361話 意味のない戦い
「さあ、いきますわよ。来たれ、異界の炎」
まずは様子見というように、イリスは炎を召喚した。
竜のごとく荒れ狂う炎がミルフィーユとショコラに襲いかかる。
本当に手加減をしているのか疑いたくなるような、苛烈な攻撃である。
紅蓮の業火が二人を焼き尽くす……
その前に、ショコラが大盾を構えて前に出た。
「私の守りは鉄壁だぞ」
業火がショコラに襲いかかる。
いくら強靭な盾だとしても、全てを防ぐことは叶わないだろう。
イリスはそう思うのだけど……
「これは……!?」
ショコラの大盾が光に包まれたかと思うと、一気に巨大化した。
思わぬ光景に、さすがのイリスも唖然としてしまう。
業火が大盾に着弾。
嵐のように炎が撒き散らされるのだけど、壁のような強大な大盾が全てを守る。
ショコラはもちろん、ミルフィーユに一切の攻撃が届いていない。
「ホーリーアロぉ~」
どこか気の抜けた声がして、光の矢がイリスに向けて放たれた。
ミルフィーユの魔法だろう。
光の矢は一般の神官が使うものより大きく、早い。
しかし、イリスからしてみれば大した脅威ではない。
翼を羽ばたかせて、回避をしようと……
「ブレイクぅ~」
「なぁっ!?」
突如、光の矢が分裂した。
一本が二本に、二本が四本に、四本が八本に……
最終的に三十二本となり、雨のごとくイリスに降り注ぐ。
「くっ……来たれ、異界の炎!」
さすがに回避は難しい。
イリスは即座に炎を召喚して、光の矢を相殺した。
「今の……なんですの?」
「ふふっ、私は魔法のアレンジが得意なんですよ~。なので、こんなことも」
ミルフィーユは再び光の矢を生み出した。
今度は分裂させるのではなくて、合体させていく。
そうして極大の光の矢を作り出して、撃ち出す。
「曲芸師もびっくりですわね……」
感心するというよりは呆れながら、イリスは召喚魔法で光の矢を迎撃した。
そこで行動を終えることはなくて……
「来たれ、異界の炎。来たれ、嘆きの氷弾。来たれ、殲滅の雷撃」
立て続けに召喚魔法を行使する。
果てのない多重連続攻撃。
これこそがイリスの真骨頂だ。
「あなたの防御性能には驚きましたが、しかし、多面的な攻撃はどう防ぐのですか? 見せてもらいますわ」
炎と氷と雷が、ありとあらゆる角度からショコラとミルフィーユに迫る。
逃げる隙間はない。
しかし、ショコラは慌てない。
ミルフィーユも焦りを見せることはない。
ショコラは、どことなく不敵な顔をしつつ、再び盾を構えた。
盾の下部を床につけて、がっしりと構えた後、大きな声で叫ぶ。
「全方位防御、だぞ!」
盾が再び変形する。
今度は単純に巨大化するのではなくて、曲面を描いて上下左右に広がる。
やがて盾は円を形成して、ショコラとミルフィーユをすっぽりと包み込んだ。
「なっ……そ、そんなのアリですの!?」
さすがにイリスが驚きの声をあげる中……
複数の攻撃が球状に変形した盾に激突した。
轟音が連続して響くものの、ショコラの鉄壁を突破することはない。
攻撃が終了したところで、盾が元の形態にゆっくりと戻る。
その盾は生き物なのか?
さすがに反則ではないか?
ついつい、そんなことを考えてしまうイリスだった。
「ふふんっ」
大盾を通常の形態に戻したショコラは、誇らしげに薄い胸を張ってみせた。
イリスの攻撃なんて通じない、そう言っているかのようだ。
「お前の攻撃なんて通じないぞ。弱っちいのだ」
いや。
ショコラは実際に口にしていた。
「へぇ……」
イリスはこめかみの辺りをピクピクとひくつかせた。
こちらが手加減していれば、いい気になって。
全力全開の一撃を叩き込んでも、なお同じことが言えるかどうか試してやろうか?
物騒なことを考えるイリスではあるが、さすがにそれはしない。
全力を出そうものなら、この塔を破壊してしまいそうだし……
それ以上に、再び人を殺したとなれば、レインに合わせる顔がない。
「しかし……厄介ですわね」
ショコラもミルフィーユも、なかなかの強敵だ。
それなりに本気を出さないと、倒すことは難しいかもしれない。
「もっとも、別に倒さなくてもよいわけですが」
レインとシフォンは上層へ移動した。
ちょくちょく音が響いているところを見ると、そちらで戦闘を繰り広げているはずだ。
レインの助けになればいいだけなので……
無理にショコラとミルフィーユを倒す必要はない。
勇者が無力化されれば、二人も自然と諦めるだろう。
「……あら?」
そこまで考えたところで、イリスは違和感を覚えた。
この二人……真剣に戦っているのだろうか?
「少しよろしいですか?」
「おー、なんだ? 降参か? 私達は寛容だから、降参は受け入れるぞ」
「違いますわ」
イリスは笑顔を引きつらせる。
どうして、この女は人の感情を逆なでするのがうまいのだろう?
反射的に攻撃したくなるのを堪えつつ、質問を続ける。
「あなたたちと戦い、そして、とある結論にたどり着いたのですが……質問してもよろしくて?」
「えぇ、なんなりとー。質問があるのならば、どうぞー」
ミルフィーユはマイペースに応える。
それは、本当にいつもと変わらないミルフィーユの姿だった。
「新しい勇者は、この夢を終わらせまいと必死な様子を見せていましたが……あなたたちは違いますわ」
「……」
「それほど、この夢に執着しているようには思えません。わたくしの感想ではありますが……正直、どちらでもいいと思っているような気がしました」
「……」
「ねえ、教えてくださらない? あなたたちは……夢を見ることについて、どう考えているのですか?」
色々とあってまた引っ越しをするので、更新を一週間休ませていただきます。
更新再開は4月29日を予定しています。
詳細は活動報告にて。
よろしくお願いします。




