずなのだけど……
塔の外からの遠隔なのか?
警戒はしつつ……
今は、アルファさんとの対話に集中しよう。
「ここまで来たぞ、アルファさん。あなたの夢、止めさせてもらう」
「ふふっ、決着をつけましょうか」
俺とイリスは、それぞれ構えた。
それを見たアルファさんが、わずかに険しい顔になる。
「……最後にもう一度、問わせていただけませんか? あなたたちは、私の夢を受け入れる気はありませんか?」
「「断る」」
俺とイリス、ぴたりと声を重ねて即答した。
「アルファさんの夢の全てを否定するつもりはない。一時的な避難なら、問題はないと思うさ。でも、夢にずっと浸るというのは、ダメだ。間違っている。そんなことをしても、辛いことから逃げられない。それどころか心が弱くなり、もっと致命的なダメージを受ける。現実がどんなに辛くても、立ち向かい、強くならないといけないんだ」
「あなたの言葉についつい乗ってしまい、力を貸してしまったわたくしですが……だからこそ、わたくしの失敗はわたくしが正さないといけません。覚悟していただけますか?」
「やはり、そういう答えになりますか……」
アルファさんは、小さな吐息をこぼした。
俺達の答えは予想していたはず。
俺達が折れないと理解していたはず。
ならば後は、互いの信念をぶつけ合うだけ。
そして……最後に立っている方が勝者だ。
「ならば……」
アルファさんは険しい顔をした。
大気が熱を持つほどの、激しい闘気をみなぎらせる。
そして……
「……ふぅ」
再び小さな吐息をこぼす。
それと同時に闘気が霧散した。
険しい表情も消えてなくなり、穏やかな顔になる。
その変化の理由がわからず、俺とイリスがぽかんとする中……
「わかりました。私はお二人の言葉を受け入れて、素直に夢を解除しましょう」
アルファさんは、そんなことを口にするのだった。
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